あなたたちは、大切なことを教えてくれた。
夢は、あきらめちゃいけない
夢は、叶えるためにあるのだから
The other side of Lens. - 3 -
「おまたせいたしました、先日のお写真です。ご確認を・・・」
差し出したフレームには、にこやかな一組の男女。
くるりとふたりがダンスをすれば、ふわりとバラの花びらが舞う。
私の写真館ならではの、装飾写真。
「まぁ!! こんな風にできあがるなんて。。。嬉しいわ!」
「’sフォトの評判は耳していたけれど、それ以上だな。」
幸せいっぱいのご夫婦が、何度もお礼をいいながら店を出て行った。
こちらまで元気になれるような、そんな明るい笑顔を残して。
「今年で卒業だよね・・・確か」
ふと、双子の笑顔が頭をよぎった。
店先のチェリーブロッサムは、これでもかといわんばかりに咲き誇っている。
「、この花はね。別れの花でもあり、門出の花でもあるんだよ。」
アジアの国では春が卒業シーズンなのだと、教えてくれた人がいた。
あれはたしか、彼らの兄、、、ビル・ウィーズリー。
双子と同じ赤毛だけれど、端正な顔立ちにピシっと決まったスーツ。
なによりピアスが似合ってた。
エジプトからロンドンへ、荷物を運ぶ手伝いをしてくれた、ビル。
「に、素敵な出会いがあるといいね。」
去り際の、餞の言葉さえ、彼が口にするとそれだけで絵になる。
私の引越しと時を同じくして、グリンゴッツ銀行本店へと転勤に
なった彼も、どうやら素敵なパートナーと出会えたらしくて。
「ビル。あなたは、幸せ?」
「もちろん。」
少しだけ、頬を染めたビルがなんだか新鮮だった。
性格も紳士で身のこなしもスマート。
ホグワーツにいた頃、ほんの少し憧れていたのは・・・永遠に内緒。
カタカタと、窓ガラスが揺れる。
窓から見える風景がピンク色に染まり、舞い散る花びらを空に舞い上げながら
春風は店先を通り過ぎて行った。
「一年、あっという間だったなぁ〜。」
私の声だけが、店内に響く。
先輩から譲ってもらった背景ロール、オークションで落札した照明器具、
所狭しと機材が並ぶ。
小さいけれど、私の写真館。
この写真館をひらいて、もうすぐ1年。
そう。
あの双子の話にのって気がつけば2年が経とうとしていた。
あの日から、たくさんの笑顔を集めたカメラとレンズ。
受付カウンター下に作ったストッカーの半分まで、笑顔の銀板が並んでいる。
夢にまで見た、笑顔のあふれた写真たち。
もちろんそのNo1を飾っているのは、ウィーズリー一家の写真。
来店予約も、商品引き取りもひと段落したことをいいことに、
ストッカーの前に座り込み、ぼんやりと眺め始めたときだった。
カラン コロロローーーン
ドアを開けるベルがいつも以上に盛大に鳴り響き、それと共に、
懐かしい声が耳に入った。
「「すみませーん。写真、とってくれませんかー?」」
「え。。。フレッド? ジョージ??」
「やぁ! ・。」
「元気だったかい?」
「もちろん。ようこそ、’sフォトへ!」
私の目の前に佇むのは・・・懐かしい双子。
2年前は長めだった赤毛も、サイドを刈上げトップはビシっと。
その赤毛に負けない真紅のネクタイと、目も覚めるようなオレンジ色の
シャツの上に、ダークグリーンのジャケットを羽織って。
「ところで。ポートレートを頼みたいんだ。」
「突然で悪いけれど、大丈夫かい?」
「そりゃ、もちろんよ!」
ビルとはまた違って、整った、だけど逞しい顔つき。
すっかり『青年』となってしまったふたりに、つい見惚れてしまう自分を
奮い立たせ、窓辺のカウンターで待つように促した。
「すごく久しぶりだけど、ポートレートって?」
「ああ、宣伝に使いたいんだ。」
「そう、宣伝に、ね!」
紅茶の支度をしながら杖を一振り、スタジオの電源を入れる。
ライトが使えるようになるためにも、早めのしたくは肝心。
その間に、フレッドとジョージには、秋らしいアールグレイを。
そっと彼らに差し出すと、ふたりそろってソーサーを片手にさっそく一口。
「「うん、ウマイ!」」
にっこりと満足そうな顔まで、見事なシンクロ。
嗚呼、あの頃と変わらないね。
とりあえず、受付カウンター下からサンプル写真をいくつかチョイスして、
