お菓子をあげなければ、悪戯するんでしょ?
ならば。
どんな悪戯、シ・テ・ク・レ・ル?
Trick or Treat
「お菓子か」
「悪戯か」
「「どちらがいいかな? ・。」」
放課後の談話室。
夕食までの時間をそれぞれ過ごしているというのに。
窓際にあるお気に入りのソファーでまどろむ私のもとに現れた、
赤毛の悪魔が、2匹・・・。
「ハロウィンだろうが関係ないじゃない、貴方たち。」
そしてフっと、小さなため息一つ。
5年にもなって、まだこんなくだらない事を彼らはしようとするのか。
「・・・馬鹿みたい。」
「「ほほぅ。」」
目の前にいる双子は、妙に感心したように同じタイミングで腕を組む。
悪戯が大好きで、フィルチに年中追いかけられているフレッドとジョージ。
今朝だって、談話室に現れたマクゴナガル先生に忠告をうけたというのに。
手にしていた魔法薬学の参考書をパタンと閉じて、彼らを一瞥した。
「おあいにくさま、私はお菓子なんて持っていませんから。」
「。」
「それなら・・・」
「「悪戯、だね?」」
口角をクイっと上げて、まさにニヤリという言葉がぴったりの笑顔。
ほんと、馬鹿みたい。
子供のように遊んでばかり、人をからかって楽しんで。
「勝手にすれば?」
「「仰せのままに。」」
うやうやしく胸に手をあて一礼し、彼らは別のターゲットへ。
お相手はしっかりお菓子を用意していた様子。
にこやかに話す彼らに、苛立ちを覚える。
声も、ルックスも悪くない。
成績だって、、、ちゃんと取り組めば出来るはずなのに。
同じ寮生になって、もう5年目。
ホグワーツに入学したあの日から、彼らはなんの成長もしていない。
私の見る限りでは。
運悪く同じ授業ばかり選択をしているからか、気がつくと彼らと
同じ空間にいて、彼らの起こす騒ぎを毎日のように目にしてきたもの。
どの程度の悪戯をするかなんて、簡単に予測がつく。
「やぁ、。」
「あら・・・ロン。」
「、その・・・強気だね。」
「悪戯なんて、たかが知れているわ。」
二つ下のロン・ウィーズリーが様子を伺いにきた。
悪戯好きな兄達とはまた違って意味で、彼も目立つ存在。
なにせあのハリー・ポッターの親友だもの。
「気にしてくれてありがとう、ロン。大丈夫よ。」
「でも、。僕が言うのもなんだけれど、兄貴たちのやることは」
「えげつない、でしょ?」
「・・・。」
ロンの言葉をさえぎってしまったけれど、これは正論。
彼は黙って頷く。
「そんなの、とっくに知っているもの。」
「・・・。」
心配そうなロンを横目に立ち上がり、私は夕食へと向かった。
* * *
「ひぃ、ふぅ、み・・・3人ねぇ。」
それはハロウィンの宴を終え、部屋に戻るまでに見かけた“犠牲者”の数。
通路に突如できた、小さな沼地にハマったハッフルパフ生。
階段で落とした杖が、すりかえられ、だまし杖になったレイブンクロー生。
談話室にあったクッキーサンドで、カナリアになったグリフィンドール生。
それは女子生徒だったり男子生徒だったり。
運良く(?)私はなにごともなく部屋に戻ることが出来た。
「、バスタイムどうするの?」
同室のケイティは既に支度をはじめている。
やはり一日の終わりにシャワーを浴びないとスッキリしない。
双子がなにを仕掛けてくるかは、望むところだけれど・・・。
「んー、ギリギリに行くわ。」
「一緒じゃなくて、大丈夫?」
「彼らにチャンスをあげないと、ね?」
すこし驚いたようすのケイティだけれど。
気をつけてと一言残し、彼女は部屋を出た。
今夜は新月。
窓の外に広がる漆黒の闇を見つめながら、ミルクティーを一口。
甘い香りが鼻をくすぐる。
「さて、どんな悪戯を仕掛けるのか・・・」
ベッドに腰掛けて、双子がなにをするのか考えをめぐらせていた。
どう考えても、他の生徒に彼らが仕掛けたイタズラは生ぬるい。
それなら・・・最大級のイタズラを、私に!?
と、その時。
コツン!
窓に何かが当たる音。
カラスか、それとも誰かのふくろうが迷っているのか。
コツン!コツン!!
「しつこい!」
睨みを利かせて窓辺を見上げると、箒に乗った赤毛の・・・
「ウィーズリー?!」
ベッド横の腰窓を開け放つと、そこには箒に乗ったフレッドとジョージ。
ローブをすっぽりとかぶり、箒にカボチャのランタンまでつけて。
「「やぁ、。」」
「ちょっ! 今、何時だと思っ!!」
「招き入れてくれて嬉しいけれど」
「君の承諾も得たことだし、失礼するよ? あ・・・騒がないで。」
「!?」
シュルリと音がして、私の目は一瞬にして暗闇に覆われ、口さえも
その一切の言葉を発することが出来なくなってしまった。
次の瞬間、ふわりと暖かな何かに包まれ、浮遊感と共に抱えられる感覚。
「この新製品、いいカンジだ。万事OK。」
「ハリーの透明マントも役に立つ。」
「「いざ、彼の地へ。」」
その言葉を合図に、箒が加速していくのがわかる。
どちらの胸に抱かれているのかも、わからないままに。
どちらの箒に乗っているのかも、わからないままに。
私はどこともわからない場所へと、連れ去られた。
けれど、それほど時間を経たずに、箒が下降するのがわかる。
私の感覚からすれば、禁じられた森のはず。
洞穴なのか小屋なのか、カビ臭くはないが、少し埃っぽい。
私は抱えられたまま、仄かに暖かい場所へ運ばれ、
ソファーのような何かに座らされた。
「さぁ、到着だよ。」
「あ、当分そのままだからね。」
手首を後ろ手に縛られたのは、わかった。
言葉も発せない、ましてや視界も奪われている私は、
小さく首を横に振ることぐらいしかできない。
「かわいいなぁ、は。」
「いつだって堂々としている君でも、怖いんだ。」
クスっと笑いあう2人の声が聞こえた。
ワイシャツのボタンが、一つ二つと開放される。
「僕らが本当に悪戯したいのは、だけだよ。」
「きっとなら、答えてくれると思っていたしね。」
耳元で囁かれ、頬に、瞼に、柔らかな感触。
キス・・・されているの?
「期待、していたんだろ?」
「これから、だよ?」
「「悪戯、してあげる。」」
それが合図。
指先なのか、唇なのか。
2人のものとおもわれる温もりが、全身をまさぐる。
慣れていないけれど、一生懸命な愛撫。
こうなるのは、なんとなく予感があった。
そう、期待通りの結果。
待ち望んでいた、悪戯。
ただ、誰が何をしているのか。
ただ、次に何をされるのか。
それがわからないことが、悔しい。
けれど今は、彼らの悪戯に付き合おう。
唇を開けないから、好きだと伝えられなくて、もどかしいけれど。
瞳を開けないから、2人の顔をみれなくて、寂しいけれど。
END