私も前に 進まないと・・・ね。
Photo is Love - Story 1 -
「ピーブズ、俺たちに代わって あのババァをてこずらせてやれよ!」
杭のぶら下がった箒へまたがり、扉を通りぬけてゆく赤毛の双子。
真っ赤な顔をして目をひん剥いたアンブリッジ。
慌てふためく親衛隊に、呆然と立ち尽くすフィルチ。
それ見たことかと完全無視のマクゴナガル。
寮の壁などのりこえて、廊下から、中庭から、城中から拍手喝さいで見送る生徒たち。
悪戯妖怪までもが最敬礼で彼らの門出を祝福する。
ハリーをかばい、そして信念を貫き、夢に向かって飛び立った二人。
彼らの逃走劇は、すがすがしく晴れやかでいて、残していった悪戯の数々と共に、
ホグワーツでも代々語られることになるだろう。
夕日に溶けていく二つの陰を、私は目に焼き付けて見送った。
夕食の時間はとうに過ぎたというのに、食欲がわかない。
階段を降り、談話室へと向かう。
寮のみんなは食堂にいるのか、暖炉で燃える薪の音だけが響く。
双子のいなくなったグリフィンドール寮は、なんだか静かで。
いつもなら、夕食後は暖炉の前でフレッドとジョージ、そしてリーがいて、
悪戯の作戦会議をしていたのに。
今日からは、赤毛の双子は、、、フレッドも、ジョージも、いない。
「やぁ、」
いつもより、トーンの低いリーの声。
「いっちまったな、あいつら。」
スプリングの効いたソファーに浅く腰掛け、ぼんやりと暖炉をみつめるリーが、
すこし寂しげな微笑を浮かべながら、溜息混じりにつぶやく。
「卒業まで、あとほんの少しなのにな。」
何も言えず、ただうなずいてしまう。
同じ7年生。
一緒に卒業できるものだと疑わなかった1年前。
なのに色々と事態は変わってしまった。
「は、卒業したらどうする?」
不意に尋ねられ、一瞬考える。
フレッドと、ジョージと、リーが仕掛ける悪戯を見ては、
笑い転げていた日々が、ずっと続くと思っていたから。
「どうしようかな。日本に帰るつもりもないし。
2人のお店でアルバイトも、い・・いかぁなぁ・・・」
涙がこみ上げてきた。
ぼんやりと、そう、ただぼんやりと描いていた未来。
ホグワーツの延長のように一緒にいたかった。
ただそれだけ。
「それじゃあ、採用通知が来るといいな!」
ニッと白い歯を見せて笑いながら答えるリーも、瞳が潤んでいた。
いつも一緒にいたのは、リーも同じ。
2人においてかれたと思ってないかな?
ううん。
リーは2人のよき理解者だもの、大丈夫。
「リーは?」
こみ上げた涙を落ち着かせながらリーを見る。
リーは眉をあげ、少し鼻を膨らませた。
「オレ? 競技場アナウンサーさ!」
「え、決まったの?」
魔法界では次のワールドカップに向けて徐々に盛り上がり始めている。
暗い影が落とし始めている時期だからこそ、娯楽が求められるみたいだ。
「もちろん、といってもまだまだ研修生からだけど。一応採用!」
「うわ、おめでとう!よかったね・・・」
そうだね、クィディッチといえば、リーの実況中継。
ホグワーツの名物アナウンサー。
ハリーが、フレッドが、ジョージが、、、みんながフィールド上を飛びまわり、
リーの実況が響き渡る。
旗を振り、寮全体で応援し、声援をあげたあの頃。
もう、もどれない。
我慢していた涙が、瞳からあふれてしまいそう・・・。
「これからはさ、ふりかえらずに、前を見ようよ。」
私の肩を、リーが優しく叩く。
二人の代わりに、リーなりの優しさ。
「フレッドも、ジョージも、の涙は見たくないはずだぜ?」
もちろんオレもだけどさ。そうつぶやきながら、リーは立ち上がる。
滅多に泣かない私が泣くと、フレッドもジョージも、それはそれはあわてたね。
涙をぬぐいつつ、私も立ち上がる。
「とにかくココを卒業しないとな。その後を考えようぜ?」
ウィンクしながら、リーが右手を挙げる。
「そうだね、楽しい未来のためにも!」
パチン!!
フレッドとジョージが、悪戯が成功するたびにそうしていたように。
私はリーとハイタッチをし、談話室を後にした。
そうね、卒業したらまた楽しい未来が待っている。
リーの実況でクィディッチが楽しめる日が来るかもしれない。
女子寮への階段を駆け上がる。
でも、でも。
今日だけは泣きたい。
あたりまえのように向けられていた、二人からのお日様のような笑顔。
廊下で、
階段で、
ふりむけば、
すぐそばにいて・・・。
心地良く耳に響いていた、フレッドの声と、ジョージの声。
「僕らは」
「いつだって」
「「のそばにいるから!!」」
昨日まで、合言葉のように2人が投げかけてくれた言葉。
この込み上げる寂しさを、今日だけは、涙で流させて・・・。
部屋にもどると、制服のまま、ベッドへダイブした。
ゴツン!
跳ね上がったスプリングの反動で、枕のあたりから、見慣れぬ革表紙の本が
一冊飛び出して、頭に当たった。
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