思いやりの気持ちが生んだ、小さな嘘。
それはやさしくて、きれいな嘘。
だからお願い、あやまらないで。
Introvert Lovers -07-
「少しは落ち着いたかな。、ありがとう。」
「うん。」
フレッドの傍らに跪き、私は彼の右手をそっと包み込んでみた。
息はまだ少し荒いけれど、飲ませた薬がききはじめたのか、
フレッドは先ほどよりもだいぶ穏やかな顔で眠っている。
(よかった。)
ほっとした瞬間、さっきまで悩んでいた心のもやもやが、
その頭をむっくりともたげた。
「ジョージ。今日の宿題を教えてくれたのは、ジョージよね?」
ジョージが支える氷嚢から、カラリカラリと氷が踊る音がする。
少しの沈黙の後、ジョージは視線を落としたまま、その唇を動かした。
「ああ。」
「やっぱり。。。」
疑念は、確信に変わった。
やっぱり、フレッドじゃなかった。
すこし安心できたはずのに、まだ、不安はぬぐいきれない。
「でも、今日だけだったんだよ、。」
「え?」
そういって、まっすぐ私を見つめるジョージの瞳に、偽りはなかった。
私の不安な心が、ジョージにはすっかり見透かされている。
「フレッドは、直前まで約束を守ろうとしたんだよ。」
「・・・。」
「ただクィディッチの練習が体調を悪化させたというか。
夕食も部屋で取るからって、あの大食らいが寮に戻った位にね。」
「そう、、、だったの。」
私の心に沸き起こっていた不安が、徐々に薄れていく。
あの時、夕食を差し入れてくれたのは、間違えなくフレッドだった。
「僕が部屋に戻ってみたら、アイツ、食事もまともにとれていなくて。」
「熱で?」
「ああ。そして僕は、フレッドに宛の伝言を頼まれた。」
ジョージがスっと差し出したのは、羊皮紙の紙切れ。
フレッドと同じ、大きな彼の手から受け取り、開くと、そこには『何か』が
書かれているようなのに、あまりにも文字がブレて、残念ながら読み取れない。
「これが、伝言?」
「ほら、読めないだろ? だからアイツの代わりに勉強をみたんだ。」
「フレッドとして?」
「そう。まぁ・・・バレない自信はあったんだけどさ。」
ジョージは氷嚢の位置を変えながら、そうつぶやいた。
ダークグリーンのシャツにブルージーンズ、バックスキンのシューズから、
クロムメッキのバックルが特徴的なブラックエナメルのベルトまで、
なにからなにまで全く同じ、揃いの装い。
1年前の私なら、このふたりを見分けることなどできなかっただろう。
それだけに、痛いほど伝わってくる。
フレッドの優しさも、ジョージの優しさも。
(私、からかわれたわけじゃ、なかったんだ。)
フレッドは私を、ジョージはフレッドを。
お互いを思いやり、それを行動にしたまでのこと。
それなのに。
私はふたりの優しさを、きちんと受け止められていなかった。
それどころか、疑っていた。
「ジョージ、ありがとう。」
「宿題の面倒をみたのは、僕の勝手な判断だけどね。」
「え??」
「いや、フレッドの伝言は。。。」
不意に、フレッドのうめくような声が聞こえた。
そっと彼の傍らに近づき、注意して耳をかたむけると、呪文のように
同じ言葉を繰り返している。
「…いけ、なく・・・て、ゴメン。」
「・・・フレッド。」
熱にうなされているからか、はたまた寝言なのか。
フレッドは相変わらず、謝罪の言葉をつぶやいていた。
「まぁ、それがフレッドからの伝言だったのさ。」
ミネラルウォーターで湿らせたミニタオルで、フレッドの口の周りを
そっと拭くと、フレッドの呼吸が指に伝わる。
私にとって大切な時間を、フレッドも大切に思っていてくれた。
「大丈夫だよ、フレッド。」
耳元で囁くと、フレッドはゆっくり頷いて、その口元に笑みを浮かべた。
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