trick or treat!
お菓子もいいけれど。
あなたたちふたりの悪戯も
ホントはキライ、じゃ、ない。
Pumpkin Kiss
「悪戯?」
「お菓子?」
「「は、どっちを選ぶ?」」
気だるい秋の朝。
女子寮の階段を降り、談話室に一歩足を踏み入れるなり
耳に突き刺さるふたりの声。
いつもなら素敵なハーモニーに聞こえるだろうけれど。
一気に気分はブルーになる。
カレンダーは10月31日。
憂鬱な一日の始まり・・・。
彼らを無視して談話室をまっすぐ横切り、階段へと向かう。
案の定、ふたりとも私を追ってきた。
「「。trick or treat!」」
「どっちも、イヤ。」
「「えっ・・・」」
「イヤって、?」
「今日はハロウィンだよ?」」
フレッドもジョージも、信じられないと、目を丸くして
大げさに驚いている。
私に不愉快な朝を迎えさせた、張本人なのに。
「今日は、“何も”しないで。 監督生として、お願い。」
2年生のフレッドとジョージに向き直り、真剣に訴えた。
おふざけでも、なんでもなくて・・・心の底から懇願する。
彼らは知らない。
私に昨日、“何が”あったのかなんて。
「お願いって言われても・・・マクゴナガルにぶちぶち言われただけだろ?」
「そうそう! そんなの聞き流せばいいじゃないか。らしくもない。」
「そんな・・・簡単なことじゃ、ないの。」
昨日のコトを、ふたりには知られたくない。
でも、わかってほしくて・・・答えた声が、思わず震える。
きびすを返し、大広間へ向かうべく階段を降りようとした、
なのに。
「「、ストップ。」」
バサっとなにかがはためく音がして、数歩後ろにいたはずのふたりが、
私の前に立ちはだかった。
「少しの悪戯は、ダンブルドアだって認めている。」
「からのお願いとはいえ・・・少し、変だよ?」
確かにその通り。
ハロウィンの悪戯は校長も黙認のもの。
ただ。
スネイプ先生によるグリフィンドールの減点は目に余るものがあって。
とくに彼らふたりが入学してからは、マクゴナガル先生も頭を痛めていた。
* * *
「ミス・。すこし、お時間をいただいても?」
夕食の宴を終え、寮へと戻ろうとした私を、マクゴナガル先生が引き止める。
額に手をあて、深いため息をつきながら、先生がこぼした言葉は・・・
「明日のハロウィンを、平穏無事に過ごすように。」
誰のことを、そしてなにを言おうとしているのかは、すぐにわかってしまった。
彼らからの悪戯なき一日にしたい、ということだと。
「私から、2年生のフレッドとジョージに話せばいいのですか?」
「ええ、ミス・。
7年生でもあり、監督生でもあり、なによりあの悪戯兄弟・・・いえ、
フレッドとジョージと仲の良いあなたの言葉なら、あの子達も
少しは聞く耳を持つと思うのです。・・・お願いしますよ?」
マクゴナガル先生は、私の瞳をグッと見つめ、念を押した。
どうにかしたいという、先生の気持ちもわかっているつもりだけれど・・・。
気持ちがブルーになる。
談話室に響き渡るみんなの楽しそうな声も、私の耳には届かなくて、
まっすぐ自室へと戻った。
フレッドに、ジョージに、どうやってお願いすればいいのか。
ベッドにダイブして、そればかりを考えてしまう。
コン コン!
軽いノックの音がして、アリシアが顔を出した。
双子と同じ2年生の、私にとっては妹のような存在。
彼女は私が先生に呼びつけられたのを隣で見ていた。
「、大丈夫? その・・・元気出してね!」
ふわりと、甘いシャンプーの香り。
ああ、彼女はシャワーを浴びたのね。
「ありがとう、アリシア! 私もバスタイムにしようかしら?」
心配してくれる彼女と女子寮の扉前で別れ、人がまばらな談話室をぬけ、
監督生用のバスルームへ向かうべく、階段を上り始めた・・・のに。
グルリと回転した階段の踊り場に、絡みつくような視線のスネイプ先生。
キライじゃないけれど、私が当番でもないのに用事をいいつけてくる。
授業中にも、さりげなく肩に手を置かれたり・・・。
なにより我が寮の減点を率先して付けてくれるだけに、苦手。
できることなら、何もないままに、すれ違いたかったのに。
「ミス・。貴殿に話があるのだが。」
「話って、今ですか?」
「そうだか? なにか問題でもあるのかね?」
有無をいわさせない、その、重圧ある声。
「・・・わかり、ました。」
向き直る先生が、一瞬、フッと笑みを浮かべたように見えたけれど、
私はその後をついて、地下へと続く階段を降りていった。
ジメジメとした地下室は、あいかわらず暗くて陰気。
促されるまま椅子に座ると、目の前のデスクにもたれかかったスネイプ先生が
口を開いた。
「明日はハロウィンだが・・・貴殿は自分の立場を理解しているかね?」
「グリフィンドール寮の監督生という立場を、理解しているつもりです。」
「では。あの愚兄弟どものくだらない悪戯で、寮の品格を・・・」
「下げるつもりはありません。」
先生の言葉をさえぎり言い切ると、カツンっと冷たい靴音が響きわたり、
スネイプ先生が目の前に詰め寄った。
鼻をつく、薬品臭。
「このままでは、そうもいかないであろう・・・なぁ? ・。」
「っ!?」
「愚かな後輩をもった、貴殿の運命なのだよ。」
懐から見慣れない杖を取り出し、私の頬にぴたりとあてた。
頬から耳元へ、あご先から首筋へ。
杖が、ツツーっと肌を撫でながら、下へ下へと移動する。
