JAMESと、同じ色の瞳。

JAMESと、よく似た声。

私、あなたたちを何処かで見たことがあると思うの。



Gravity of Love - Story 4 -






 「Thank you ! ありがと〜!」

青山通りを渋谷方面へと向かうJAMESを見送る。

何度も振り返り、手を上げてくれた。

人ごみにまぎれていく彼の背中を見つめながら、つい先ほどまでの出来事を思い出す。

イギリスから来た、カナリ私好みのJAMESと過ごした時間。


 「今の、観光客じゃなくて、ちゃんのお知り合いだったんでしょ?」


あわててふりむくと、店長がいた。

にんまりというか、不適な笑みをたたえて。。。

 「いいえ!事故というか、なんというか・・・」


言葉に詰まる。

こんな偶然に出会った彼の、その笑顔に、私は見覚えがあるなんて。


 「あのコ、あなたに惚れたわね。。。」

 「はい?!」


店長の言葉に私は耳を疑った。

だれが?

だれに?

惚れたって??


 「あの、店長。お言葉ですが、それは絶対にないです! だって彼は・・・」

 「ちゃ〜〜〜ん???」


店長が、私の言葉をさえぎる。


 「ワタシの勘、外れたことがないの、知っているわよね?」


さっきとは打って変わって、確信をもった鋭い表情。

店長の勘は、確かだ。

過去にクラブのママをしていたとか、修羅場をいくつもかいくぐってきたとか、

人生経験は私の百倍以上はあるであろう、その武勇伝は、よく耳にする。

職場の上司の結婚とその後の不倫までもズバリあてた、その店長の勘。


 「店長、でも今回はさすがにないですよ。相手は観光客ですよ?」


当たり前のようにそう、切り返す。

彼は、日本に旅行できたイギリス人。

数週間たてば、彼は何万キロと離れたイギリスへ、帰る人。


 「ありえませんよ。。。」

 「そう?」


不満げな返事を漏らす店長をよそに時計をみると、3時半をすぎていた。


 「お茶、ごちそうさまでした。私、会社に戻らないと・・・」


きらくを後にし、足早に青山通りのお店にサンプルを届け、駅へ向かう。

 ぐるぐるぐるぐる。

私の心は、きらくの店長の言葉でかき乱されている。


JAMESが?

私を??

言葉を交わして1時間たらずの相手に?

ありえない、ありえないよ。


お世辞にも美人とはいえない、ファニーフェイスな部類。

スタイルだって、バツグンなわけない。

身長が168あるとはいえ、体重は、、、言いたくもない。


ぼんやりしたまま、少し混み始めた山手線で会社へと引き返す。

新橋の駅前で、同僚への差し入れを買い帰社はしたけれど、相変わらず放心状態。

カバンから取り出した、きらくのコースタにはJAMESの文字。

そして彼の手には、裏面に英文表記が施されている私の名刺。


 「メール、くるのかなぁ。。。」


彼からのメールが届くなんて正直わからないけれど、手にしたコースターに記された

JAMESのメルアドを携帯に登録し終えると、タイミングよく新着メールが届いた。

もしかして?

なんて思ったけれど。


   『17時30分に、帝国ホテル1Fのラウンジで。』


帰国していた弟からのメールだった。


 「弟との久しぶりの再会を忘れるなんて。」


姉、失格だなぁ・・・。

JAMESのことは考えないようにして手早く目の前の仕事を片付けると、定時にあがり、

まだ暑さの残る日比谷通りから、弟の待つホテルへと向かった。


  * * *


会社から程近い、帝国ホテル。

実家にいたころは、家族で東京に遊びに来て、泊るホテルはいつもここだった。

窓から見下ろす日比谷公園の緑と、赤い東京タワー。

私はそのコントラストが大好きで。

東京で暮らすようになってからは、足を運ぶことはほとんどなかったけれど。

ラウンジで懐かしいオレンジジュースを飲みながら、昼間のことを思い出すと、

その英語力のなさにちょっぴり沈んでしまう。


 「こんなことなら、ユージを見習って留学でもすればよかった」


ぼそりとつぶやいたその時、


 「はぁ〜〜〜!?なに言ってんの、姉貴」


ひさしぶりの、我が弟からのツッコミ!!


 「あ、ユージ。お帰り!」


顔を上げれば、ほんの少したくましくなった弟のユージがいた。


 「姉貴、なんにも変わらないね。ってか太っっぐぅぅぅ!」

 「なあに?ユージ??」


余計なことを言う前に、微笑みつつ弟のスニーカーをヒールで踏みつけた。


 「ククククッ!」


聞き覚えのあるような、でもちょっとちがうような。

忍び笑いが背後から聞こえた。

振り返ると・・・JAMESのように長身のお兄さんがいて。

ううん、似ている。

真っ白で、薄紅色の唇。

JAMESと同じ、ミルクチョコレートのような髪と瞳。


 「コンニチハ、? ぼくは、OLIVER。ユージの友達。よろしく。」


ニッコリという形容がぴったりの笑顔で、右手を差しだしてくれた彼。

日本語がそこそこできるという印象だけれど・・・。

その笑顔にも見覚えがあって。


あれ、また?

私の勘違い??


 「よろしく、です。ねぇOliver、私、あなたに会ったこと、ない?」


まるで逆ナンのような台詞が、口をついて出てしまった。

ハッと気づいたときには、言葉は戻せないわけで。


 「はは!姉貴、サイコー!!」


ユージがお腹を抱えて笑い出した。

私もOLIVERも意味がわからず、互いにオロオロしてしまう。


 「食事のときに教えてあげるよ、姉貴。とりあえずもう1人がまだ。。。あ!」


ベルボーイが回転ドアをサポートしながら迎え入れた客人に、ユージが反応した。

入り口に背を向ける私には、それが誰かは、わからない。

彼女、かな?

けれど次の瞬間、ユージの口にした名前に、私の心臓が高鳴った。


 「Hi JAMES! Come here!! Where did you ...」


え?今、なんて??



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