休憩時間に入ったカフェスタンド。
ガラス越しに見えるのは、通り過ぎる楽しそうな恋人たち。
バレンタインを明日に控えて、なんだかやけにまぶしい光景。
店を後にし、冬の薄曇りの空を見上げて、そっとつぶやく。
「あいたい・・・あいたいよ。。。」
Sad Valentine's Day
小高い丘にある、こじんまりとした墓地。
日当たりが良く、花の絶えない墓石。
私も真っ白なガーベラを、そっと手向ける。
【1978.4.1〜1998.5.2】
【フレッド・ウィーズリー 此処に眠る】
20年と少しを走り抜けた、彼。
まぎれもなくここで眠っている・・・永遠に。
「あいにきたよ、フレッド。」
バレンタインの今日は、まるで春のような暖かさ。
私を包み込む日差しは、彼の温もりのよう。
「早いね、あれから15年経っちゃった。」
墓石をそっとなでながら、話しかける。
15年前の今日が、全てのはじまりで。
なにより二人にとって、大切な日だったから。
『バレンタインデイはね、気持ちを伝える日なんだよ?』
『ねぇ、。 僕がどれほどキミを好きなのか・・・知ってる?』
あのときの、フレッドのうわずった声も。
照れた笑顔も、抱きしめてくれた温もりも。
『言葉にすると軽くなるけど。ずっと、を愛してる。』
「ずっと?」
『がおばさんになっても、おばあちゃんになっても!』
頬に触れた、フレッドの唇。
初めてのキス。
忘れられない・・・忘れたくない。
「あなたのこと、まだ好きでいて・・・いいかな?」
楽しかった日々を思い出しながら、眠るフレッドに問いかける。
答えが返ってくることは、永遠にない。
涙が、ぽたりと、墓石に落ちる。
彼がいなくなってしまって、心にポッカリと空いた穴。
その穴を埋めてくれるほど、好きな人に巡りあうこともなく。
気がつけば過ぎ去った10年。
忘れることが一番という人もいる。
けれど、10年が過ぎた今でも、私はフレッドを忘れない。
フレッドへの想いは、まだ消えそうにないから。
涙のあとを、春の風がそっとなでる。
そんな・・・哀しいバレンタイン。
END