「我輩が見逃すかどうかなど、君次第なのだよ、。。。」
「・・・っン!」
早く、寮に戻りたかった。
それ以上に寮の減点をどうにかしたくて。
だから、私は・・・黙ってスネイプ先生に従った。
微妙に振動する杖からの刺激。
じっとりと、舐めるような視線。
先生は直接的に手は下さない。
ただ。
衣服の上から辱め、私が悶える姿を嬉しそうに眺めていた。
「ンん、、、ハァ・・・ぁん!!」
「なにやら苦しそうだが? ・。」
スネイプ先生が、口の端だけをゆがめて笑う。
気がつけば、その手には2本の杖が握られていた。
片方はブラウスの上から胸の突起を攻めたてて、
もう一方はスカートの中へ進入し、敏感な部分をこすりはじめた。
「・・・ぃや! ハぁん、、、あ、ああぁ!!」
感じたくないのに、反応する体が恨めしかった。
声を押し殺したくて、唇を噛みしめるけれど。
杖から伝わる振動が、それさえも許さない。
恥ずかしすぎるくらい、声が出てしまう。
屈辱的で、悔しい時間。
「少しは、目をつぶることにしよう。」
彼は満足したのか、杖を片付け、冷ややかな表情のまま、その言葉を吐いた。
私は、ふらつきながらも地下室を後にし、階段を駆け上がる。
こんなこと、誰にも話せない。
あれから30分しか経っていないというのに。
大回廊は、まるで深夜のように静まり返っている。
人通りが少なくて、よかった。
寮の上階にある監督生専用バスルームも、独占できた。
「・・・っく、ひックぅ・・・もぅ、監督生なんてイャぁ。。。」
温かく柔らかなお湯につかりながら、私はつぶやくしかなかった。
* * *
目の前にいる彼らに、どうしたら伝わるのだろう。
マクゴナガル先生に注意されたことだけでなく、
その後、スネイプ先生に“指導”されたことを悟られずに、
ハロウィンの悪戯をやめて欲しいだなんて・・・。
「とにかく。私は今年で卒業だけれど、あなたたちの悪戯は規模が大きすぎるの。
今までに類を見ないくらい、それこそ生徒の限度を越えているわ!
お願い。これ以上、寮の点数を下げるわけにもいかないの。おねがいだから・・・」
そう、答えるのが精一杯。
彼らの瞳も、顔さえも見ることが出来ないくらい、恥ずかしい。
「わかった。でも、減点を主にするのは・・・スネイプだ。」
「、もしかしてスネイプに何か・・・」
勘のイイ彼ららしい。
彼らはそれ以上問い詰めることはなかった。
私はこぼれ落ちそうな涙をこらえ、彼らの前からすぐに去ろうとした。
その時
「「、お菓子をあげるよ」」
フレッドが、ジョージが、私の腕を掴んで抱き寄せた。
少し背の大きくなった2人が、私を包みこむように。
「今回は盛大な悪戯はしない。」
「君を泣かせたくないからね。」
右手に、左手に、キャンディーを乗せながら、彼らはウィンクをする。
それはまるで、妹をなだめる兄のように。
「「ただし。たった一人を、除いてはね!」」
「フレッド? ジョージ??」
私の声に手を振って、ふたりは階段をあっという間に駆け下りていった。
* * *
今年のハロウィンが、静かに終わろうとしている。
フレッドもジョージも、約束の通り、悪戯はしていない。
いつもとかわらない一日が過ぎていった。
他の生徒も比較的おとなしく、グリフィンドール寮も減点されずにすんだ。
ただ。
朝食の時間にいたはずのスネイプ先生は、その後ぱったりと見かけなかった。
魔法薬学の授業は自習となり、ランチにも夕食の宴にも姿を現すことなくて。
私はフレッドとジョージが言い残した言葉が、少し、気にかかった。
けれど
「スネイプ先生は体調を崩されたので、数日休暇をとられることになった。」
そんなダンブルドア校長の言葉に、私は胸をなでおろした。
体調を崩すことなど、たとえ魔法使いとはいえあること。
魔法薬学の先生であっても、鬼の霍乱。
減点されることなくハロウィンを終えることが出来て、しかも当分は先生の顔を
見なくて済むのだから。
* * *
バスタイムから戻ると、談話室にフレッドとジョージがいた。
彼らはソファーに座り、なにやら話している。
私は急いで部屋へ行き、用意してあった物を手に階段を駆け下りる。
「はい、パンプキンジュースとシナモンクッキー。」
腰掛けていた彼らに、可愛くデコレーションしたカゴを二つ差し出す。
中にはジュースを入れた小瓶と、クッキーの入った包み。
「これって」
「もしかして」
「「の手作り?」」
「味の保証はできないけど・・・」
「「ワァ〜〜オっ!!」」
奇声を上げながら、その場で包みを開けクッキーを頬張り、
ジュースを飲みだす。
数日前から用意していたクッキー。
ジュースは食堂でもだされるもののレシピを教えてもらった。
「悪戯、したかったでしょ?」
「まあね。」
「でも、」
「「に手作りお菓子をもらえたから、オッケー!」」
嬉しそうな笑顔に、私の受けた傷が、少し、癒される。
日頃から悪戯好きなフレッドとジョージ。
私は彼らの悪戯が嫌いじゃない。
できることなら、彼らにはこのままでいてほしいから。
「もうひとつ、プレゼント!」
そういって、私は彼らの唇に、軽くキスをした。
フレッドもジョージも、見る間に頬を赤く染める。
「「、不意打ち。」」
「ハッピーハロウィン! おやすみ、ふたりとも。」
「おやすみ、。」
「いい夢を、。」
女子寮への階段を駆け上がる。
ふたりのキスは、カボチャ味。
私はこの日を、きっと忘れない。
END