教室の片隅で、マグルの雑誌をみて騒ぐ女生徒たち。
ロック歌手に映画俳優、コメディアンが載っている本だ。
でもなんだか今日はいつも以上に盛り上がっている。
よもや彼女までも・・・え!?
ちょ、?
IDOL
「どうしたの? フレッド。」
「・・・なんでもない。」
なんともぶっきらぼうな答え。
私の顔を見ようともしないで、視線はあさっての方向。
頬づえをついたまま、なんだかふてくされて・・・子供みたい。
授業を終え、ようやく声をかけたのに、私の彼はご機嫌斜め。
「、フレッドなんてほっとけよ」
「ジョージ?」
すっかり身支度を整えたジョージとリーが、笑いを押し殺しつつ
コチラの様子を伺っている。
ほっとけるわけ・・・ないじゃない。
「ねぇ・・・フレッ」
「なんでもないって!」
いらだちぎみの答えに、思わずたじろぐ。
フレッドは一瞬、ハっとしたような表情になったけれど。
すぐにまた、ふてくされフレッドに戻ってしまった。
「ほら、フレッド。クィディッチの練習に遅れるぞ!」
「・・・今、行く。」
リーの声に反応して、立ち上がるフレッド。
乱暴に荷物をまとめて、結局こちらを見ないまま教室を後にして。
胸の奥がちくりと、痛い。
そんな態度のフレッドが、なんだか悲しくて。
「あいつ、ヤキモチ焼いているのさ!」
スッとよってきたジョージが、耳元でささやかなければ、
私は涙を流していたのかもしれない。
ウィンクをしながら、声に出さないで
『、だいじょうぶだよ!』
そう言い去るジョージに、私は思わず微笑んでしまった。
* * *
「キャー!ジョージ!!」
「フレッド!フレーーッド!」
「キャーーー!!」
練習場から、場違いな黄色い歓声が上がる。
とくに練習試合をしているというわけでもないのに、
このところグリフィンドール生が練習しているところを
他寮の生徒までがこぞって見学している。
原因は、ハリーと、ウィーズリーの双子人気。
以前から双子人気はあったのだが、ハリーが入ってからというもの、
輪をかけて双子の人気もあがったのだ。
実際、空を飛び回るフレッドは、とても楽しそうで、かっこよくて。
「彼女が、わたしなんかで、いいのかな・・・」
ぽつりと、口をついて出てしまった。
隣にいたアリシアが、それを聞き逃すわけもなくて。
「・! フレッドがあなたを選んだのよ? 自信もちなさいよ!」
いつもは私が励ます側なのに、アリシアが私を励ましてくれた。
同じように宙を舞うジョージを見ながら、彼女はいつになく凛として。
「って、ジョージの受売りなんだけど。」
「あ、アリシア!?」
「彼女たちにとって、彼らは手短なアイドルなのよ」
「アイドル?」
歓声を上げる生徒に視線を投げ、軽くうなずいたアリシアは、
休み時間に皆で見ていたマグルの雑誌を、ローブから差し出した。
「ここに載っているアイドルには、到底、手が届かないでしょ?」
「ええ。」
「だけど・・・あそこにいる彼らとは、話もできるし、いつでも会える。」
「・・・そうね。」
「ファンが増えれば、グリフィンドールの応援にも熱が入る、でしょ?」
応援が増えれば、選手のモチベーションも上がり、勝利へと繋がるわけで。
嫉妬しても、ヤキモチを焼いても、それは意味のないこと。
「そう・・・そうね!」
「、わかった?」
フフッと嬉しそうに、アリシアは雑誌をローブにしまった。
そして風になびく髪を耳にかけ、視線をまた空中に戻す。
私とフレッドよりも、数歩先を進んでいる、ジョージとアリシア。
2人のお陰で、肺に新鮮な空気が送りこまれたように、すがすがしい気分になった。
* * *
「お疲れ!フレッド。」
「・・・っ、ああ。」
談話室にドカドカと練習からもどった生徒が入ってきた。
一番最後は、フレッド。
いつもと同じように駆け寄って、いつもと同じように声をかけた。
フレッドはまだすこしぶっきらぼうだけれど、ちゃんと私を見てくれて。
「、その・・・」
「?」
「さっきは、ごめん。」
鼻の頭をかきながら謝るフレッドは、少し照れているようで。
なにより、ちゃんとあやまってくれたことが嬉しかった。
「ねぇ、フレッド・・・あのね、、、」
背の高いフレッドに、ちょっとかがむように手招きして、
そっと耳元でささやいた。
瞬間、彼の顔は真っ赤になってしまったけれど。
その姿が、なんだか可愛く思えてしまったのは、ナイショ。
「大丈夫。だって・・・あなたは私の恋人、でしょ?」
END