手に吸い付くような肌ざわり。
かすかに鼻をくすぐる、甘い香り。
そしてなにより やわらかい。
、君のことだよ?
A Marshmallow
「、! 見てみろよ。」
4時間目のマグル学の授業。
睡魔と闘い、どうにか勝利をおさめられそうというのに。
斜め後ろの席に座るフレッドが、しきりに私を振り向かせようとする。
いくらバーベッジ先生とはいえ、おおっぴらにおしゃべりするわけにも
いかないっていうのに・・・。
「無理。」
フレッドの方に、首を少しだけかしげ、小さな声で答えるけれど。
「大丈夫だって。 ほら、見てみろよ!」
「きゃっ!!ちょっと・・・、もう。」
フレッドが悪戯に、羽ペンで私の首筋をスッとなで上げる。
思わず声が出てしまい、先生の視線がチラッと向けられた。
マズイって。
ビビる私の反応を知ってか知らずか。
彼の隣にいるリーのあたりからは、忍び笑いさえも聞こえる。
嗚呼。
案の定というか、いつもどおりというか。
フレッド、ジョージ、リーの悪戯三人組は、注意されない授業を
確実に選んでは、こうやって楽しんでる。
あとは寝ているか、新しい悪戯道具を考えているか・・・なにしろ
真剣に授業を受ける数のほうが少ないのは確か。
ただ。
さっきから、ジョージの声が一向に聞こえない。
フレッドの呼びかけ方を考えると、どうも今日は彼が餌食になって
いるに違いない。
黒板に向き合ったままのバーベッジ先生を確認し、そっと振り向く。
私の真後ろの席。
いつもなら、ふんわりとした笑顔をたたえるジョージがいるはず。
でも。
今、そこにいるのは、すやすやという形容がぴったりな、夢見る少年。
分厚い教科書の上に腕を乗せ、左の頬を下にして、彼は夢の中。
それはそれは、天使のような、無防備な寝顔。
寝ている間、フレッドに悪戯されたのか。
前髪をぴょこんとピンで留められている。
いわゆる“サムライ風”の髪型。
「っ!! 可愛い!」
「ほら、“いいモノ”が見れただろ?」
3年生にもなって、あいかわらずなフレッドに教えてもらった、
“いいモノ”。
その幸せそうな寝顔の頬に、触れてみたい衝動にかられて。
そっと
人差し指で、ジョージの頬に触れてみる。
ふんわりとした、やわらかいさわり心地。
このカンジ、よく知っている。
「マシュマロみたいね、ジョージのほっぺ。」
ジョージが眠ってしまった原因は、真夜中のランデブー。
私がわがままをいって、ふたりで楽しんだ月夜の散歩。
「ありがと、ジョージ。」
* * *
「なんだよ、この頭〜!」
「いいじゃないか、なかなかにあってるぜ?」
「そうそう、もかわいいって言ってたからな。」
仮眠タイムのマグル学を終え、廊下を歩く。
別れ際、いつも以上に微笑んでくれた。
放課後のクィディッチ練習へ、いざ向かおうとしたとき。
フレッドとリーが、その悪戯成果を教えてくれた。
嗚呼。
マグル学では一緒に居眠りすると信じていた僕がバカだった。
荷物を任せたリーとはグレイトホールの前で別れ、僕らは橋を渡り、
練習場へと向かった。
優秀なハリーが入ったとはいえ、混戦の装いを見せる今期。
週末のハッフルパフとの試合に向けて、自然と熱が入る。
なにせ、ここで勝てば、スリザリンと並ぶ。
そしてスリザリンに勝てば・・・
「グリフィンドールに優勝杯を!」
「「「優勝杯を!!!」」」
反省会を終え、円陣を組み士気を高めて練習終了。
寝不足の影響もあるかもしれないが、なんだかとても眠い。
夕食へ向かうフレッドたちと別れ、練習でつかれきった重い体を引き摺り、
僕はひとり、グリフィンドール寮へと戻った。
寮生のほとんどが食事に出かけたためか、すこし照明が暗い。
薪の香りが漂う、ほのかに温かい談話室の暖炉の前。
オットマン付きの椅子に、人影があった。
「?」
が届けてくれた両親からのふくろう便の包み抱え、
スースーと、は小さな寝息を立てている。
暖炉の炎に照らされて、彼女の頬は、ほのかにピンク色。
授業中も、休み時間も、くるくると変わるその表情は、見ていて飽きなけれど。
こうやって幸せそうに眠る彼女の顔も、悪くない。
近づくと、甘い香りが、かすかにする。
大好きな、の匂い。
に。
その頬に、唇に、キス・・・したい。
無性に沸き起こったその衝動を、僕は抑えることが出来なくて。
の眠る椅子のそばに跪き、その頬に、キスを。
ふんわりとしたその唇に、キスを。
驚いて飛び起きたの手には、ご両親からのふくろう便。
封の開いた包みから、なかの袋に詰まっていたであろうマシュマロが、
ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「っジョージ!?」
「ああ、。おいしいマシュマロ、ご馳走様!」
やわらかな頬。
甘い唇。
。
君はまるで、マシュマロ。
END