なんだか切なさがこみ上げる。
国も、職業も、あまりにも・・・かけ離れていて。
Gravity of Love - Story 6 -
そうよ、そう。思い出した!
彼らの笑顔に見覚えがあったのは、映画館のスクリーンで見たから。
『あのスクリーンにいた双子が、あなたたち?』
OLIVERとJAMESを交互にみながら、たどたどしい英語で尋ねる。
『そうだよ、!』
『僕ら、だよ。』
2作品しか見ていなかった私だけれど、記憶に残っていた。
印象的だった、彼らの笑顔。
ふたりとも、その後のハリー・ポッターシリーズにも出演していて。
もちろん、それは今回の最新作も例外ではなくて。
「彼らが日本に来たのは、ようは映画のプロモーションなんだよ。
ちなみに俺は、ふたりの事務所に頼まれた通訳兼案内係兼小間使いさ。」
本当の、来日の理由をユージが教えてくれた。
ふとJAMESを見ると、すまなそうな、苦しそうな顔をしていた。
「Sorry、。ゴメン、あの、言えなくて・・・。」
渋谷の街中で、JAMESのことをあれこれ聞いてしまった私。
口を濁したJAMESの、あのときの困った顔も、今の辛そうな顔も、好きじゃない。
ねぇ、お願い。そんな顔、しないで。
あの状況で、いきなり俳優だとかプロモーションだとか言われても、きっと私は
混乱していただけだもの。
『JAMES、問題ないよ!私はあなたに会えてうれしかったもの。』
微妙な私の言葉を理解してくれたのか、JAMESの顔に笑みが広がった。
「よかった!」
ふんわりとほころぶっていう表現がぴったり。
JAMESの笑顔。
私を幸せな気分にさせる、彼の笑顔。
* * *
2人のリクエストというメキシコ料理は、ちょっと辛いけれど美味しい!
お酒がついつい、すすんじゃう。
ユージとOLIVERは、ひたすらワインを飲んでいる。
JAMESは、私と同じくコロナビールのボトル。
しゅわしゅわした炭酸が、気持ちいい。
ふと隣を見れば、ボトルを口につけるJAMESの姿があって。
彼の横顔が、またかっこよくて。
「? どうしたの?」
JAMESは不思議そうに聞いてくるけれど、さすがに言えない。
彼の横顔に、
その腕に、
指に、
じつは、見惚れているんだなんて。
「姉貴はルーズソックスじゃなくてハイソックス履いていたよな?」
「はい!?」
唐突にユージに聞かれてびっくりした。
いったい彼らはどんな話をしているのやら。
「そうね、濃紺のポロとか、バーバリーが多かったかな。」
『姉貴はハイソックスだよ。』
『よかった〜、ユージの姉さんはマトモで。化けモノみたいな格好が普通かと』
『ああ、あれは特殊なケース。顔が日に焼けていて目の周りが白い・・・』
『そうだよ!! あのメイクはありえない!! 化けモノだよ!』
なにやらユージとOLIVERは、イギリスと日本の高校について熱く語っていた。
きっと彼らが知り合ったころも、こんなふうに交流していたのかなって、
そんな様子がうかがえる。
国が違うのに、なんだか面白いなぁ・・・。
・・・あれ?
ホテルで会ったときよりも、3人の英語がとても聞きやすく感じる。
ユージも、そしてJAMESもOLIVERも。
耳が慣れてきたこともあるのかもしれないけれど、私にも理解しやすいように、
聞き取りやすい単語とスローな会話スピードを心がけてくれているみたいで。
「ユージ、・・・ありがとね」
我が弟ながら、その気遣いにうれしく思う。
「姉貴、まだ酔うには早いんじゃ?」
まったく・・・その切り替えし。ホント、我が家の血だね!
楽しいディナータイムも終盤。
ボリュームのあるメキシコ料理と美味しいお酒を堪能し、追加したデザートのパフェまで
しっかり食べるJAMESとOLIVERには、甘いものは別腹といいたい私も吃驚してしまうほど。
『、食べないの?』
「ええっ!? ちょっと無理、かな。」
『美味しいよ! はい、ひとくち!』
そういってJAMESがパフェをひとさじ、私の口へと運ぶ。
甘いバナナと冷たいバニラが口いっぱいに広がる。
『うん、美味しい!』
『だろ? ほらね〜。』
上機嫌で食べつづけるJAMESが、なんだか可愛くて。
こうして嬉しそうな彼を眺めていたくなったのは、もう何度目だろう。。。
* * *
ほろ酔い加減でホテルに戻ったのは、10時過ぎ。
「お茶でも飲んで、酔いをさまして帰れよ。」
明日以降の彼らのスケジュールのほうが気になるのだけれど、
めずらしく気の利く(?)弟の言葉をありがたくうけとり、
四人でエレベータに乗り込む。
ユージがカードを差込み、15階を押せば、その隣にOLIVERが立ち、
帰りのタクシーで盛り上がっていたサッカーの話をまた始めた。
ユージとOLIVERは気が合うのか、途切れることなく話している。
さすがに酔いがまわってきたのか、会話をするスピードが、通常だろうと
思えるくらいの、私には聞き取りにくい速さになった。
i−podを聞きはじめたJAMESは、私の左隣。
彼って、ほんとにマイペース。
でも、そんなところが可愛いと思えてしまう・・・ハマってるなぁ。
『あの・・・JAMESは好きなミュージシャンとか、いる?』
ニヤりと笑ったJAMESは、おもむろに右耳に入れていたイヤホンを取り外し、
私の左耳に、そっとはめた。
耳に触れたJAMESの指にドキリっと胸が高鳴りつつも、その自然な動きに胸騒ぎを覚えた。
♪Hey〜 Lyla!!
流れてきたのは、日本でも流行ったオアシス。
『あ、私、この曲、知っているよ!』
JAMESは、その言葉に満足そうな顔で答える。
胸騒ぎが、確信にかわる。
これは女の勘だけれど、彼は、女の子のツボを心得ている。
ううん、わかっているというか、自然と備わっている。
20代前半にして、この扱いの上手さ・・・ヤバイ。
私は彼にかなりハマりはじめているもの。
同じ音楽を聴きながら、イヤホンを片方づつ使っているというだけなのに。
胸がドキドキする。もう、息ができなくなるくらい、苦しい・・・。
「?」
JAMESが心配そうに顔を覗き込んでいる。
そのあまりの近さに、より一層私の心臓は悲鳴をあげた。
気がつけばすでに、15階に到着していて。
なかなか動かない私をJAMESが気にしてくれたのだ。
「姉貴、マジでやばいんじゃ?
エキストラベッド入れるから泊っていけよ。」
ユージまで、私が酔いつぶれたのではないかと心配している。
「ううん、大丈夫だよ!!問題なぃ・・・」
あれれ?
クラクラ・・・してきた。
やっぱりテキーラは、やめておけばよ・・かっ・・・
そう、ここで私の記憶はプツリと途切れた。
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