彼らのいる窓辺のカウンターへと運んだ。
「一応こんなカンジなんだけど、宣伝って・・・?」
「僕らの店の」
「宣伝だよ。」
意味のわからない私に、ジョージはニッコリわらってジャケットから
黒いジュエリーケースを取り出した。
パカッと開いたそこには、『W』を模った赤いブローチが2つ。
「悪戯専門店でね。」
「来月開店予定なんだ。その名も」
「「Weasley's Wizard Wheezes!!」」
嬉々としてサンプル写真を眺める双子の様子に、思わず納得してしまう。
2年前。
あの頃からダイアゴン横丁の不動産情報に詳しいかったのも、私の後押しを
してくれたのも、フレッドにも、ジョージにも、やりたいことがあったから。
「もしかして、ふたりの夢が叶うとか?」
「「そのもしかして!」」
「まぁ、いろいろあったけど、ね。」
「そう、少し早く学校を卒業したんだ。」
少し早く? その言葉に我に返る。ホグワーツの卒業は6月以降のはず。
瞬間、にこやかなウィーズリー夫妻の顔が頭をよぎった。
「ねぇ、このことをご両親には?」
「「・・・」」
とたん、ふたりの顔がみごとに曇った。
コチコチと、柱時計の動く音だけが部屋に響く。
すこしの静けさの後、小さなため息と共に、フレッドが口を開いた。
「ママは、相変わらず反対さ。」
「でも、オヤジは応援してくれているんだ。」
苦笑いを浮かべたジョージが、フレッドの肩を軽く叩きながら答える。
まだティーンエイジャーの彼らに、開店資金はあるのだろうか?
そりゃ悪戯の腕前は、私も体感しているとはいえ商品は売れるのかな?
なによりこのご時世、やっていけるのだろうか?
ついつい心配してしまう私の気持ちが、思わず顔に出たのだろうか。
彼らは、まるで私を安心させるかのように、言葉を畳み掛ける。
「市場調査もバッチリだし、資金も確保している。」
「店舗だって、実はとっくに契約したんだ。」
「後輩たちの熱烈応援もあるしね!」
「とにかく、夢は見るだけじゃダメなんだ。」
「「夢は叶えるものなんだよ!」」
そういって、私を見つめるふたりの瞳は、揺ぎ無い自信にあふれていた。
それは、行動を移せないままでいる焦燥感や、諦めるべきかの葛藤も、
紆余曲折しながら通ってきたからこそ。
「そうね、叶えてこそよ!」
「「おお!さすが同志!!」」
フレッドもジョージも、ちょっと大げさに感動して私に握手を求める。
同志、たしかにそうね。 あまり色っぽいものじゃないけれど、
私の通ってきた道を、彼らも通り、そして、夢を叶えようとしている。
「それなら、世界一素敵なポートレートにしなくちゃね!」
「「ありがとう、!」」
支度の整ったスタジオへ、ふたりを招き入れた。
彼らのリクエストは、バストアップ。
ふたりの赤い髪が栄えるように、背景はブラック。
照明は効果的にサイドから。
「おっと、忘れちゃいけない!」
「コレコレ!!」
そういって、ジョージがジャケットに閉まっていたジュエリーケースを取り出す。
レンズ越し、そっと彼らにピントを合わせる。
フレッドとジョージ、まるで鏡のように向き合って、互いの胸にそれを着けた。
「昔から、そんな感じなの?」
ふたりに話しかけながら、シャッターを切る。
照れくさそうに微笑むのも、頬を指でかくのも、タイミングが合いすぎて。
本当に鏡みたい。
「基本は無意識なんだけど。」
「まぁ、意識的にやってきた部分もあるけどね。」
「そう、どっちがどっちかバレないように、ね!」
ニカッという言葉そのままの、2年前と変わらない、底抜けに明るい笑顔。
まったく、この双子は・・・。
すこしあきれながらも、シャッターを切る。
レンズの向こう側にいる彼らは、この暗い世の中に輝く太陽。
心がほんわかと暖かくなる笑顔。
ふたりの笑顔は、元気をわけてくれるから。。。
私の撮った写真から、それが伝わりますように。
そしてどうか、この太陽がこれからもずっと輝いていますように。
「OK! フレッドとジョージの世界一な笑顔、いただきました!!」
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