もやもやした、気持ち。

ぼんやりとした、違和感。

沸き起こる不安に、私は飲み込まれた。



Introvert Lovers -05-






 「今日は散々だったみたいだね、。」

 「あ・・・フレッド。」


誰もいない談話室で、ヘトヘトの身体をソファーに埋めていると、

トレーを手にしたフレッドが、やってきた。

1時間目の魔法薬学に遅刻してしまった私は、ペナルティーとして

実験使用済みの鍋洗浄にはじまり、魔法薬学教室の居残り掃除まで、


 「ミス・。惰眠せず休み時間を使ってやればよいのだ。」

 「はい。」

 「なにかね。依存はなかろう?」


そう嫌味ったらしくスネイプに命じられてしまった。

ランチはハーマイオニーがくれたサンドウィッチで凌げたものの、

ディナータイムにいたっては残り15分しかなくて。

とうとう間に合わなかった。


 「はい、召し上がれ。」


サイドテーブルにおかれたのは、ホカホカのバターロールとスープ。

ふわりと鼻をくすぐる、温かな湯気に包まれた、美味しそうなコーンの香りが

食欲をそそる。


 「フレッド、ありがとう!!」

 「どういたしまして。」


そう言って微笑んだフレッドの瞳が、なんだか充血している。

疲れているのか、顔色もあまりいいとはいえなくて、いつものフレッドとは

違って見えた。


 「今日の練習、きつかったの?」

 「ああ、ちょっとね。」


そっけない彼の返事に、尋ねなければよかったと後悔の念が押し寄せる。

フレッドはといえば、そんな私にお構いなしで。

トレーに乗せたもうひとつのスープ皿をもって男子寮の方へ足を向けた。


 「・・・どうか、したの?」


声をかけるか迷ったけれど、気になってつい、言葉にしてしまった。

振り返ったフレッドは、少し困ったような顔をして、口を開いた。


 「あー、その。ジョージの奴、風邪をひいちまってね。」

 「そうなんだ。」

 「じゃぁ、。また後で。」

 「うん…。」


気にかかることがあるのに…。

笑みを浮かべた彼は、階段の向こうへと消えてしまい、残された私は、

朝と同じ、もやもやした気持ちを抱えたまま、まだ温かいバターロールを

そっと口に運んだ。



 * * *



 「、腹立たしくないの?! いくらなんでもあんまりだわ!」

 「いいのよ、ハーマイオニー。」


ディナーを終えて戻ってきたハーマイオニーは怒り心頭だった。

なだめようにも、聞く耳を持ってくれない。


 「男女平等のペナルティーは大切でも、これは別よ!」

 「でも、原因は私にあるんだし。」

 「あーーーっ、もう! ちょっとロンに話してくる。」


私自身、ここまで気にかけてもらえるのはとても嬉しい。

でも私と話しても埒があかないと思ったからなのか。

彼女はグレイトホールにいるであろう、ロン・ウィズリーのところへ、

そのやり場のない怒りをぶちまけに行ってしまった。

一人残された談話室には、食事を済ませた生徒が、ちらほら通り

過ぎていくだけ。


 「フレッド…大丈夫かな。」


人の気配があるたびに男子寮の階段に視線をむけるけれど、

あの長身で赤毛の彼が降りてくる気配がない。

先にいつもの場所へ座り、パラパラと教科書をめくるけれど。

時間になっても、私の向かいの椅子は空席のまま。

なんだか少し、寂しくなってきた…その時。


 「悪い悪い、遅れたね。」

 「フレッド!」


バタバタと大きな音を立て、階段から現れたのは、赤毛の彼。

にっこりと笑うその顔に、先ほどの違和感は感じなかった。

それどころか顔色もすっかり落ち着いていて。

いつものように宿題を解く私を見守りつつ、アドバイスをくれる。

そのスタイルに、かわりはないのだけれど…。

なんだか、いつもと、違う。

『何か』が違うのだけれど、『コレ』と断定して言葉に表せない。


 「フレッド。あの、ジョージは大丈夫?」

 「…ぁあ、アイツなら平気さ。一晩寝れば治るよ。」

 「そう。」

 「それより、ここの問題だけど…」


やっぱり。

ぼんやりとした違和感ばかり募る。

フレッドが、フレッドらしくない。

ジョージのことを私が口にすれば、いつもなら、十中八九そのまま

ジョージの話へと脱線することが多いというのに。

なんだか、、、変。


 「それじゃあ、一旦休憩しよう。」

 「・・・うん。」

 「、どうかした?」

 「ううん、なんでもない。また・・・後でね。」


夢のこととか、今この瞬間、心に沸き起こる不安とか。

できることなら、吐きだしたいけれど。

それができないままに、私は身支度を整え、バスルームへと向かった。




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