こんな不安渦巻く世の中だから
こんな世知辛い世の中だから
こんな暗い世の中だから
君の手に、僕らの発明品。
HAPPY × HAPPY
「やぁやぁ、・、ようこそ!」
「わぉ! 、いらっしゃぁ〜い!」
「「僕らの Weasley's Wizard Wheezes へ! 」」
開いた扉の向こうでニンマリしているのは、赤毛の双子。
一張羅のスーツに身を包み、腕を広げて出迎えてくれた。
「一応、顔を出しておかないとね。」
「またまた、照れちゃって。」
「素直じゃないよなぁ、って。」
彼らの胸元に【W】の社章が赤く光る。
ネクタイはグリフィンドールカラーではない、無地のもの。
嬉々として店内を案内するフレッド。
にこやかにお客さんと挨拶を交わすジョージ。
(ふたりとも・・・社会人、なんだなぁ)
ホグワーツに行っても、もう二人はいない。
卒業していなくちゃいけない年齢だし、仕方ないことだけど
なんだか、寂しい。
「すごいお客さんね。」
「まぁね、今日は出発の日でもあるから・・・」
「も、だろ?」
「確かに、そうね。」
そう、今日はホグワーツ特急がロンドンを出発する日。
入り口は狭いというのに、思っていた以上に広いW.W.Wの店内は、
ホグワーツの学生であふれかえっている。
花火を食い入るように見比べて吟味する男子学生。
怪しいお菓子を恐る恐る手に取る女子学生。
商品を手にしてレジに並んでいる顔は、どれもとびきりの笑顔。
「みんな、想像しているんだよ。」
「そう! 学校で、誰を、どうやって、驚かせようかって。」
ニヤニヤと、だけど自信あふれる二人の笑顔が、まぶしい。
店内を飾り立てる派手なフラッグも、店の中央に鎮座するゴンドラも、
手すりにくくりつけられた、Wの文字が目に付く風船も、お客さんが
手にしている双子をモチーフにした包装紙も、私は見たことがあった。
あれは夜の談話室で何度も見かけた風景。
フレッドとジョージが、頭を抱えてああでもない、こうでもないって。
それは、私が入学したころから彼らがホグワーツを去るまでずっと。
羊皮紙にいっぱいに描かれたものが、今、目の前にある。
彼らの発明が店内を埋め尽くし、彼らのアイディアが形になって。
W.W.Wは、彼らの全て・・・なのかもしれない。
「ここにあるのは、笑顔の素なのね。」
「「そうともさ!!」」
誇らしげな答えに、思わず吹き出しそうになる。
この暗い世の中、開店休業のお店が軒を並べるダイアゴン横丁なのに、
彼らの店がある93番地だけは笑顔があふれ、人があふれ、賑わっている。
フレッドは、
ジョージは、
思い描いていた夢を、叶えたのだ。
「さぁ、も今日から7年生だ。」
「悪戯されないよう頑張れよ、監督生!」
両肩を、二人がポンポンっと軽く叩く。
胸がギュッと、締め付けられた。
否が応でも寂しさがこみ上げる。
「ホグワーツに行っても、二人は、いないじゃない。」
振り絞って出した声は、すこし震えてしまったけれど。
「ところがどっこい、油断大敵!」
「僕らの発明品がいるじゃないか!」
「「で、が取り締まるんだろ?」」
彼らの陽気な声が、そんな寂しさを跳ね飛ばした。
確かに、Weasley's Wizard Wheezes の商品を見つけ次第、
没収するのは監督生の仕事でもある。
「、沢山没収してくれよ?」
「さすれば、通販の注文が増えるってわけさ!」
「まったく・・・相変わらずなのね。」
クスっと、思わず笑みがこぼれた。
フレッドもジョージも、ホッとしたように顔を見合わせている。
彼らとあの場所では会えないけれど、彼らのスピリットは、
そこかしこにあるから・・・きっと、大丈夫。
「じゃぁ、いってくるね!」
「「、WE WISH YOUR HAPPINESS!!」」
END