ふと、大回廊を見上げてみる。
君の声が、聞こえたような気がしたから。
僕の名を呼ぶ、の声が。。。
IN YOUR VOICE
「おい、ジョージ! いくぞ。」
「あ、ああ。」
フレッドにせかされて、グレイトホールへと急ぐ。
休日のランチに遅れそうになるなんて、ひさしぶりだ。
「そういえば、昨日も今日も、がよってこないよな。」
やぶからぼうに、フレッドから尋ねられた。
思わず顔色が曇る。
「たぶん、避けられている。」
「はぁ?! おまえが??」
クィディッチで、どんなに声援を送られても。
抱えきれないほどのプレゼントやファンレターを貰っても。
好きな子に、に避けられていたら意味がない。
「原因は?」
席に座り、キッシュとサラダをよそりながら、フレッドが小声で聞いてきた。
「僕にある。」
僕は目の前のスコーンをもそもそと頬張る。
が僕を避ける原因は、昨日の、アレ以外ありえないから。
* * *
「ジョージ、おはよう!」
暖炉前のソファーに座るが、僕の名を呼ぶ。
「おはよう、。」
挨拶を返して手を振り、僕はフレッドとリーが降りてくるまで
壁際のイスに腰掛ける。
それはいつもと同じ、談話室での朝の光景。
なのに今日は少し違った。
「あのね、ちょっといい?」
座りかけた僕の袖を、がツィっと引っ張る。
2つ年下の、ロンと同学年の・。
可愛い君が、少し頬を染めて僕を呼ぶなんて。
つい、淡い期待を抱いてしまう。
呼ばれるままに、僕らは少し奥まった窓の前に、すっぽりと納まった。
「ジョージ、あのね。。。どうしよう。私、、、告白されたの。」
「・・・っえぇ!? だ、誰にだい?」
大きな声で言わないで、とは消え入りそうな声でつぶやく。
僕は興奮したまま、聞きたくないことなのに、思わず問い詰めてしまった。
「わからないの、ハッフルパフの上級生なのはわかったけど。」
「名前は?」
「聞いたけど、わすれちゃって。。。ただ、その人、ハンサムで・・・」
ちょっとまってくれ。
確かに僕とは付き合ってはいない。
僕自身、に告白するのも、そういうそぶりさえも、できるだけ控えている。
端から見れば妹を可愛がる兄のような存在に見えるのだろうけれど。
それは。
が、彼女がまだ1年生だから。
組み分け帽子が、をグリフィンドールにしてくれた、あの瞬間。
喜びを体いっぱいで表現するが、チャーミングで。
僕は、から目を離せなくなった。
両親の手紙に泣き出しそうな君を、抱きしめたい衝動にかられても。
僕は、やさしく声をかけるに留めた。
談話室で眠る君に、キスをしたくなっても。
僕は、寮へ戻るように促した。
なにより「好き」という言葉を、伝えられずにいた。
そんな自分の愚かな行動を、今さら後悔しても仕方がないだろう。
案の定、は僕の気持ちなど知るわけもなく。
告白された事実に舞い上がり、兄的存在の僕に相談してきたというわけだ。
「つきあうなんて、早すぎるんじゃないかい?」
「え?」
あくまで紳士的に。
でも口調はきつかったのかもしれない。
の顔はこわばり、浮き足立っていたその様子も、いっぺんに地に落ちた。
仕方ないじゃないか。
冷静になんて、いられない。
が、僕の大切なが、他の奴に盗られてしまうだなんて。
「じょ、ジョージ?」
「君はまだ1年生だ。恋愛するには早いよ?」
「そんな。。。ただ、告白されたから・・・」
「僕だって!!・・・我慢しているのに。」
その言葉を口にしたとたん、顔が赤くなるのがわかった。
の顔を、まともに見ることが、できない。
戻せるものならば、はき捨てた言葉を回収してしまいたくなった。
「ジョージ。我慢って、なに?」
「・・・教えない。」
恥ずかしさと、ぶつけようのない怒りと、そして悔しさ。
僕の心を占めていたのは、その感情だけ。
「わかった・・・もう、いい!!」
そう言って、談話室を出て行くの姿に、僕は激しく後悔した。
* * *
「原因がわかっているのなら、さっさと謝っちまえよ。」
「謝れば・・・もどるのか?」
「気持ちを込めれば、通じるぞ!」
能天気なフレッドは、チキンに食らいついている。
僕は食べかけのスコーンを手に持ったまま。
どうにも、食欲が湧かない。
いつも仔犬のように、僕のそばをウロウロしていた、。
悪戯の話や、クィディッチの話。
楽しそうに、嬉しそうに、一緒に話していたのに。
たった1日避けられただけで、ココまでダメージを受けるとは。
「気持ち・・・LOVE、なんだよな」
「そう、何事も愛!」
ハッフルパフの女子生徒にウィンクをしながら、フレッドが答える。
双子とはいえ、恋愛スタンスは微妙に違う僕ら。
そんなフレッドに、背中を押された気がする。
「謝ってくるよ。」
「おゥ、行ってこい!」
僕は席をたち、ホールを後にした。
* * *
ふと、大回廊を見上げてみる。
君の声が、聞こえたような気がしたから。
僕の名を呼ぶ、の声が。。。
「・・・ジ! ジョージィ!!」
トクン。
心臓が大きく跳ねた。
空耳じゃなかった。
の声だった。
たった1日だけど、聞けなかった僕を呼ぶ声。
の声が、愛しい。
階段を駆け下りてくるのは、間違いなくで。
息を切らせたいつもと同じ、。
「どうしたの? ジョージ。そんな顔して。」
不思議そうに首をかしげるが、目の前にいる。
「、昨日はごめん。」
素直に頭を下げた。
自分が素直じゃなかったばかりに、君を傷つけたのだから。
「が他の奴に告白されたなんて聞いて、ついカッとなって・・・」
「それなんだけど・・・罰ゲームだったんだって。」
「・・・はい?」
「バ・ツ・ゲ・エ・ム! 悪戯されちゃったの、私。」
一気に脱力した。
なんだよ・・・それ。
「・・・お腹、空かないかい? 」
「すいた! 談話室のお菓子を食べたらおなか壊しちゃって・・・。
なんでだろうね? お陰で今までずっと、医務室にいたのよ?」
そのお菓子が僕らの試作品であったことは、この際、秘密にしておこう。
気を取りなおして、に向き合う。
「お嬢様、屋敷しもべにお願いして、トラディショナルサンドでもいかがですか?」
「よろしくてよ。じゃぁ、紅茶はポットに入れてもらおうかしら?」
ランチボックスを持って、いつもの温室へ行こう。
とふたり、休日の昼下がり。
たわいもないおしゃべりでも、君の声が聞ける幸せ。
君に名前を呼んでもらえる、幸せ。
この距離で、いい。
今は、このままで。
END