ねえ、フレッド。
無理に思い出にしなくても
いいよ・・・ね?
Good Luck My Love
ホグワーツの決戦は、凄まじいものだった。
学校が燃えるニオイ、血のニオイ、友の悲鳴。
戦争というものの怖さを、肌で感じながらも
杖を握りしめ、呪文を叫び、立ち向かった。
『ハリーは渡さない。』
そう、みんなの心は一つだった。
でも現実は容赦なく、そして厳しいもの。
私のすぐそばにいたハッフルパフの寮生は、
青い閃光に包まれてそのまま・・・。
「助けられなかったわ・・・。」
向かい側で、トレローニ先生が泣き崩れている。
すすり泣く声とうめき声、そして誰かを励ます声。
ここは・・・救護室になったグレイトホール。
ぼんやりと思い出す。
私は・・・誰かが放った呪文に飛ばされたんだ。
中庭の真ん中から、強い力で通路の柱に体を強く
打ち付けて、痛みに気を失って・・・
「嘘よ!嘘だといってーーーー!!!」
一際大きく悲痛な叫び声が、耳に届く。
ゆっくりと視線を動かすと、ホールの中央に
人だかりができていた。
赤毛の、見たことのある人たち。
横たわる誰かにしがみつき、叫んでいるのはモリーママ。
ロンと一緒にいるのは、耳を怪我したジョージ。
じゃぁ、横たわっているのは・・・!?
「フレーーーーード!」
モリーママの叫んだ名前に、何も考えられなくなった。
振り返り、こちらに近づいてくるジョージの険しい顔つきが、
状況がいかに深刻で、絶望的なのだと伺わせる
「ね、うそ・・・でしょ?」
「・・・。夢なら、いいのにな。」
瞳に涙を浮かべるジョージが、声を搾り出した。
頭の中が真っ白になる。
ジョージに支えられながら、ホールの中央へ足を運ぶ。
眠っているとしかいいようのない、フレッドがいた。
「なん・・・で? ねぇ、どうして??」
フレッドの肩を揺らしても、力なく左右に身体が揺れるだけ。
「フレッド? 目を開けて?」
そっと頬に手を寄せても、ばら色だった頬は青白く、
なによりもう、冷たくなっていた。
死を覚悟してこの戦いに臨んでいなかったといえば嘘になる。
でも、まさか、彼に死が訪れるなんて・・・。
それだけありえないと、ずっと信じてきたから。
リアルを受け入れられないまま、私はまた、気を失った。
* * *
「思い出に、できないよ・・・。」
フレッドのお墓にくるのは、これで何度目だろう。
季節が流れても、彼はいつも花に囲まれている。
「思い出にしなくて、いいんだよ。」
振り返ると、ジョージがたたずんでいた。
フレッドによく似た顔と、フレッドに良く似た声で
言われると、まるで・・・
「なんだか、フレッドに言われた気分」
私の言葉に、ジョージは目を丸くして口をへの字にする。
「何をおっしゃる。僕の方がオトコマエだ!」
こんなときにもおどけるジョージに、少し救われた気がした。
「そっか、思い出にしなくて、いいんだ。」
そう口にしたとき、心につかえていたモノが、ストンと落ちて
すっと消えた感じがした。
「。今のままでいいんだよ。」
「今の、まま?」
「ああ、そうさ。」
ジョージは、お墓にリースをかけながら私の問いに答えた。
「の心にいるフレッドを、追い出さないでほしいんだ。」
「追い出すなんて・・・。」
「人に忘れられたときが、本当の死・・・なんだってさ。」
そう言って、ジョージは遠くを見た。
ジョージにとっては、大切な双子の兄だったフレッド。
私にとっては、生まれて初めて、好きになった人。
「私、忘れられないよ、フレッドのこと。」
私の言葉に、ジョージはニッコリと微笑み返してくれた。
「うん、わかってるよ。」
目が合うだけで、ドキドキした。
名前を呼んでもらえるだけで、嬉しかった。
言葉を交わせた日は、一日中幸せだった。
たったそれだけ。
でも、大切な大切な私の初恋。
「私の初恋は、さよならだけどね。」
「ああ。」
フレッドのそばにいた、ジョージらしい、返事。
私の気持ちを、わかってくれていたという、安心。
実ったかもしれない、実らなかった、私の初恋。
「バイバイ・・・。」
さわやかな、早春の風が頬をなでる。
私たちはふたり、並んで歩き始めた。
END