淡い淡い、甘いかおり
待ち望んでいた春のかおり。
夢でなかったことに、僕は思わず感謝した。
Spring fraglans
「。シャンプー、変えた?」
「うん! よくわかったわね、フレッド。」
そっと肩を抱き寄せ、私の髪にキスをしながら。
いつもの朝と変わりない、フレッド。
いつもの朝と変わりない、私たち。
付き合い始めた頃はショートだった私の髪も、少し伸びて。
「・・んっ、ちょっ! くすぐったいってば!!」
「そうかい? それは失礼。」
うなじが弱いと知っていて、彼は首筋の毛先をもて遊ぶ。
真っ赤な顔をして怒る私を見て。
くいっと口の端をあげて、フフっと鼻で笑って。
彼は、フレッドは満足そうに立ち去った。
「フレッド、なんだって?」
「え・・・シャンプー変えたのかって。」
「それだけ?」
「そう、それだけ・・・」
アリシアが信じられないとでもいいたげに、目を丸くした。
4月1日。。。そう、昨日は双子の誕生日。
私はフレッドにプレゼントを用意していたわけで。
「デート、すっぽかされたんでしょ?」
「アリシア、その・・・約束は、してなかったの。」
「はぁっ!?」
そうだよね、驚くよね・・・。
私だって約束するほどのことではないとおもっていたから。
必然的に2人で過ごせると思っていた、フレッドのBD。
付き合い始めて、初めて迎えた、彼の誕生日。
けれど、彼らは楽しそうに学校中で騒ぎまわり、いつものように
フィルチに追いかけられ、逃げきったものの、結局マクゴナガル先生に叱られ。
そろって談話室で反省文を前に眠っていた。
同じ顔をしたふたりが、羊皮紙に顔を乗せて。
すやすやと、かるい寝息を立てて。
最後にバスルームから出てきた私は、その光景に微笑んでしまった。
似たような顔をしているけれど、やっぱりフレッドは、フレッド。
「お誕生日、おめでと」
彼の寝顔に、その唇に軽くキスをして。
4月1日。
日付が変わる前に、私は談話室を抜け、寮へと戻った。
* * *
教科書を抱え、教室を後にする。
魔法史の授業には相変わらず双子の姿がなかった。
フレッドも、ランチを食べているときに手をふってくれただけで、
それから彼の姿をみていない。
先生に質問があるというアリシアと別れ、寮へと戻ろうと通路の角を
曲がろうとしたとき、
「!」
「ちょっ、えぇ!?」
聞き覚えのある声と共に、目の前に不意に手が伸びて。
強引に引き込まれたのは、廊下にそって石像が置かれたスペースの、
しかもカーテンのかかった薄暗い場所。
私はあたたかな彼の、フレッドの腕の中にきっちりおさまっていた。
「フレッド、どうしたの?」
「どうしたのって、を抱きしめたいからさ。」
背中越しに伝わってくる、フレッドの温もり。
肩からすっぽりと、私を包み込む彼の腕。
なにより素直な彼の言葉。
うれしくて、胸の鼓動は悲鳴をあげそうな勢い。
「、ありがとう。」
「・・・なんのこと?」
「誕生日、プ・レ・ゼ・ン・ト!」
うれしそうなフレッドの、弾んだ声。
フレッドに渡す予定だったプレゼントは、まだ私のクローゼットの中。
唯一、4月1日に彼と会えたのは、あの談話室。
思い当たるのは・・・
「・・・起き、て・・・たの?」
「もちろん! のシャンプー、春の香りなんだね。」
そういって、フレッドは今朝と同じように私の髪に顔を埋めて。
うれしいけれど、もどかしい。
私は、フレッドとキスしたい。
私は、もっとフレッドとふれあいたいのに。
初めての恋に、とまどってばかりで。
どうしていいのか、いつも手探り。
「・・・・て、よかった。」
「? どうしたの? フレッド。」
「夢じゃなくて、よかったよ。」
「夢って。ちょっ・・・フレっ!?」
くるりと強引に私を向き合わせれば、フレッドの右の口角がクイっとあがる。
見慣れたあの、ニヤリ笑い。
だけどすぐさまその笑みは消え・・・ふわっとした、優しい微笑みに変わった。
私を見つめる、まるで熱を帯びたようなフレッドの瞳に、魅入られて。
艶やかでいて、桜色のその唇に、吸い寄せられて。
あたたかな感触が、くちびるをふさぐ。
「もっと、とキスをしたいよ。」
「フレッド。。。」
「もっと、を感じたい。」
「・・・私だって。でも」
音をたてて、ついばむように、フレッドがキスをする。
何度も、何度も。
「もう、我慢はしないよ。」
「我慢?」
気になるけれど、それって・・・
「ジョージの奴にも彼女ができたようだしね。」
「へ!?」
「これで心置きなくといちゃいちゃできる!」
杖を取り出したフレッドは、石像に向かって呪文を唱え始める。
カチリと音がして、石造の後ろにいつの間にか扉が現れた。
「あの・・・フレッド?」
「。春のような、君の香りに包まれたいんだ。」
導かれるままに、私はその扉へと進む。
そのさきにあるのは、待ち望んだ・・・SPRING。
END