JAMES・・・。

あなたの探す星は、どれ?

見上げた空に星はなくて・・・切なくなる。



Gravity of Love - Story 10 -





ライトアップされた噴水を前に、ベンチに腰かける。

左側には、JAMESの温もり。

肩にまわされた腕はとても自然で、守られているよう。

彼の左手は、私の左手を優しく包み込んで、離さない。

ずっとこのまま、一緒にいたくなってしまう、そんな感覚。


 『JAMES。今日はハードだったんじゃない?』

 『う〜ん。わかっていたけれど、ハードだった!』


笑顔のJAMESは、親指で鼻の頭をちょちょんっとこすりながら答える。

ねぇ、それってJAMESの、クセ?

少しづつ、JAMESのことが知ることができて、嬉しい。

なにより、可愛いなって思えてしまう。


 『どんな一日だったの? 教えて!』

 『もちろん、が聞きたいのなら喜んで。』


ゆっくりと、ゆっくりと。

朝食の後、映画会社へ挨拶にいったこと。

昼食の時間がとれなくて、移動用のリムジンで牛丼を食べたとき、

OLIVERが七味唐辛子にビックリしていたこと。

舞台挨拶の会場で盛り上がった話や、イマイチだった話。

取材をうけた雑誌社が、想像以上の数だったこと。

我が弟、ユージが雑誌のインタビュー中にはカメラマンさんの助手状態で、

OLIVERとふたりして、からかったこと。

簡単な英語と、日本語を織り交ぜ、なにより笑いも入れながら教えてくれる。

相槌をうちながら、その時々のJAMESを想像しながら・・・。

そんな時間が楽しくて。

ただ、こうしてそばにいるのが嬉しくて。


 『・・・』


すこしの沈黙の後、JAMESが私に向きなおった。


 「。もういちど、キス、してもいい、デスカ?」


たどたどしいけれど、JAMESの日本語。

私は、キライじゃない。

YESのかわりに、瞳を閉じる。

JAMESの柔らかな唇が、触れて・・・離れて。

ぎゅっと、抱きしめられた。


 『ずっとこうして、一緒にいたいよ、。。。』

 『JAMES・・・私もよ。』


彼の胸の中で、少し早い鼓動を聞きながら答える。

けれどそれは、できないこと。

JAMESは、滞在期間が決まっていて、仕事がある。

ホテルに戻れば、ユージもいる。

なにより私は、土曜日もいつもどおりに仕事がある。


 「あ! そうよ!」

 『?』


唐突な私の声に、JAMESはまじまじと私の顔を見つめる。

次に会えるのは、少し先だということはわかっているけれど、

いつでも彼の声を、顔を、見れる方法を思いついたから。


 『私、JAMESが東京へもどるまでに、1作目から見るね!』

 『そういえば、ほとんど見ていないって、話していたよね。』

 『シリーズのなかで、JAMESのオススメは?』

 『そうだなぁ・・・3作目かな?』


思いつきとはいえ、これで少しはJAMESに会えない寂しさが、まぎれる。

そう考えたんだけれど。

私に会えないあいだ、JAMESはどうするのだろう。

自分のあまりにも安直で、あまりにも幼稚な考え方に恥ずかしくなる。


 『・・・JAMES』


ごめんね、って言えなくて、彼の胸に顔を埋めると、JAMESの鼓動が耳に届く。


 『メールもするけれど、の声も聞きたいから、電話しても、いい?』

 『もちろん!』

 『よかった。。。の声を聞けば、元気に仕事ができそうだよ。』


ふんわりと優しく、私の体をJAMESが包み込む。

彼の体温に、安心する私がいる。

JAMESは、私よりも年下なのに。

弟のユージと同じ年齢なのに。

彼のほうが、年上に思えて。

JAMESのコトバが、私に元気をくれる。

私も仕事、がんばらないと。


ふときづけば、周囲のビルから、少しづつ、明りが消えていく。


 『日本でも、星はみえるのかな?』

 『星?』


公園の街燈に照らされて、空を仰ぐ、精悍なJAMESの横顔が見える。

彼は口をきゅっと閉じて、目をこらすけれど。

見上げた夜空。

うす曇なのか、夜の明りが照らす都会の空に、星を見つけることは

できなかった。


  * * *


終電の時間を知らせるかのように、JAMESの携帯にユージからの着信。

よく出来た弟というべきか。

ユージ自身、Phelps兄弟ジャパンツアーのスタッフでもあるわけだから、

これはあたりまえのことなのかもしれないけれど。


 『、お別れの時間みたいだね。』

 『JAMES。。。楽しんで、頑張って!』


そう、答えるしか、ない。

こんなにずっとそばにいたいと思える人は、あなたしかいないのに。

一晩中、一緒に過ごしたいと思える人は、JAMESなのに。

言えない。

彼を待つ、ファンがいるから。

彼を待つ、仕事があるから。


駅の改札口の前。

名残惜しいけれど、お別れのキス。


 『、おやすみ・・・。』

 『おやすみ、JAMES。また・・・ね。』


手をふるJAMESが、すこし寂しげで。

切なくなって、思わず駆けよりたくなったけれど。

そんな想いをふりきって、階段をのぼり、電車に飛び乗った。


  * * *


いつもと変わらない、職場での時間。

淡々と業務をこなし、ランチをして。


JAMESに出会う前と同じ、”いつもの”時間。


彼のことを考えると、仕事が手につかなくなりそうで。

意識的に忘れて、仕事に打ち込む。

気がつくと、時計はすでに定時の5時を過ぎていて。

周りの同僚も、帰り支度を始める。


 「おつかれさま・・・」


私もデスクを片付け、オフィスを後にし、帰宅ラッシュの波にのまれた。

日々繰り返される、変わらない日常。

ワンルームの部屋は、夏の熱気で生暖かく、一気に汗が噴き出す。


 「最悪!シャワー、あびよ・・。」


クーラーのスイッチを入れ、いつものようにTVのリモコンに手をかけた。

時間はもう6時をすぎているのに、夏の日差しがまだ残っている。


 「いまごろ・・・」


そう、JAMESはサイン会の真っ只中。

朝から舞台挨拶も入っていたはずなのに、今夜は福島へ移動。

私の仕事とは比べ物にならないくらいの、ハードな日程。


 「がんばって・・・」


私からの彼への連絡は、しない約束にしたけれど。

誰よりもJAMES、あなたを応援しているから。



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