君への想いは変わらない。
だから、チャンスを・・・。


still loved her



撮影が終わらない。
かれこれ2時間。
このグリーンスクリーンを前に、ワイヤーで吊られたり降りたりの繰り返し。
監督はなかなかOKをださない。

なぜだ?

上手くできていると思う。
演技といっても、台詞は僕の一言。

『ビーブス! あのババァを手こずらせてやれ!』

そして笑って杖をふる。
あとは吹き付ける大型扇風機からの風をうけつつ、振り返り、前かがみになる。
それだけ。

ハリーポッターのシリーズ5作目。
僕らが演じる双子の兄弟が、学校を去るシーン。
よりによって、今日、撮影するだなんて・・・。

「今のもいいけれど、、、もう一回。」

モニターから目を離した監督が、こちらに向かってニッコリ笑った。

ワイヤーが巻かれ、宙吊りになる。
双子のオリバーも、箒へまたがる。
あと30分。

彼女の、の住む国の、日付が変わるというのに。

遠い異国に住む
半年前までは、同じ国にいた。
ただ。
僕は俳優、は大学。
それでも当たり前のように会えて。
週末はのフラットで過ごすことも多かった。
スタジオに入っても撮影の合間にデートもできた。

それなのに・・・。


 * * *


「きちんと勉強したいの。」

の夢のために、海を越えて行った。
僕は反対はしなかった。
夢を追っているのは、僕も同じだから。

「フレッド役って、あなたのためにある役よね。」

はいつだって、僕を、僕の夢を応援してくれたから。
涙ぐむ彼女を、僕は笑って送り出した。

「離れていても、、君を愛しているよ。」

お互い、追いかけている夢を大切にしたいから。
離れていても、その想いは変わらないと信じているから。




は近況を伝えるメールを、毎日のように送ってくれる。
僕は生憎、3回に1回、返せばいいほうかもしれない。
もともとメールが苦手というのもあるけれど・・・なにより声が聞きたい。
玉のようにコロコロ転がる、の声が恋しい。

それなのに、が連絡できる時間、僕は仕事。

悲しいことに、僕が連絡できる時間、は授業。

あまりにもタイミングが悪い、時差という壁。

せめて、誕生日だけは・・・。
の声が聞きたい。
にも、そう思っていて欲しい。

もうすぐ、のいる国の日付が変わる。
の誕生日。

僕はその瞬間を、一緒に迎えたい。


 * * *


 「ヘイ、ジェイ。ランチタイムに電話しなかったのか?」
 「すぐにOKがもらえると思っていたんだよ。クソ・・・」

 
チラチラと、つい、柱にかかる時計に目を走らせてしまう。
トレーラーに置いてきた携帯電話が気になる。
といっても、ママに頼んで持ってきてもらうわけにもいかない。
そんなこと、僕のプライドが許さない。

落ち着きのない僕の様子は、オリバーにもしっかり伝わっていて。

 「監督、ちょっと気分転換しませんか?」

そういって、休憩を提案してくれた。

 「(さっさと電話をかけてこいよ!)」
 「ありがとよ!」

頼もしき兄に、感謝。

ワイヤーが下り、地に足が着く。
シャツをたくし上げ、腰に付けられた金具を急いで外しにかかる。
スタッフが手伝ってくれているというのに、指が絡まりそうになる。
柱にかかる時計をみやれば・・・あと3分!

スタジオを飛び出し、雑然とした通路を抜ける。

 「おい、ジェームズ! おっきいほうか〜?」

そんなスタッフの言葉を後ろに、僕はトレーラーへ駆け込む。

まだ1分あるか?

この数秒で日付が変わってしまうのか?

カバンの中から携帯を取り出し、見慣れた彼女のメモリーを押す。

 「JAMES?」

瞬間、愛しいの声が、頭に響く。

名前を呼ばれただけなのに。
水面に波紋が広がるかのごとく、幸せな気持ちが体中に伝わる。
が近くにいたときは、あたりまえすぎて気づかなかった。


、僕は君の声だけでも、こんなに幸せになれるんだね。


胸にこみ上げるへの愛しさを歌にして、
僕は電話越しに、バースデーソングを歌った。

 「HAPPY BIRTHDAY !」

明るい声で、ありったけの愛を込めて言葉にする。
なのに。
電話の向こう側は、静寂が広がる。

 「?」

気になって呼びかけると、の嗚咽が聞こえる。
切なげな、その泣き声に、涙をぬぐえない現状がもどかしくなる。

 「・・・・・・大丈夫、僕は君のそばにいるよ。」

やさしく、にささやく。

 「・・・君の声が聞きたいよ。」

の耳がすぐそこにあるように、瞼を閉じて。

 「、愛しているよ。」

嗚咽が小さくなり、くすん、くすんと、かわいい音がする。

 「ジェームズ、私ね・・」

いつものかわいい声が、すこしかすれて、震えがちなのは。
一生懸命、涙を止めようとするからか。

「不安、だったの。ジェームズのことはわかっていたつもりだけど。
  それに、この時間は撮影中だと知っていたし・・・。でも・・・」

「でも?」

「「 声が聞きたかった 」」

声が重なり、思わず笑いあう。
僕も、も、同じ想いを抱いていたんだね。

これからは電話をかけるよ。
我慢、しない。
たとえ数分だとしても、それが意味あることだとわかったから。
僕の想いを、君に届けたいから。
君の想いを、受け止めたいから。

遠い異国に住むを、僕はまだ愛しているから。



END



あとがき

ずっとあたためていました。お目汚しすみません。
たまたま見かけた、リアルな彼女との、楽しそうな写真。
2年前のあの彼女と今でも続いているのか定かではありませんが、
最近の写真に見かけない彼女のことを想像しつつ。。。
夢是美的管理人nao