ステージの上、がいる。
白い衣装に身を包み、ふわりひらり、くるりと舞う。
その姿はまるで・・・
SNOW CRYSTAL
「ねぇ、フレッド。雪って、ダンスをしているみたいじゃない?」
「え?」
「雪がね、くるくるって、舞っているなって。」
「・・・。君って本当に、根っからの表現者だよ。」
そう? 振り向きながら、君は答える。
ふわふわと降り積もる雪は、僕にとっては見慣れた冬の情景。
あまり雪の降らない国からきた、。
踊ることが好きな彼女らしく、雪がダンスしているとは・・・。
言われて空を見上げる。
大きめの、綿のようにふんわりとした牡丹雪。
ゆっくりと空中を漂うその姿は、確かにダンスをしているようにも見えるけど。
「僕には、天使の羽が舞い降りているようにもみえるよ。」
「フレッドって、、、案外ロマンティストね。」
「思ったままを言ったまでだよ・・・。」
ちょっとムスっとしながら答える。
ロマンティストだって、いいじゃないか。
そんな僕のことなどお構いなしに、はマイペースに歩く。
年が変わって最初のホグズミード行きの帰り道。
バタービールでいい気分になったのか、は鼻歌交じりだ。
コートを翻し、ふわりふわりと踊りはじめた。
その長い髪に、雪の薄片が落ちる。
楽しげに舞う彼女の姿は、まるで雪の妖精。
そっと風をつかむかのように、でも指の先まで優雅。
雪と戯れ、くるりとまわろうとしたその時。
の体がぐらりとゆらいだ。
僕はとっさに彼女の腕をつかみ、その身を引き寄せた。
「飲みすぎじゃないのか? 足元がふらついている。」
「ありがとう、フレッド。・・・大好き。」
僕はを、そのまま抱きしめた。
も、それを拒まなかった。
なんとなく、がどこかへ行ってしまうような気がしていた。
ぬぐえない焦燥感。
今、ココで腕を緩めたら、彼女は飛び立ってしまいそうで。
この雪に、君がまぎれてしまいそうで。
「フレッド、私・・・」
「。。。もう少し、このままで。」
「・・・うん。」
の口から、何が語られるのか・・・考えたくもない。
別れを告げるものか、愛のささやきなのか。
の温もりを感じたくて。
がココに、僕の腕の中にいるということを確認したくて。
雪が舞い降りるの中、ただただ、を抱きしめていた。
* * *
次の年の冬、僕はの舞台を見るために劇場へ足を運んでいた。
ホグズミードでを抱きしめたあの日から数ヵ月後。
春になる前に、はホグワーツを去っていった。
魔法使いであるまえに、やりたいことができた、と。
そして僕らも、自由のためにホグワーツを旅立った。
目まぐるしい日々の中、ふと手にした預言者新聞。
見覚えのある、その笑顔。
その下には、『・』のクレジット。
彼女はマグルの世界バレエコンクールで一位になっていた。
しかもの所属するバレエ劇団が、来月からロンドンで
公演をするという内容の記事だった。
「おいっ! フレッド、どうしたんだ?」
そんなジョージの声さえも耳に届かず。
僕はすぐさま、その公演のチケットを買いに走っていた。
公演日、ジョージに仕事を全部押し付けて、漏れ鍋からロンドンへ。
柄にもなく花屋に立ち寄っていたら、開演時間ギリギリ。
少し遅れて、劇場に入った。
薄暗いステージ、ピンスポットで照らしだされたプリマ。
約一年ぶりに見るは、変わらず華奢で色白だった。
舞台の上、ふわりと舞う姿に、あの日の雪景色が重なる。
まるで、雪の妖精のように踊る。
この舞台が終わったら、手にした花束を君に渡すよ。
夢をかなえた、、君に。
「おめでとう。」
その言葉を添えて・・・。
END