あなたのそばに、ずっといたい。
それは私の甘えかもしれないけれど。
お願い、オリバー・・・そばに、いて。
Gold Ring −指輪−
リビングのソファーには、
長い足をもてあまして座る彼がいる。
ぼんやりとMTVを見つめる、愛しの彼の髪の色は、
チョコレートブラウン。
本当の、彼の“色”。
「なんだか、知らない人みたい・・・」
いつものマグカップに入れたミルクティーを、
テーブルにそっと置く。
私が見慣れていたのは、ジンジャーヘッド。
出会ったときからその色だったから。
「、そんなこと言うなよ。」
引き寄せられ、柑橘系の香りに包まれる。
背中からは、彼のぬくもりが伝わる。
「ゴメンね、オリバー。ほんと、慣れなくて。」
頬にチョコレートブラウンの髪があたるのは、
彼が私の肩に顔を埋めているから。
2つ年下の彼が、甘えてくる理由はわかっている。
この週末からは映画のプロモーション。
世界各国を飛び回る。
撮影中のように、また会えない時間が増えるから。
「見慣れないかもしれないけれど、コレが僕だよ?」
「うん。」
「この色、はキライかい?」
「そんなこと、ない!」
ちょっと拗ねて甘えたような、そんなオリバーが可愛い。
ジェームズやご両親と一緒にいるときの彼は、
とてもしっかりしていて紳士。
そんなあなたが、私とふたりきりのときは、甘えん坊になる。
私だけが知っている、オリバー。
「ねぇちょっと、苦しいよ・・・オリバー? 」
私の存在を確かめるかのように、オリバーはぎゅっとその力を強める。
「・・・、。」
耳元で、オリバーに名前をささやかれただけなのに。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
切なさが、こみ上げてくる。
明日の今頃、あなたは機上の人。
耳に響く心地よいこの声とも、当分お別れ。
「大丈夫、私はここにいるよ? オリバー。」
口をついて出る言葉は、オリバーを励ましているけれど。
その実際、私の心は寂しさで一杯だった。
オリバーの、その柔らかな髪に頬をよせる。
「ずっと、一緒にいたいよ・・・」
耳元で甘くささやかれたテナーボイスは、少しかすれていて。
首筋に落とされる柔らかなキスは、私の中心に火をつけるのには十分で。
「わたしもよ、オリバー・・・」
向き合って、むさぼりあうその唇は、極上に甘かった。
* * *
右手の薬指に、かすかな違和感を感じ、目を覚ました。
乱れたはずのブランケットは、きれいに整えられ、
私の肩まですっぽり包んでいる。
「オリバー?」
隣にいるはずの彼の姿はなくて。
ふと右手をみると、薬指にはゴールドのリングが嵌っていた。
「え? ええ??」
「それ、僕のと、おそろい。」
キッチンから、ジンジャーエールの小瓶を片手にオリバーが
顔をだす。
その右手には、ゴールドのリング。
「僕は、だけのものだから。」
付き合い始めてすぐの頃、仕事でフランスに行ったオリバーが
ふらっと立ち寄った店で買ってきたリング。
「僕のリングと同じやつ、注文しておいたんだ。」
「え・・・。」
「時間がかかって。やっと昨日届いたんだよ。」
ベッドに腰かけ、上半身を起こした私の腕をすくい、
その右手の薬指に軽くキスをした。
「僕の代わり、だよ」
「オリバー・・・」
その熱を帯びた瞳が、私の心を刺激する。
ぎゅっと心臓をつかまれたような、妙な錯覚。
「は、僕のもの、だよ。」
きっと指輪をみるたびに、私は今この時の、
オリバーの瞳を、思い出す。
遠く離れることがあったとしても、
私は、大丈夫。
この指輪が、あなたとつながっているから・・・。
END