星の降る夜。
もしも願いが叶うなら。
私が願うのは・・・。
The Night of The Shooting Stars.
そっと寮を抜け出して、天文台へと続く階段を登る。
もしも先生に見つかったときの言い訳は、バッチリ。
ローブの下の、防寒対策も万端。
「そろそろよね。」
ポケットから取り出した懐中時計は、3時半を指し示している。
ギィっと重たい扉を開けると、そこは見慣れた天文台。
秋も深まった夜ともなれば、頬をなでる風も、冬の気配を
感じるくらい、ツンと冷たい。
ローブの首元をしっかりしめて、観測台へと続く螺旋階段を
足音を潜めて登ると、そこには星明りに照らされる先客がいた。
「・・・だあれ?」
「ああ、か。僕だよ、ジョージ。」
ブランケットを頭からかぶった大きな物体が答える。
聞きなれたテナーボイス。
トクンと、心臓が跳ねたのがわかる。
彼は悪戯好きな双子の片割れ、ジョージ・ウィーズリー。
同じ寮の、一つ上の5年生。
私の、今、好きなヒト。
天文学には興味のなさそうな彼が、ここにいる。
正直、それだけでも奇跡なのに。
「、よかったら隣、くれば?」
「あ、ありがとう。」
おいでおいでと、手招きをするジョージが、年上だけどなんだか可愛くて。
なにより嬉しくて。
ちょっと緊張するけれど、持参したブランケットを敷いて、
私はジョージの隣に腰掛けた。
「・・・、そんなに離れなくても。」
「あ、うん、そうだよね。」
クスっと鼻で笑うジョージの声。
確かに。
私とジョージの間には、人ひとり分のスペース。
恥ずかしさで固まっていると、ふわりと右半身に温もりが伝わる。
「ほら、これなら暖かい。」
彼のブランケットが、私も包んでいた。
ローブ越しに伝わる、ジョージの体温。
ここまで彼に接近するのは初めてで。
緊張を通り越して、妙に落ち着いてしまった。
「・・・ありがと。」
「どういたしまして。」
満足げな彼の声。
かすかに香るのは、ジョージのグリーンノート。
気にしないようにして、空を見上げてみる。
「星、降るかな。」
頭上の星空は、ホグワーツ城を照らすかのように瞬いているけれど、
私はまだ、それを見つけられないでいる。
「昇りはじめたオリオンの右手が輻射点、だろ?」
「シニストラ先生もそんなことを・・・ジョージ、頭イイ!」
ポンポンと、彼の大きな手のひらが、私の髪を軽くなでる。
談話室でOWL試験の結果が最悪だったと自慢(?)している双子を
見たばかりだけれど、こうしてちゃんと身についているところをみると、
彼らは試験が嫌いなだけじゃないかなって。
「シリウス、リゲル、ベラトリクス、そしてベテルギウス・・・あのあたりだよ。」
ジョージの指が示したその先に、オリオンがあった。
特徴的な、リボンの形。
と、赤く輝くべテルギウスの左側を、ひときわ輝く一本の光の筋。
「「あ!!」」
同時に声を上げたのは、同じ流れ星をふたり一緒に見つけたから。
一直線に、花火のように流れ落ちる光。
私が今まで気づいていなかっただけなのか、それともたまたまか。
次から次へと、頭上から星が降りはじめた。
「流星群って、すげぇ。」
「うん、綺麗。」
細い光
短い光
長い光
願い事が叶いそうな、星の降る夜。
叶うのならば、届けてほしい、大切な願い。
彼の隣で、私はそっと瞳を閉じた。
(ジョージへ想いが届きますように・・・届けられますように。)
「、何をお願いしているんだい?」
「っ!!」
不意に耳元で囁かれた言葉に、驚きが隠せなかった。
ニヤニヤしたジョージの顔が、手に取るように浮かぶけれど、
「な、内緒だもん!」
私の顔は、きっと耳まで真っ赤。
とりあえず、星明りがごまかしてくれている。
「ふ〜〜〜ん」
意味ありげなジョージの返事を聞かなかったことにして、
私はまた、星空を見上げた。
雨のように降り注ぐ・・・まさに流星雨。
こうしてジョージと一緒に空を眺めているってことだけでも、
正直、願いが叶ったようなものだけれど。
どうか、告白できる勇気が、持てますように。
そして。
ジョージが世界で一番好きっていうキモチが、彼に届きますように。
END