此処にいる限りは。
愛している、だから、秘密。
Secret Honey -4-
普段は感じない温もりに、目が覚めた。
そして下半身に残る、気だるさ。
傍らには仮面をつけた、生徒。
年下の男子の腕の中・・・そこは禁断の場所。
けれど心地よくてずっとそこにいたくなる、そんな場所。
仮面の彼はまだ、すぅすぅと小さな寝息を立てている。
私をそっと包み込んでいた、ガッシリとした腕。
ちいさく上下する肩。
おもわず愛しくて撫でたくなるような、喉仏。
視線を上へと動かせば、端正な首から顎にかけてのライン。
月明かりに照らされるそれらは、まるでギリシャ彫刻の
胸像のよう。
(ずっとこのまま。。。)
無理なのはわかっていても、思わず願ってしまう。
願っても願っても、叶う確立なんてゼロに等しいというのに。
この満ち足りた幸せを、ずっと味あわせて欲しいと・・・。
窓から見える月は、その位置を移動させ、時間の経過を
否が応でも知らせる。
外は闇のまま・・・だが、夜明けにはそう遠くはない。
「今のうちに・・・(もどらなくちゃ)」
傍らにいた仮面の彼を起さないように、名残惜しいけれど
その温かな場所から離れようと体をおこす。
と、ふわりと床へシャツが落ちた。
私のものではない、彼のシャツ。
行為の最中、気を失ってしまった私への優しさが、なんだか
くすぐったい。
ちゃっかり着替えた下半身とは対照的に、露わになっている
上半身へと、そっとそれをかける。
ブラウスに袖を通し、タイを探した。
足元に落ちている2本のタイの色は、同じ。
けれど裏に付けられたネームタグに刺繍された名前は・・・
「貴方、グリフィンドールの・・・」
仮面に覆われていない部分から見え隠れする、そばかす。
きっと髪は・・・燃えるような赤。
悪戯が好きで、いつだって寮のトラブルメーカー。
それでもクィディッチの腕は誰もが認めている。
同じ時代をすごしていたら、きっと彼に夢中になっただろう。
ううん。
今も、今までも、彼のことが気になっていた。
ただ、認めたくなかっただけ。
「さよなら、ジョージ」
彼の唇にそっと、別れのキスをした。
彼らの先生としてではなく、一人の、元、学生として・・・。
* * *
「先生。」
「・・・どうぞ、座って。」
「黙って出て行くなんて、寂しいことしないで欲しいなぁ。」
「・・・ジョージ。」
時間通り、彼は教室に現れた。
薄暗い教室の、その奥にある自室に招き入ると、ジョージは
開口一番、私を責めた。
そ知らぬ振りしてお茶の支度をしたいのに・・・。
ソファーに腰かけたはずの彼の、熱いまなざしが背中に刺さる。
「白を切っても、ダメみた・・・」
「ダメです、っというよりは、無理。」
私の言葉に、ジョージの声が重なる。
小さなため息が、思わず漏れる。
観念して振り返り、彼の前に腰かけた。
「どうして、わかったの?」
「・・・さて、どうしてでしょうか。」
教室で何度も見慣れた、ニヤつくジョージの顔。
授業中に指しても、わかっているくせに、答えないときの顔だ。
「そうやって、私を困らせるのよね・・・」
「・・・」
相変わらずジョージはニヤニヤしている。
年下の彼に、いいようにあしらわれて、正直、悔しい。
そっと杖を振り、用意したお茶をサイドテーブルに移動させた。
ジョージはその動きを目で追いかけている。
私もつい、一緒になって目で追いかけてしまった。
無事に着地したジャスミンティーの香りが、辺りにふわりと漂う。
「って、ジャスミンの香りがするんだよ。」
「え?」
「あれ、自分で気づいてないの?」
「だって私、香水とかつけてないわよ?」
驚いたように、ジョージは目を見開く。
私はただ、お気に入りのジャスミンティーを毎日飲んでいるだけ。
「・・・・・。」
視線を逸らし、小さくつぶやく彼の言葉は、聞き取れなくて。
「ジョージ、なにを言ってるの?」
「・・・、耳、貸して。。。」
思わず反射的に、私はその身を乗り出して、ジョージのほうへと
顔を近づけた。
「の体から、ジャスミンのいい香りがするんだよ。」
「!?」
耳元で囁かれた言葉に、思わず顔が赤らむ。
その様子をみたジョージはウィンクしながら、ニヤリと笑った。
昨日のことが、ぶわっと思い出される。
たまらなく恥ずかしくて、その身を反らしたのに。
タイミングよく、ジョージは私の顎を掴んで、顔を引き寄せた。
「、僕は君の香りの虜なんだ。もう、ずっとね。」
「ちょ、ジョージ?」
「は・・・あの時だけ・・・なのかい?」
捨てられた子犬のように、寂しげな瞳が、愛しい。
その憎たらしい物言いも、本当は、好き。
首をフルフルと横にふる。
「ずっと・・・好き。」
「じゃ、問題なし!」
そっと重ねられた唇は、昨日の快感を呼び起こす。
もっと、もっとと、せがみたくなるキス。
けれどジョージはキスを不意に止めた。
「先生と生徒って・・・やっぱり、まずいかな?」
「うん、ちょっと・・・。」
「が、先生であり続けられるためには・・・」
「ために・・」
開きかけた唇を、ジョージが塞ぐ。
軽く、軽く、そして徐々に深く。。。
甘くて柔らかくて、官能的なキス。
彼は私のひっつめ髪を解きながら、耳元でそっと囁いた。
「愛してるよ、シークレット・ハニー。」
END
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