心が張裂けてしまわないように、臆病な位でいいのかな。

たった一言。

夢で逢う時みたいに、素直に、なりたい。



Introvert Lovers -04-






 「フレッドとずっと、一緒にいたい・・・な。」


今までのことを思い出していたら、ふと口から漏れた。

ベッドに横たわって、天井を仰いでいるのに。

浮かぶのはフレッドの顔。


 「フレッドが・・・好き、なのかなぁ。」


その言葉が、素直にいえたらどうなるのだろう。

でももしも、想いが叶わなかったら?

今のような関係も、フレッドとの素敵な時間も、終わってしまうの?

そんなことは、考えたくもない。

考えただけでも、心がはりさけそう。


 「今のまま、臆病な位でいいのかな?」


窓辺から差込む月明かりをぼんやりと眺めながら、私は眠りに落ちた。

その夜みた夢は、私の願望が見せたのであろう、幸せな夢。


暖かな日差しが差込むなだらかな丘。

短く刈られた芝生の匂いがする。

綺麗な青空に雲が綿菓子のように浮かんで。

フレッドと一緒に、私は大の字になって寝転んでいた。


 『。』

 『なぁに?』

 『大好きだよ。。。。』

 『私だって、フレッドのこと、大好き!』


私の手を、フレッドの手がそっと包んでくれて。

心が穏やかになって、うれしくて。

ただただ、幸せな夢。


瞼をあければ、見慣れた寮の風景。

窓の外に見える朝焼けが、まだ早い朝を教えてくれた。


 「夢の中なら、素直にいえるのに。」


もうすこしだけ、夢の余韻が残っていて。

まだ幸せに浸りたい私は、ベッドにもぐりこんだ。

願わくば、夢の続きがみたくて・・・。


けれど、それが間違いだった。


二度目の夢。

先ほどとはうってかわって、真っ暗な空間。

そのなかに、ぼんやりと見慣れた後ろ姿が現れた。


 『フレッド!』

 『ああ、。』


振り向いた彼は、私の知っているフレッドのはずなのに。

なんだか距離を感じる。

いつもと違うフレッドが、ゆっくりと口を開いた。


 『僕、実は・・・ジョージなんだよ。』


フレッドと、同じ顔、同じ背格好の彼が、同じ声でそう、答えた。


 『ぇ・・・え、えぇーーー!?』


自分の声に吃驚して、目が覚めた。

飛び起きても、心臓がドキドキしている。


まさか・・・ううん、大丈夫だよね。

フレッド、だよね。

私が好きになったのは、あの時間にいる、フレッド。

ジョージ、じゃないよね。

たしかにそっくりな双子だけど。


 「なんだか自信がなくなってきた・・・。」

 「なにぶつぶつ言ってるの? 。」

 「あ、おはよう。ハーマイオニー。」


すっかり身支度を整えた彼女は、丹念に髪の毛をとかしている。

いくら双子とはいっても少しぐらい見分けつく、よね?


 「ねぇ、ハーマイオニー。双子の見分け、つく?」

 「それって、フレッドとジョージのことよね?」

 「もちろん。」

 「悪いけれど、つかない、かしら。」


そういって、彼女はブラシを机の引き出しに片付けた。

つかないって、見分けがつかないってことよね??


 「それじゃぁ、二人がいれかわったりしたら・・・」

 「気づかないかもしれないわね、だれも。」


ブランケットを見つめたまま、何もいえなかった。

確信はない。

ただ、私がフレッドだと信じていただけ。

なにせ相手は悪戯好きで有名な双子。

まさか、日によって交代しているとか?

古典的とはいえ、やりやすい悪戯。


 「だれも、気づかない・・・」


1限目から魔法薬の授業だということも、私が当番だということも

すっかり忘れて、ベッドの上から動けなくなってしまった。

遠くで、早く支度をしたほうがいいという、ハーマイオニーの声が聞こえた。




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