めがね

メガネ

眼鏡

透明な壁だと、ずっと思っていた。




Open your eyes






赤い蒸気機関車から吐き出される蒸気の向こうから、
ホグワーツでは有名な赤毛の一家が現れた。
その先頭にはカートを押す双子のノッポくん。

 「ハィ、フレッド! クリスマスはどうだった?」

荷物を積みこみ終えた私は、双子の一人の元へ駆け寄り、
教室で、廊下で、ホグワーツにいるときと同じように声をかけた。

それなのに・・・

 「え、ごめん。君は・・・誰?」

返ってきたのは、思いもよらない言葉。
不思議そうに首をかしげ、いぶかしげに私を見つめる。
彼の顔は、けっして偽りではなくて。
いつもの悪戯で、そう答えているわけでもなくて。
その姿が余計に私を苛立たせた。

 「よ! 忘れたの??」

 「、、、えぇっ?! ?」

フレッドの、一気に青ざめた顔が目の端に映ったけれど、
あまりの腹立たしさにきびすを返し、私は列車に乗り込んだ。

本当は・・・真っ先に、気づいて欲しかった。

眼鏡をやめたことも。
短く切った髪も。

気づいて欲しかった、フレッドだけには。。。



* * *



 「お客様、いかがでしょうか?」

 「へ、え、ぇっわーーーっ!」

 「最初は慣れないかもしれませんが・・・」

幼い頃ころから、それがあることが当たり前だった。
私の前にある、眼鏡という名の『透明な壁』。
ぼやけて滲んだ視界を鮮明に見せてくれる眼鏡。

だけど・・・クリスマス休暇中に作ってみたかった、
コンタクトレンズ。
念願叶って手にできた。

 「これで眼鏡も卒業!!」
 
 「ったら、本当にうれしそうね。」

 「ママ、ありがとう!」

眼鏡ケースの入った紙袋を手に、店を一歩、出た。
瞬間、外気が頬をなで、粉雪交じりの冷たい風が、
遮蔽物のない、まっさらな瞼と瞳にあたる。

うれしくて、面白くて。
つい、クルクルと回転してみた。

 「ぅわっ! なんだか不思議な感覚!!」

 「はしゃぐのはそのくらいにしなさい、。」

 「はーい。」

往来の人の目が気になるのか、ママはすぐに注意してきた。
確かに、コチラをみてクスクスと笑っている人もいる。
ちょっと恥ずかしさもあるけれど、でもやっぱり嬉しくて。
駐車場へと続く道が、まるで雲の上を歩いてるような、そんな、
ふわふわとした、幸せな気分。

 「ねぇ、学校ではコンタクトで過ごすの?」

 「あ・・・んっと、わかんない。」

 「眼鏡、ちゃんと持っていくのよ?」

 「はぁ〜い。」

間延びした言葉を返して、私は車に乗り込む。
エンジンをスタートさせたママは、いつものようにラジオを
かけて、ハンドルをきった。
助手席から外を見れば、ひらりひらりと舞う雪と、私の間にある、
窓という透明な壁。

入学して3年目。

グリフィンドールのみんなの前で眼鏡をはずしたことなんて、
ほとんどない。
バスタイムでさえ、眼鏡のままな私。
けれど、家へと向かう車の、そのサイドミラーに写るのは、
眼鏡の無い、ショートボブの私。

