談話室で淹れる、一杯の紅茶。
丁寧に、思いを込めて。
のために・・・。
A cup of tea
眠れなくて。
ルームメイトを起こさぬように、ベッドから足を下ろす。
土曜日の深夜。
見上げた窓の外には、昇りはじめた下弦の月。
ぼんやりとしたまま、談話室へ踏み入れる。
パチパチと燃える薪の音が、静に響いて・・・。
大丈夫。
人気がなくても、ここは温かいはずだから。
炎を眺めていれば、きっと眠くなるから。
歩みをすすめたそのとき。
「、眠れないのかい?」
暖炉の前から、聞き覚えのある声。
スクッと立ち上がったその姿。
揺らめく炎に照らされて見える、赤毛に、そばかす。
似た顔の人物が2人いるけれど。
私の名前を優しく呼ぶのは、ジョージだけ。
軽くうなずいてみせると、彼はそっと手招きする。
近づいてみると、並んだイスでフレッドがスヤスヤと眠っていた。
「二人そろって悪戯作戦会議?」
「企画会議と言ってくれよ。さすがに練習後だから眠くてね。」
つい寝ちゃったんだ、と気だるそうに頭をかく。
クィディッチの練習も、悪戯の作戦会議も、
「ジョージにとっては、どっちも大切なんだよね?」
「まぁ・・・ね。」
シュンシュンと音をたて、白い水蒸気がケトルからのぼりはじめた。
サイドテーブルには、あたりまえのようにティーセット。
ミトンをつけ、ジョージは慣れた手つきでケトルをとりあげる。
「は、いつもの?」
「うん、ミルクたっぷりでね!」
茶葉の入ったティーポットにお湯を入れ、ジョージは暖炉にケトルを戻す。
こうやって、ジョージに紅茶を淹れてもらうのは何度目だろう。
一ヶ月前に、私から「スキ」って伝えて。
ジョージからは「ありがとう」といわれただけ。
別段付き合っているとか、デートをするとかでもなくて。
ジョージは相変わらずクィディッチと悪戯三昧の毎日。
私も今までと同じように、クラスメートとして接している。
ただ変わったことといえば。
ジョージが私の名前を、やさしく呼んでくれるようになったこと。
なによりこうやって、彼に紅茶を淹れてもらえるようになったこと。
そんな小さな幸せを嬉しく噛みしめる日もあれば、不安になる日もあって。
今夜は後者。
もうすぐクリスマス。
私もジョージも、今年はホグワーツに残る。
生徒で楽しむパーティーに、ジョージと参加したいのに。
そのことに触れられない、私がいて。
そんな不安に押しつぶされそうで、眠れなかった。
それなのに。
砂時計の砂が落ち切るを見つめていると、その向こう側には、ジョージの笑顔。
あたたかくて、ふんわりとした、彼の笑顔。
思わず私も微笑返してしまった。
「の笑顔、好きだな。」
ジョージはそういいながら、ティーカップにストレーナーをかけ、
とぽとぽと紅茶を注ぐ。
砂糖を小さじ1杯、ミルクをくるりとひとまわし。
私の好み、すっかり覚えてくれている。
「特製ミルクティー、温かいうちにどうぞ。」
「ありがと、ジョージ。」
スプーンをくぐらせれば、鼻をくすぐる甘い香り。
ジョージの淹れてくれた紅茶。
温かくて、やわらかくて、ホッとできる味。
「ジョージの淹れる紅茶、好きだなぁ〜。」
「、紅茶を淹れる僕のコトは?」
「・・・え?」
サラリといわれたその言葉は、つい聞き逃しそうなほどで。
思わず聞き返してしまった。
私を見つめるジョージの瞳は、凛としていて。
でも炎に照らされているからなのか、頬が赤く染まっているように見える。
「のこと、好きだ。は、まだ僕を好きでいて・・・」
「もちろん、好きに決まってる!!」
半分、ダメなのかと思っていたから。
ちょっと諦めていたから。
だから今のままでもいいと思っていた。
クィディッチの練習も悪戯の作戦会議も、ジョージにとっては重要事項。
それはわかっていたつもりでいたけれど。
彼の想いを、私は知らずにいたから。
「のこと、僕はちゃんと想っている。」
そう口にしてくれただけでも、嬉しくて・・・嬉しくて。
その言葉に胸がキュッと締め付けられて、切なくなって。
押し出されるかのように瞳からは涙があふれた。
「ジョージ。クリスマスイブ、一緒にすごさない?」
「ああ、もちろん。と一緒に過ごしたい。」
涙を拾うように、頬にキス。
そして唇に・・・。
ジョージのキスは、彼の淹れてくれる一杯の紅茶と同じ。
温かくて、やわらかくて・・・そして甘い。。。
「紅茶にも、キスにも、僕の想いが詰まっているからね。」
END