フレッドと、同じ寮で、よかった。

悪戯やクィディッチだけじゃない、

いろんなフレッドを、知ることができたから。



Introvert Lovers -03-





フレッドとジョージからの説得力ある(?)提案に、

ハーマイオニーも渋々というか、共同戦線(?)を張った。

夕食後はまず、ハーマイオニーによる基礎の英会話教室。

文章構成能力を上げるための英文法理解を深めるために、週に1度、

パパやママ宛にふくろう便を作成して、に届けさせたりもした。

休憩とバスタイムを挟んで、就寝前は、双子による応用の英会話教室。

ゲームやイギリスを代表する音楽を取り入れた楽しい時間だったのに。

一週間とたたないうちに、応用の英会話の先生は一人に。

結局、フレッドだと名乗る彼だけになってしまった。

といっても、彼だけで、十分嬉しい私がいて。


 「は、ココアだよね。」

 「うん。マシュマロひとつ、お願いね!」


湯上りの身体を冷めないようにと、ホットドリンクを用意してくれるのは、

いつだってフレッドだった。

なによりフレッドの教えてくれる英会話は、ハーマイオニーほど厳しくなくて。


 「それじゃあ、いい? You are soooo clever.」

 「You are soooo clever.」

 「意味は・・・“御主も悪よのぉー"」

 「ぇえっ。。。」

 「ん? はサムライドラマを見ないのかい?」

 「それって・・・悪代官? ちょ、お、おもしろいっ!!」

 「・・・、ウケすぎ。」


腹筋が痛くなるくらい、笑った。

フレッドの教え方はおもしろおかしくて、そしてリラックスできた。

教科書どおりじゃない、日本のことや、私が知っていそうなドラマや

映画を上手につかった、英語を身近に感じる、なにより英語が好きになれる方法。

ハーマイオニーの教える基礎と、フレッドの応用で、私の語学力は

飛躍的に伸びていた。

それはクリスマス休暇で帰宅したときに、パパもママも驚くほど。

おかげでハーマイオニーの英会話教室は年内で卒業。

だから、フレッドとの時間も・・・。

考えたくないけれど、そのことを切り出されるのが、なぜか怖くて。

けれど休暇を終えて寮に戻ると、かわらないフレッドがいた。


 「やあ、。今日もいつもの時間に!」


ポンと頭を軽く叩いて。

そして休暇前と変わらない、応用英会話の勉強が始まった。

目の前にいたフレッドは、マグカップを手に暖炉へと向かう。

暖炉の炎で十分に熱くなったケトルから、お湯を注ぐ彼の背中。

今まで、何度も見てきたフレッドがココアを淹れてくれる風景。


 「今度は英会話だけじゃなくて宿題を見てあげようか?」

 「えっ、いいの??」

 「もちろん!1年生の勉強内容なんてソラでも言える。」

 「ちょっ!!」


そんなフレッドの提案に、私は二つ返事でOKした。

でも。

よく考えたら、フレッドはクィディッチの練習も始まるはず。

なのに・・・。

ふんわりと甘い、ココアの香りとともに、フレッドが目の前に。


 「明日あたりから夕食後は宿題で、寝る前に英会話の応用を・・・」

 「あの、フレッド・・・その、大丈夫?」

 「え? なにが?」


何を心配されているのかわからない、とでもいいたげなその声に、

ちょっと頼もしくもありつつ、私は心配してしまった。


 「フレッド、その・・・疲れないの?」

 「まさか! 僕はひ弱じゃないし。 それに。。。」

 「それに?」


瞬間、私を見つめるフレッドの瞳が、熱を帯びたかのように潤み、

今まで見たこともない、優しい微笑を浮かべていた。

そんな彼の表情があまりにも素敵で。

私の鼓動は一際ドクンと大きくはずみ、どうしてもフレッドの

次の言葉に、何かを期待せざるをえなかった。


 「には、落第、してほしくないからね。」

 「・・・え・・・落第・・・落第ですって!?」


色気も何も無い言葉に、唖然としつつも急に恥ずかしくなり、

顔が赤くなるのがわかる。

そんな私をみて、フレッドは嬉しそうに笑っていた。

まさにロンをからかうときと同じ表情。


 「落第なんて、ありえない!!」

 「じゃぁ、頑張らないとね♪」


先ほどとはうってかわってニヤニヤとしたフレッドがいて。

思わず私はため息をついた。

フレッドの体調を心配しながらも、『何か』を、一瞬でも期待するなんて。


 「そういえば、僕らの家の話、した?」

 「ううん?」


私にココアを差し出して、フレッドが話し始める。

今までもこうして勉強の後にはイギリスの風習や、ホグズミードの話、

ロンの小さい頃のことを話してくれたけれど、家の話なんて初めて。


 「僕らの家はね、隠れ穴っていうんだ。」

 「穴って・・・ユニークな名前なのね。」

 「そりゃ、なにせ部屋がこう、くっついてくっついてできているし」

 「くっついているの??? 大家族だからなの?」

 「広いというか、見てもらえば早いんだけど・・・ね。」


堪えられなくて、ククっと喉の奥で笑うのは、フレッドの癖。

言葉では足りなくて、だけど教えたいって気持ちが伝わってくる。

こうやって、いろんなフレッドの面が見えてきて。

フレッドと過ごす時間が楽しくて。

フレッドの笑顔が見たくて。


 (この時間が、ずっと続けばいいのに・・・)


口にできない言葉を、体の芯まで温まりそうなココアで、

私はそっと飲み込んだ。




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