クリスマス休暇に入るまでは、腰まであった髪。
そして、定位置にあった明るい赤のセルフレーム。

 「私だって、わかるよ・・・ね。」

明日。
キングスクロス駅で会うことになるホグワーツのみんなの、
そして大好きなフレッドの反応が、楽しみでもあり・・・
少し、怖かった。



* * *



 「悪かったよ! 、ゴメン!!」

 「・・・。」

楽しそうなコンパートメントを後ろに、私の隣ではフレッドが
平身低頭という言葉さながら、ただひたすら謝っている。

 「がまさか、こんなに変わっちゃうなんて思わなくて。」

 「こんなに? 変わっちゃう??」

 「いや、あのさ、イイ意味で、だよ?」

 「ふぅーん。」

まいったなぁーという、フレッドの小さな呟きなんて、まったく
耳に入らなかったように装い、私は車窓を眺めた。

ホグワーツ特急は真っ白な雪原を、いつもと同じように進む。

目の端に映る車両の連結部分は、コンパートメントから抜け出した
恋人達が、身を寄せ合い、楽しげに会話をしているというのに。。。

 「こんなことなら、眼鏡のままにすれば、よかっ・・・」

 「。。。」

なんだか無性に悔しくて、声が震えた。
こみ上げるのは、哀しみ? 怒り?

 「は、眼鏡がなくても可愛いよ。」

 「っ?!」

瞳からあふれ出た一粒を、フレッドのキスが掬い取る。
びっくりして彼の顔を見れば、ニヤリとしたり顔。

 「そりゃあ、といえば、レッドフレームだけどさ。」

 「赤眼鏡?」

 「そう、君に一番似合う色だ。でも・・・」

 「?」

 「ある種のバリア、というべきか、なんというか」

口ごもる彼の態度が、いつもと少し違うことに気づいたときには
フレッドの赤い髪が、私のすぐそばにあって。

甘い吐息と共に、
彼のささやきが、耳に、届いた。

 「ショートボブも、イイね。」

 「、、、ありがと。」

フレッドとの距離が、あまりにも近すぎて。
胸の鼓動がいつにも増して、早くなる。

 「でも、さぁ。」

 「えっ」

ドキッとして、反射的に離れようとしたのに。
フレッドのほうが一足先に、私の肩を掴む。

 「こういう可愛いトコロは、僕だけに教えてよ、。」

 「ふれっ!?」

ぐいっと引き寄せられて、私はすっぽりと、暖かくてそして
グリーンノートの香る、フレッドの胸の中。
それは、彼の少し早い鼓動が耳に届く、近さ。

 「本当の、が見れて嬉しいよ。」

 「フレッド。。。」

瞼にふわりと、彼の唇。
その感覚に、ドキリとする。

だって・・・今までありえなかったことだから。

これって、勘違いじゃないよね?
悪戯じゃ、ないよね?

 「私の片思いじゃないって、こと?」

 「もちろん。だから。眼鏡をはずすのは、僕の前でだけにして。」

 「それって、もしかして・・・独占欲?」

思わず吹き出しそうになる私の唇を、フレッドの唇がやわらかく塞いだ。
やさしく、ついばむように、何度も、何度も、彼からのキス。

 「なんとでも。それだけ本当の君は・・・」

 「・・・んン」

 「、君はとても魅力的なんだよ?」

誰にも言ってもらえなかった台詞に、癖になりそうな、とろけるように甘美なキス。
コンパートメントの喧騒を他所に、瞳を閉じて、フレッドを・・・感じて。

 「ありがとう、。」

 「ん?」

 「本当のを、見せてくれて。君の全部が、大好きだよ。」

ほわんと、心があたたかくなった。
ああ、フレッドはちゃんと、わかってくれたんだって。

私の前にあったのは透明な壁でもなんでもなくて。
あくまで私の一部。
ただそれは、瞳を閉じた私。

あなたには見せたかった。 そしてなにより、受け入れて欲しかった。
瞳を開いた、本当の私を。






END

あとがき


 「僕はその、眼鏡が・・・好きで・・・その。
   nao様の眼鏡をかけているときが好きです!」
 「ええ?!・・・って、眼鏡かよ!」

はい、実際にバレンタイン数日前におこった事実です。
あの頃はまだ、あの場所は自由で(ry 
はいはい、懐古厨ですね、サーセン。

虚しい・・・そして、笑えん。orz

これは眼鏡(と妹)が好きな従僕の卒業記念ドリも兼ねていまして。
本人にはいい迷惑なので絶対に秘密です(え
夢是美的管理人nao