フレッドと、ジョージの間。
今も、そしてこれからも・・・。
Photo is Love - Story 8 -
「ちょっとまって。じゃぁ今までこの状態で?」
「そう、この状態。」
「やっぱり、マズいかな?」
1階の休憩室で開かれた会議ならぬ、3人での話し合い。
帳簿という名の、一日の売り上げが書かれた羊皮紙の束と、
グリンゴッツの印鑑が押された『残高証明』をにらめっこ。
残高のその金額は、私が想像していたものを遥かに超えていたけれど。
「2人の生活費は?」
「売り上げから適当に。だいたい月100ガリオンかな。」
「好きに使うお金はお互い20ガリオンずつでね。」
「開発費は?」
「今のところ、昔と同じように小遣いからさ。」
「そう、お互い10ガリオンずつ出して、20ガリオン」
月の売り上げからいけば、もっと開発費に投資してもいいのに。
でもホグワーツにいた頃と変わらない、2人らしいお金の使い方に
ちょっと安心してしまう。
「隠れ穴へは、50ガリオンだったり」
「40ガリオンだったり、とりあえず送ってる。」
「原材料仕入れは、2ヶ月ごとにまとめて70ガリオン」
「で、使わないお金がグリンゴッツ行き。」
「すごい、節約しているのね・・・驚いたわ。」
フレッドとジョージなりに、いろいろと工夫しているのはよくわかった。
でも、口座を一つしか開いていないことに、ちょっと不安を感じた。
「、アドバイスは?」
ジョージが私からの回答を待っている。
聞き逃さまいと、手には羽ペンと羊皮紙がしっかりと握られていて。
とりあえず、すべきことを提案してみた。
「まずは、WWWと、個人との口座を分けるべきね。」
「なぜだい?」
「公私混同というか、会社のお金の流れと、個人のお金の流れは
別にしておいた方が、経営状態がわかりやすいでしょ?」
「「なるほど!」」
「じゃぁ、開発費は? どうすればいい?」
羽ペンを走らすジョージをよそに、フレッドがちょっと興奮気味に聞いてきた。
「まずは年間で予算をたててみるの。この数ヶ月の売り上げからいけば、
半年で200ガリオン以上は使えると思うけれど。」
「ワオ! すごいぞジョージ!!」
思っていた以上の結果なのか、フレッドの頬は一気に上気した。
すでに新商品を思い描いているのか、ほお杖をついたその視線は宙を彷徨っている。
「、仕入れや僕らの生活費なんだけれど・・・」
いたって冷静に質問するジョージは、相変わらず羽ペンを握っていて。
双子とはいえ、こういうところに違いがハッキリとでる。
「開発費も、仕入れも、もちろんWWWの口座からで。
仕入れは今までどおりで問題はないと思うけれど、不測の事態を
考えて、毎月40ガリオンは見ておいたほうがいいかもね。」
「なるほどね・・・で、生活費は?」
「給料制にして、フレッドとジョージの口座を作って振替えるの」
「としたら、1人で150ガリオンぐらい?」
「そうね、この一年は。そこから隠れ穴へ一定金額を送ればいいワケだし。」
「確かに、そうすればひとり50ガリオン、あわせて100ガリオンは確実だ。」
カリカリと、羽ペンが音を立てて羊皮紙に数字を刻んでいく。
どんな授業でも、こんなに真剣なジョージを見たことがなかったかも。
「の給料は、100ガリオンでいい?」
「え?! そ、そんなに・・・」
「女の子なんだし、色々と必要だろうしね。」
ほんとうに的確なジョージのよみ。
こういうことはジョージのほうが得意なんだね、一つ発見かな・・・。
「あ、魔法省へ支払う税金があるんだ!」
ふと思い出したのか、フレッドが現実へ戻ってきた。
「それなら大丈夫よ。年間20ガリオンだから、問題ないわ。」
「売り上げから月々2ガリオン積み立てればいい。」
