わからない、キミのキモチ。

わからない、キミのココロ。





Capricious Boy







 「ーーー!!」


廊下の向こうから、手を振りながら駆け寄ってくる。

大好きな、大好きなキミ。

赤毛にそばかす、双子の片割れ。


 「ジョージ・ウィーズリー。 どうしたの?」

 「は今度、ホグズミードへ行くのかい?」


息を切らせて、頬を染めて。

まるで彼のまわりだけ春のようにきらめいて見える。

嬉々とした瞳は、思い描く言葉を待っていて。

けれど。

うっすらと雪が積もった中庭からの空気が、ひんやりと私の頬をなぞる。


 「そうね、一応。」

 「やった!!」


静かに答えた私とは対照的に、弾むようなジョージの声。

すぐそばで嬉しそうにはしゃぐ彼の吐息は、ふわふわと綿あめのよう。


 「じゃぁ、マダム・パティフッドの店へ行こうよ!」

 「・・・ジョージ」

 「一緒に飲もう! この際、コーヒーでいいから。」

 「ジョージ!」


思わず声を荒げてしまった自分に、ハっとする。

一呼吸おいて、天真爛漫な笑顔を振りまく彼に、立ち向かう。


 「それは・・・無理よ。」

 「なんで? たまには僕らも」


ジョージの唇に、そっと人差し指をあてる。

その先に続く言葉を、この場所では、言わせられないから。


 「ジョージ、わかって。」

 「・・・。」

 「私は、れっきとしたホグワーツの」

 「教師、だろ?」


私が言い終わる前に、彼がため息混じりに言葉を続けた。

前髪をサラッとかきあげながら、視線を遠くに落とす。

そしてそのまま、背を向けた。

その仕草に、どうしようもない衝動が湧いてしまう。

焦りと、寂しさと、悔しさ。


 「私だって、そりゃ、一緒に出かけたいし、お茶したいし。」

 「・・・」

 「だけど立場上、付き添いであって、あくまで監視役で、あって・・・」
 

感情が高ぶって、涙があふれそう。

ううん、あふれているかもしれない。

私に背を向けたジョージが、にじんで見えるから。


 「は、僕よりも自分の立場の方が大事なんだよね。」

 「ジョー・・・」

 「僕は、が、一番・・・なのに。」


さっきまでの、明るい声とはうってかわった、搾り出すような声。

ようやく振り向いて、交わった視線は、落胆の色に包まれたダークブラウンの瞳。

ズキンと、胸の奥が痛む。


 「でも、それとこれは違うでしょ?」

 「・・・。」

 「わかって、ジョージ。」


答えのかわりに、彼は、私から視線をそらせた。

そして。

天から落ちてくる雪をみあげて、残酷な言葉をつぶやく。


 「は、僕のコトなんか愛しちゃいないんだろ?」

 「そんな!」

 「別れたって、どうってことないんだろ?」

 「そんな、そんなわけない!」


言い返しても、ジョージの反応は殆ど変わらない。

何事もなかったかのように、ぼんやりと空を眺めている。


 「愛しているなら、ここでキスしてよ。」

 「ジョっ・・・」


気まぐれな君が口にしたのは、きっと思いつき。

責めるような口調。

我侭な言葉。

キスしたくても、できないリアル。


 「ほら、できないじゃないか。」


瞳は怒っているような、ニヒルな笑顔。

こんな笑顔がみたいわけじゃないのに・・・。

いつもこうなってしまう。


 「もう、いいよ。先生。」

 「・・・。」


バイって手を軽く振って、ローブをひるがえし去っていく。

廊下にコツコツと、彼の足音だけが冷たく響く。

愛しているに、決まってる。

こんなにも、いとおしいのに。


 「どうして、わかってもらえないの・・・?」


涙が頬をつたう。

これからもこんな悲しい思いをしなくちゃいけないの?

私は、馬鹿みたいに夢中なのに。


 「ジョージ!」


駆け出して、その手を掴んで、彼の腰に腕を巻きつけた。

あの言葉は、きっと彼の気まぐれ。

けれど私は、この恋を、失いたくないから。


 「ここでキス、しよ?」








END

あとがき


Secret Honey の続きだったりします。
現実は甘くないんです、ええ。
年下の彼との葛藤に悩むさん。
ものわかりのよい彼なら違うのかな?
大好きなヒトの曲をイメージしたお話です。
(なかなかライブでは歌ってもらえないケドね。)

夢是美的管理人nao