私とJAMESの間にある、言葉の壁。
それは、心と心が通じ合えば、越えられる壁。
Gravity of Love - Story 2 -
「ダイジョブ?」
微妙なイントネーションのカタコトの日本語で、心配そうに私を覗き込む。
目の前には、心配そうに私を覗き込むメガネを拾ってくれたお兄さん。
オレンジのTシャツにグレーのシャツをあわせ、ちょっと破れたダメージ
ジーンズと、おろしたてのようなスニーカー。
真っ白な肌に、薄桃色の唇。
はっきりとした目鼻立ちと、綺麗な歯並び。
その髪と瞳はミルクチョコレートのように甘いブラウン。
にっこりと微笑む彼の顔。
その笑顔は、なぜか記憶のどこかに引っかかっていて・・・。
誰だっけ。。。私、この人知っているのに。
すぐに思い出せない自分がもどかしい。
知っている。私は彼を、知っている。
なのに、思い出せないでいる。
「Are you OK?」
低い声で、はっきりとたずねる彼は、ちょっと焦っているようで。
「あーー、アイムOK! 大丈夫です。。。Thanks!」
心配かけないように、にっこり笑いつつ、メガネをかけなおした。
目の前の彼は、肩からかけていたカバンからおもむろにPSPを取り出し、
なにやらカチャカチャと操作している。
「ぇ・・・。」
この人、カッコいいけれど、ちょっと・・・マイペース?
お礼も言ったし、私はもう、いいかな?
「あ、眼鏡 ありがとうございました。Thank You so much! good バっ?!」
名残惜しいとはいえ、お礼をいって立ち去ろうとした、のに!
「Wait a minute, please!」
左手首に、思いもかけない軽い痛みを感じる。
え?
ひ、ひえぇーーーー!
* * *
彼に手首を掴まれた私は、ぜったい顔が真っ赤だったと思う。
二重の大きな瞳、すっとした鼻、キレイなアゴのライン。
笑うと、かわいいくぼみが両頬にできる。
正直、彼は私の好みの顔。
そんな彼が、私を引き止めた。
あまりのことに、抱えた商品サンプルを落としそうになったほど。
へんな音声が聞こえたのはそのすぐ後だった。
「"お土産屋さんは どこですか?"」
「えぇ?」
私は状況がつかめず、彼の顔を覗き込んでしまった。
彼はゆっくり微笑むと、手元のPSPを私に見せた。
そこには、おなじみのあの鳥が、画面で動いていた。
「Where is Japanese gift shop?」
「ギフトショップ・・・おみやげのこと?」
「Yes! おみやげ? It's so Cute!」
そういって、彼は私の胸元を指さす。
そこには着物のハギレを利用した、女性用のお財布。
新商品のサンプルだ。
ビニール袋へ無造作に入れてきたそれが、まさか彼の目に留まるとは。。。
「あー、OK! I know. えーーっと、 Do you go together?」
私も中3レベルもあるかどうかの、カタコトの英語で答えてみた。
「Wow! いいの? ありがーと!」
彼の、その屈託のないその笑顔に、ぐらっとなる。
あ、だめ・・・ヤバイ。
彼ってば、すごく、かわいい。
* * *
彼の横を歩きながら、埃のかぶった中3英語を急速解凍させる。
まずは名前を聞いとくべき?
「ええっと。。。Your name??」
「Ah〜, JAMES. My name is JAMES. What your name? なまえ、おしえて?」
「あ、私? 。」
「? Oh...、OK?」
私の名前に、ちょっとびっくりしたようなJAMES。
なんでだろ。
その後もPSPを使いつつ、四苦八苦。
徐々に微妙な英語と日本語のミックスでも意思疎通がはかれるようになったので、
PSPは彼のカバンに納まわれた。
『それで、日本は初めてなの?』
『いいや、今回が2度目。渋谷は初めてなんだ。』
『イギリスにも似た場所はある?』
『そうだね、ロンドンのピカデリーサーカスっぽいかな?』
『この人の多さとか?』
『そうだね、にぎやかで、人が多くて。』
お店までの道のりを、たわいもない会話をしながら歩く。
JAMESの、そのカワイイ笑顔に包まれつつも、周囲の視線を感じる。
海外の観光客なんて珍しくないけれど。
やっぱり背が高いからかな?
『JAMESは、学生?』
『いや、ちがうんだ。なんていっていいか・・・』
彼がしどろもどろになる。
あれ、それって、聞いちゃいけなかったのかな?
▲Old Story ▼Next Story