それともハロウィンの悪戯?
だけど確実に、それが私達をひきあわせた。
Secret Honey -2-
それを知ったのは、私がまだホグワーツに入学したてのころ。
図書館にある恋愛小説を片っ端から読んでいたときにみつけた、
ビロードのようにやさしい手触りの、不思議で怪しげな本。
背表紙の文字は、かすれて読み取れなくて。
「えす、いぃ・・・?」
『 Secret Love 』
表紙にはそう、書かれてあった。
見たこともない題名、ましてや作者もわからない。
どんな恋愛小説なのか、期待で胸がいっぱいだった。
ドキドキしながら表紙を開くと、幾年を経た羊皮紙が数ページ。
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『汝、真実を求めるのであれば以下のごとく処するべし。
1.制服に身を包み、この仮面を被るべし。
1.偶数月14日25時、仮面の導く場所へ向かうべし。
1.名は明かさずに、心のままに行動すべし。
1.仮面は返却無用、手に取った瞬間、汝のものとなる。
我は祈る、汝が真実をその手に入れられんことを・・・』
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最後のページをめくると、そこにあったのは・・・
「仮面?」
残りのページ部分が、そっくり箱のようになっていて。
目の部分だけを覆う真っ白な仮面が一枚、入っていた。
「なに・・・これ。」
白いけれど、冷たいような、なんとも薄気味悪く感じて。
意味もわからず、勇気もなかった私は、その本を元の場所に戻した。
すっかりその存在を忘れ、月日は流れ、ホグワーツを離れ・・・。
けれど、その日は突然訪れた。
教師として迎える、何度目かのハロウィン。
生徒だけでなく、先生までも仮装するのがホグワーツ流。
「みなのもの、楽しく過ごしてよいぞ。悪戯は、ほどほどにな。」
そんな朝食でのダンブルドア校長のスピーチが、生徒の歓声に
かき消されてはじまったハロウィン。
けれど気がつけばもう夕方。
夕暮れのお祭りムード満点な校内で、ぼんやりと散策していた私を、
ある生徒が呼び止めた。
「・・・先生! 先生!」
「あら、アンジェリーナ。ハッピーハロウィン!」
「ハッピーハロウィン! 先生はホグワーツの卒業生ですよね?」
「ええ、もうだいぶ経ってしまったわ・・・。」
話しかけてきたのは、グリフィンドール寮のアンジェリーナだった。
クィディッチが得意なだけあって体格も良くもちろん背が高い。
明るくて利発な彼女は、リーダーシップが取れる魅力的な生徒。
そして私を姉のように慕ってくれている。
「せっかくだし、先生も仮装してみませんか?」
「え?」
「これ、いかがですか?」
ニッコリと彼女が差し出したのは、見慣れたスカートにブラウス、
紺のニットにはグリフィンドールの校章がしっかりとそして。
「・・・グリフィンドールのタイ?」
「先生にプレゼント! 私にはもう小さいから。」
「アンジェリーナ。」
「久しぶりに生徒になってみるのも、一興かなって。」
「・・・なんだか、面白そう。」
「それ、先生にあげるから。楽しんでね!」
彼女にお礼を言って、足早に自室にもどると早速着替えた。
懐かしい感覚。
確かにサイズは問題ないのだけれど、
「ちょっとスカートが・・・短い?」
生徒の間では、確かに短めのスカートが流行っているけれど、
まさか自分が履くことになるとは。
ハイソックスでは肌寒くて、黒いニーハイに足を通す。
ひっつめの髪をほどけば、ゆるいウェーブのかかったセミロング。
淡いピンクのリップをそっと唇につけて。
鏡に映るそれは、間違いなくミニスカート姿のグリフィンドール生。
「童顔でよかったような・・・うぅん。」
いつになく独り言をつぶやきながら、身支度をしてしまう。
若干戸惑いながらも、生徒にバレない気がしてくるのが、不思議。
「うん、久しぶりに図書館の小説を読むのもいいかも!」
そっと自室をでて、回廊へ。
さすがに教師になってからは、図書館といえば授業の資料をまとめる
事務的な場所でしかなく、小説のこともすっかり忘れていたのに。
足はあの頃のように、図書館へと向かう。
すれ違う生徒もとくに気づいていないようで、先生として呼び止め
られることもなくて。
「うそみたい。」
すっかりホグワーツ生になりきってしまう。
一歩づつ、その歩みを進めるごとに、気分までもが学生時代に、
もどって行くような・・・ワクワクする感覚。
「うわ、増えてる!!」
人気のほとんどない小説棚には、5年前よりも恋愛小説が増えていた。
どれから読もうか、なにがいいか、なんて。
背表紙に指をそえて、面白そうなものをいくつかチェックしてみる。
「・・・これって?」
懐かしい、やさしい手触りの良い本。
背表紙の文字は、あいかわらずかすれて読み取れなくて。
『 Secret Love 』
その本だった。
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