「なるほどね・・・。」
ジョージが書きまとめた羊皮紙を、フレッドが目を通す。
「帳簿だけじゃなくて、WWWの口座を中心に金銭の動きをみれば、
店の状況も今まで以上に客観的に判断できるってワケか。
へぇ〜。 、すごいよ!」
「やっぱりは、僕らに必要な人だったな、フレッド。」
二人並んで、羊皮紙を覗き込んでは、満面の笑みを浮かべている。
ニコニコ、いや、ニヤニヤといったほうが正しいのかもしれない。
二人のやり方も、間違っていないけれど。
モリーおばさまやアーサーおじさまを安心させるためにも、
これがベストだと思うから。
きてよかった、ここに。
* * *
「、お店の制服を着てみないかい?」
話し合いが一段楽した頃、ふいにフレッドが提案してきた。
そういえば、まだ試着していなかった。
「僕らも着替えるから、一緒に写真でも、どう?」
「入社式ってほどでもないけれど、記念にさ!」
フレッドがカメラを探しはじめて、ジョージはガサガサと
エプロンを取り出す。
「うん、じゃあ着替えてくるね!」
階段をかけあがり、自分の部屋に入る。
ワードローブにかけたお店の制服を取り出し、袖をとおす。
学校の制服とは違う、なんだかはじめての感覚。
ラップスカートをつけてみたけれど、足元はまだスニーカー。
「ヒールの方が似合うかなぁ。」
ブラックのストッキングに履きなおして、ヒールを取り出す。
思い出の詰まったヒール。
シンプルなデザインだけど、ダンスパーティーだけでなく
まさかココで役立つなんて。
シワひとつないオレンジのエプロンをつけ、鏡に向き合う。
胸ポケットの上には、『・』のネームプレート。
「うん、よし!」
ローズピンクのリップで唇をなぞり、ふたりの待つ1階へ向かった。
なのに、フレッドとジョージのいた休憩室は、もぬけの殻で。
カーテンで覆われたお店の外に、なにやら人影が見えた。
コロンコロロン。
お店の扉を開け、通りにでると・・・カメラを構えたリーがいて。
「やあ、! 制服似合っているね、かわいいじゃないか!」
「ちょっと心配で、漏れ鍋に泊ったのよ。、よかったね!」
リーの後ろから、アンジェリーナが顔を出した。
「ほんとに、カワイイよ、。」
「、とても似合っているよ。」
頭上からは聞きなれたフレッドとジョージの声。
ふりかえれば、黒のパンツにグレーのシャツ、オレンジのエプロン。
私と同じ色合いの、WWWの制服に身を包んだふたり。
「ではお三人とも、記念撮影といきますか?」
WWWを後ろに、フレッドとジョージに挟まれて並ぶ。
「、ネームプレートはつけているかい?」
ジョージが急に私をのぞきこんだ。
「大丈夫さ、はきちんとつけている。」
フレッドは既に私のネームプレートを確認していたようで。
「「よし、問題なし!」」
「?」
なんのとこやらさっぱりわからないけれど、リーとアンジェリーナの
いる方へ向きなおった。
「いくよ〜。ハイ、チーズ!」
パシャ! っとシャッターの音と共に、フラッシュがたかれる。
それに反応したのか、私のネームプレートから何かが飛び出した。
ふわふわと、わたしたち三人を取り囲むかのように、赤に、黄色、
淡いピンクにキレイな紫・・・。
色とりどりの花びらが宙を舞っている。
「キレーー!!」
思わず声を上げてしまったけれど、こんな演出、考えられるのは、
ふたりだけ。
「、あらためまして、WWWへようこそ!」
「これからも、僕たちをよろしく。」
「ありがとう。私のほうこそ、よろしくおねがいします!」
新しい門出。
3人での出発。
たくさんの思い出を、これからも3人で作っていこうね。
そして、たくさんの写真で、アルバムをいっぱいにしようね。
END
▲Old Story