スクリーンの中で微笑むあなたの笑顔は、とても印象的だったから。
それは今も、変わっていない。
Gravity of Love - Story 5 -
「James」
私の耳には、確かにそう、聞こえた。
さすがに動揺しているのか、体が、動かない。
目の端へ映りこむのは、グレーのシャツとダメージジーンズ。
渋谷で見たものと、まったく同じ。
耳に届くのは、少しかすれた、テナーボイス。
つい数時間前に聞いた、彼の声。
あの時と違うのは、両手いっぱいに紙袋をたくさん抱えていること位。
まさか、こんなにも早く再会できるなんて。
でも、彼は私の存在に気づいていない。
多すぎる紙袋が、私を隠しているから・・・。
JAMESは、ユージと話している。
どうやら、どこに出かけるとも言わずに、外出したようで。
ちょっと怒っているユージに、JAMESは謝っていた。
『さて、JAMES。僕の姉貴を紹介するよ。』
ユージはJAMESの紙袋をベルボーイに渡しながら話しはじめた。
『名前は教えていたよね、僕らの4つ年上・・・』
すこしづつ
私とJAMESの視界をさえぎっていたものが、なくなる。
『そう、今日ユージの姉貴と同じ名前のヒトに会って、えっ、?!』
どうやら彼も私に気がついたようで。
「あははは、JAMES。また会えてうれしいナ!」
見上げれば、紛れもなく昼間知り合った、あのJAMESがそこにいて。
ひらひら手をふりながら、少し照れている私がいた。
そうか、JAMESはユージと同年なのね・・・。
* * *
自己紹介のあと、ユージが予約したというお店に、タクシーで向かった。
助手席にはユージ。
私たちは後部座席。右にJAMES、左にOLIVER。
大型タクシーだし座席に余裕もあるけれど、なぜか狭いような、なんというか。
長身の2人の間に入ったから、圧迫感?
『ちょっと窮屈だけれど、すぐに到着するから!』
ユージのそんな言葉にふたりは切り返す。
『、大丈夫かい? あ、僕らは問題ないよ。なぁOLIVER?』
『ああ。うれしいよ、みたいに素敵なレディーのそばにいられて』
レディーって。。。私のこと?
なんだかくすぐったいんだけど、会話のあちらこちらにイギリス紳士な部分が
ちょこちょこ感じられる。
とはいっても、ユージと同じ、22歳だものね。。。
しばらくしてタクシーがとまったのは、一軒のメキシコ料理屋さんの前。
こじんまりした感じだけれど、それなりの雰囲気がある。
「いらっしゃいませ!」
出迎えた店員にユージがなにやら話しかける。
すると店員はすぐそばの扉をあけた。
「こちらです」
促された扉の向こうは、ちょっと狭い廊下。
けれど、薄暗い照明の中、漆喰で固められた壁は、まるで夕闇のスペインにある
細い路地を歩いているような錯覚をおこす。
もちろん、行ったことはないけれど。。。
『わお! 最高じゃん』
『いいね、この店!』
後ろ歩くJAMESとOLIVERが口をそろえて褒めている。
『リクエスト、どおりだろ?』
「「サイコー!」」
ユージが得意げに部屋を案内すれば、みごとなハモリで答える。
彼らは兄弟、なんだよね?
廊下の先に広がった空間は、裏庭が望める個室。
アンティークの円卓が、なんだかかわいい。
「ナナ、どうぞ。」
「え・・・でも。」
「姉貴、英国紳士に恥をかかせるなよ。」
ゲストのはずのJAMESに椅子を引かれ、躊躇していると、
ユージがすかさずツッコミを入れてきた。
「ちょ!・・・あ、ありがとう。」
「どういたしまシテ!」
素直に着席すると、満足げな顔をしてJAMESが私の左隣に座った。
正面にOLIVER、そして右隣にユージが着席すると、さっそく食事が運ばれ始めた。
ナチョスを堪能する彼らをよそに、私はユージに日本語で矢継ぎ早に質問をした。
「ねえ、ふたりは兄弟?」
「そう、双子なんだよ。にてるだろ?」
「たしかに似てる。で、イギリスってロンドン?」
「近いかな? あー、彼らと俺はバーミンガムだけどね」
「2人だけで日本に?」
「いいや、オレと、ご両親とあと・・・」
「あ、でもユージ。せっかく日本にきてスペイン料理?」
「ああ、2人がハマっているから。」
「で、2人ともユージと同じ学生サン?」
「そうそう。それを、説明しないと。。。」
私の質問が、どうやら核心に触れたようだ。
「姉貴、オレがイギリスに留学した理由を知ってる?」
「ううん、全然」
そう、しるよしもない。
ユージが留学するころ、私は就職した直後。
慣れない仕事と、はじめての1人暮らしでいっぱいいっぱいだった。
ユージは半年間の英語カリキュラムを終え、その年の夏休みにはイギリスへ
旅立っていた。
「オレが中学の頃からイギリスの友達と交流があったって言うのは?」
「それは、覚えてるよ。オンラインゲームかなにかだよね、たしか」
寝静まったリビングで、真夜中に勉強をやっているかとおもったのに、
ユージは買ったばかりのPCの前で、英語の辞書を引きながらゲーム三昧。
ゲームの攻略のために海外サイトで情報交換をしていたみたいだけど。
デスクトップを独占されて、イライラした覚えがあるもの。
「じゃあ、オレがハリー・ポッター好きってのは?」
「それはもちろん、知ってる。」
一瞬、JAMESとOLIVERが反応したように見えた。
どうやらそれは、勘違いではないようで。
「映画、見に行ったよね?」
「うん。1作目と2作目よね。」
ユージに引っ張られて見に行ったけれど、正直あまり覚えてなくて。
けれど、なんだか懐かしいなぁ・・・。
「じゃぁ、簡単にまとめるよ?」
私にそういうと、ユージはふたりに視線を送る。
「「 OK! 」」
タコスに手をかけていたJAMESも、ワインを飲みかけていたOLIVERも、
急に姿勢を正した。
「オレが中学生の頃、あるゲームサイトでJAMESとOLIVERに知り合った。」
『そう!』
「ゲーム以外でも気があって。チャットやメールでのやりとりも始めた。」
『それがはじまり』
ちょっと驚いた。
中学生だった、あのユージが、なにげに国際交流までしていたなんて。
ゲームと勉強をしているだけじゃなかったんだ。
「で、彼らとの話題にでてきた本が、その年のクリスマス、日本で発売された。
それがハリー・ポッターと賢者の石。そこからオレのポッター好きがはじまるわけ。」
そうね。それまで歴史文学ばかりだったユージが、読みまくっていたものね。
イギリスの児童書を、それはそれはありえないくらい読み返して。
「そして新年早々彼らからメールが届く。『双子のオーディションに参加する』ってね。」
・・・あ。
「ハリー・ポッターの登場人物に、双子の兄弟がいたの、姉貴、覚えてる?」
そうよ、双子。
「それが、ここにいるOLI・・・」
「赤毛のウィーズリー!!!」
ユージの言葉をさえぎって、JAMESとOLIVERに向き合う。
ふたりはニヤっと笑い、
「「yah−−−、YES!!」」
ご丁寧に声までそろえて答えてくれた。
あの双子、だったのね。。。
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