突き動かす衝動
あふれ出す波動
どうすれば、キミに届く?
VIBRATION
オレンジにブラック、そしてパープルに飾り立てられた校内を、
思い思いに仮装をしたホグワーツの住人が、グレイトホールへと
足を運ぶ。
10月最後のこの日は、恒例のハロウィンパーティー。
先生も生徒も、ホグワーツの住人皆が仮装をして夕餉を楽しむ。
けれど、正直それどころじゃない。
なぜなら・・・僕にとっては『審判の日』だから。
鏡の前でリボンタイを整えながら、思わず大きなため息が出た。
「なんだよ、ジョージ。落ち着こうぜ。」
僕と同じようにバンパイアの仮装をした相棒は、牙のついた
マウスピースを片手に、鼻歌なんて歌いながら余裕をかましている。
いや、正確には余裕をかましているように見えているだけだろう。
「まぁ、がオレを選んでも・・・」
「は!? それはお互い様だろ?」
つい吐き捨てるように、フレッドの言葉をさえぎった。
僕らは、母親さえも見分けられないときがある一卵性双生児。
クィディッチは同じポジションで、同じ位の運動量。
しかも食べ物の好みも同じだから、身長も体格も“アッチ”のほうも、
寸分変わらず。
顔や声にいたっては、クラスメイトや先生にだって見分けがつかない。
お互い、性格は少し違うとは気づいているけれど。
悲しいかな、好きになる女の子タイプまで、同じな僕ら。
『1秒でも先に出会って、好きになったほうに、優先権』
『後から好きになった場合は、応援する』
『同じタイミングなら、正々堂々真っ向勝負!』
それが僕らの恋愛ルール。
・へ告白をしたのは、昨日のこと。
情けないことに怖くて、返事はその場では聞けなくて。
だから今日、ハロウィンパーティーで2人きりになる約束をした。
「先に、を好きになったのは・・・僕だ。」
「ハイハイ、ジョージ君にご武運を。」
そそくさと部屋を出て行くフレッドに余裕を感じるのは、自分に
余裕がないからだろうけれど・・・なんだか嫌な予感がする。
「フレッド、おまえ、もしかして!!」
牙のマウスピースを右手で掴み、急いでフレッドの後を追う。
談話室を駆け抜け大回廊に足を踏み入れたとき、動き始めた階段の
その先にある踊り場で、フレッドがを呼び止めていた。
ブルーブラックのミニドレスに身を包んだは、可愛らしい猫耳と
尻尾をつけ、金色の鈴のついた赤いチョーカーが細い首を飾っている。
が微笑むと、チリンと澄んだ鈴の音が、離れた僕のところにまで
聞こえてきそうで。
「アイツ・・・」
噛みしめた唇から、血の味が口内に染み渡る。
にこやかにフレッドと話すを目にした僕は、苛立ちさえ覚えはじめた。
「っくそ!」
衝動を抑えきれずに、僕は動き始めた階段を駆け上がり、数メートルと
離れた踊り場へ飛びうつった。
「キャッ!! だ、大丈夫?ジョージ。」
「ぉぃぉぃ」
頭を抱えるフレッドを気にせず、僕はの手首をキツくつかんで、
目の前の階段をのぼりはじめた。
「ジョージ? ちょっと、ねぇ、どうしたの?」
「・・・いいから。こっち、きて」
階段を一段、また一段と登るたびに、チリンチリンと、
の首元から鈴の音が哀しげに聞こえる。
そのたびに、胸がチクリと痛む。
登りきったそこは、月明かりが差し込む最上階の通路。
ハロウィンパーティーということもあって、人影も無い。
ただ佇むのは、僕らだけ。
「あの・・・ジョージ、大丈夫?」
そういいながらも、僕の手から離れようとするの、
その手を強引に引き寄せて、か細い肩をぎゅっと抱きしめた。
瞬間、のつけている甘いフレグランスが鼻の奥をくすぐる。
は抵抗することなく、僕の胸の中にその身を預けた。
こうしてを抱きしめていると、僕の胸の鼓動は一層早くなる。
この胸の高鳴りは、に聞こえているのだろうか?
伝えたい言葉があるのに、出てこなくて。
聞かなくちゃいけない言葉が、怖くて聞けない。
心の中に渦巻くのは、焦りと不安、そして欲望。
抑えきれない負の感情を、へぶつけてしまいそうになったとき、
腕の中で、彼女の声が小さく僕を呼んだ。
「ジョージ?」
今度はしっかりと聞こえた。
の頬を右手で触れると、少し眉を潜めた可愛らしい顔が
そこにあった。
大好きで、大切な、愛しい、。
「私ね、ジョージのこと、好きよ。」
「!」
「だから・・・返事は、YES。付き合いたい、デス。」
聞きたかった言葉が聞けた時、渦巻いていた負のエナジーが
一気に開放されたような気がした。
「余裕がなくて、ほんとにゴメン」
あんなにも焦っていたのが嘘のように、素直に謝れる僕がいる。
するとは首の鈴を鳴らしながら、ゆっくりと首を振り、
はにかんで答えた。
「ジョージのキモチは、いつだってすっごい伝わってきたよ?」
「え?!」
「フレッドもね、弟をよろしくって。」
僕のへのオモイは、あまりにもわかりやすすぎて。
ずいぶん前から、にはわかっていたらしい。
僕は自分の余裕のなさから、周りが見えなくなっていて。
だから、こんな風にしか、を連れ出せなかった。
「こんな不器用な僕だけど、よろしく。」
「そんなジョージだから、私は好きになったの!」
の薄紅色のその唇を、そっとついばむ。
柔らかくて甘美なキミの唇は、僕のハロウィンキャンディー。
END