痛い。
痛い。
あの声を聞くと頭が痛くなる。
A seed of headache
「フレーーーード!」
ああ、まただ。
廊下のずっとずっと。
それこそ端と端という位置関係にあるというのに。
僕の名を叫びながら、彼女がこちらに駆けてくる。
彼女の名前は、・。
僕らより2つ年上の7年生。
ホグワーツ図書館で、司書のマダム・ピンス公認ともいえるほど
分類、管理、なにより蔵書に関しての知識が豊富で。
卒業後、第二のマダム・ピンスになるのではともっぱらの噂だ。
赤い縁の眼鏡が、彼女の気の強さを表しているというか。
グリフィンドール生のはずなのに、その執着心はスリザリン生に匹敵する。
いや、フィルチに近いものがある・・・。
「フレーーーッド! あなた、返却した本に悪戯したわね!!」
ああ、またそんな大声で。
廊下中に、いや、ホグワーツ城内に響き渡りそうなその大声。
ジョージとふたり歩きながらも、軽くめまいが起こりそうになる。
ローブをひるがえして、徐々に近づく。
ニット越しに揺れるたわわなその胸は、とても魅力的だというのに・・・。
頭を抱える僕を横目に、ジョージがニヤニヤと笑う。
彼女の声を聞くと、どうも頭が痛くなる。
キンキンと、甲高い声。
耳につく、の声。
耳障りというか、頭に響くというか。
「ジョージ、悪い。俺の代わりに・・・」
「の相手を、だろ?」
クスっと余裕の笑みを浮かべたジョージが、
接近するに深々とお辞儀をする。
理解ある兄弟のお陰で、この場は乗り切れる。
僕はジョージのふりをして、廊下のベンチに腰かけ、教科書を開く。
これで、大丈夫。
彼女は僕らの違いを見分けることなんてできないのだから。
そう、思っていたのに
「どいて、ジョージ。私が用のあるのはフレッドなの!」
ぽかんとするジョージを押しのけて、彼女はベンチに座っていた
僕のまえにたたずんだ。
いや、仁王立ちになっているというほうが、正しいかもしれない。
「ねぇ、フレッド。あなたは本を大切にするという気持ちがないの?」
乱れた息を整えつつ、彼女はまっすぐと僕を見る。
眼鏡のフレームをクイッと上げて、はお説教を始めた。
あの、キンキン声で。
ああ・・・頭が痛い。
彼女の声が、耳に残る。
の
こんな声は
聞きたくない。
の
こんな声が
聞きたいわけじゃない。
「ああ! もうわかったから。もうやらないよ。」
「ほんとに? フレッド。本への悪戯、しないでくれる?」
すこし嬉しそうな顔が、目の前にある。
そして、その声は落ち着いた、彼女の声。
の、アルト。
その声は、僕の頭を痛めることがない。
「が、いつだって、その可愛い声で、僕の名前を呼んでくれるのなら。」
「はぁ?」
「僕は、のヒステリックな声が嫌いなんだ。」
「ヒステリックって・・・それはあなたが!?」
「ストップ。」
僕は右手の人差し指を立て、彼女の唇に触れる。
ふんわりとした感触に、思わずドキリとしてしまう。
「だから、もうやめるよ。」
「ふ、フレッド・・・」
「は僕を覚えてくれたみたいだし。それに・・・」
「それに?」
「そろそろ頭痛の種を、どうにかしたいしね。」
僕の言葉を、案の定、理解できないのか。
は不思議そうに首をかしげている。
ベンチから立ち上がりながら、そっとの頬に唇を添える。
そのまま耳へ。
「年下に、興味、ない?」
彼女は、ささやく僕のローブをギュッと掴む。
見つめなおしたの顔は、林檎のように赤くなっていて。
「ねぇ、。付き合ってよ。」
とどめの一言に、彼女は小さく、うなずく。
頭痛の種は、恋の花を咲かせた。
END