。
素直になれなくて、ゴメン。
つい、意地を張ってしまう僕だけれど。
君が、好きだよ。
I'm sorry...
きっかけは、一時間目の飛行訓練。
苦手なその授業で、私は案の定、箒から落ちるという、かなり恥ずかしい
失敗をしてしまった。
しかも・・・彼の、フレッドの目の前で。
「バランスとれっていっただろ? なんでだよ、嘘だろ!?」
フレッドは、フレッドなりに教えてくれたし。
私も私なりに、頑張ったつもりだけれど・・・。
上手くいかなかった。
ほんの2メートルの高さから、私は落ちてしまった。
「ミス・チェン。あなたは飛び上がらずに、バランスをとる練習をなさい。」
マダム・フーチ先生の厳しい声が頭上から響き渡る。
遥か上空には、楽しそうに飛びまわるクラスメートたち。
フレッドは、何も言ってくれなかった。
「行かなくていいのかよ、フレッド」
「彼女だろ?」
「・・・。」
とぎれとぎれ、そんな声がきこえてくるけれど。
最後まで、フレッドは地上へ降りてはこなかった。
2時間目の授業だって、いつもは近くに座るのに。
今日のフレッドは、すこし遠い席。
チクン。
胸が、痛い。
なんでこんなオモイ、しなくちゃいけないの?
同じ寮の友達と一緒に、ランチをとるけれど。
いつもみたいに、笑えない私がいる。
「どうしたの? 。 元気ないけれど。」
「フレッドと喧嘩かい? だったら、悪いのはフレッドだよ!」
「あらロン、決めつけるのは悪いわ。まぁ、たぶんそうでしょうけれど」
落ち込む私を気遣って、年下のハリーとロン、そしてハーマイオニーが
あれやこれやと気にかけてくれる。
「ありがとう、心配してくれて。すぐに仲直りするから、大丈夫よ。」
手元のカボチャジュースを一口、飲み込む。
そう。
いつもなら、一緒とまでは言わないけれど、結構近くでランチをとるというのに。
今日のフレッドは、こちらをうかがうことなく離れたところで食べている。
たったそれだけのことだけれど、なぜか、私の心は傷ついていて。
「どうせフレッドのことだから、が悲しむことを言ったのさ!」
「おいおい、ロニィ坊や。憶測で物事を語っちゃぁ、いけないよ?」
「あっ痛! じょ、ジョージ!」
ロンの頭にわざとらしくひじをぶつけたジョージが、ウィンクをする。
ちょっといいかい? そう言う彼の後を、私はついていった。
大広間を抜け、廊下のベンチに、私たちは腰をおろす。
「、その・・・フレッドのことなんだけど。」
「あ、ゴメンね。私が飛べなかっただけだから・・・その」
「いや!違うんだよ、。」
ジョージがやさしく、私の言葉をさえぎった。
「フレッドは、を傷つけたって。あいつなりに反省してるんだ。」
「え?」
「キツく教えて、そのあと突き放したことを後悔しているんだよ。」
「でも・・・フレッド、まだ怒っているみたいだし・・・。」
そう見えるだろ? そういいながら、ジョージがニヤリと笑う。
フレッドとよく似た、笑顔。
「フレッドは、体を動かすことになると、ちょっと熱くなっちまうんだ。
こと、クィディッチにも関係する飛行訓練に関してはね。今回も、そう。」
「そう、・・・なんだ。」
「謝りたいけれど、謝れない。だから、すこし間合いをとっているだけだよ。」
ポンポンと、ジョージが私の頭をかるくなでる。
それはまるで、お兄さんが妹をなぐさめるようなしぐさで。
「だから、は気にしなくていいよ。」
同級生なのに、ジョージは少し大人びている。
こんなふうに、私を慰めてくれるのは何度目だろう・・・。
大広間へともどるジョージを見送りながら、私は頬をパンっと軽く叩いた。
気にしなくていいといわれても。
このままじゃ、いやだから。
4時間目が終わった放課後、私は飛行訓練の自主練習を始めた。
場所は、他の寮生にも目立たないように、グリフィンドール塔の下。
塀ともみの木に挟まれてわかりづらい、私だけが知っている死角。
箒にまたがり、集中する。
ふわりと浮くけれど、その瞬間、すぐにバランスを崩して地面に落ちてしまう。
「集中!集中!!」
フレッドに教えてもらったことを、一生懸命思い出す。
「腕をひきしめて、視線は箒の先端じゃなくて、その先・・・」
ふわり、ふわり、ドタン!
浮いては落ち、浮いては落ち。
それでもなんとか4mの高さまで、コンスタントに浮き上がるようになった。
「ヤッタ!!って・・うわぁ。真っ暗・・・」
気がつけば日もとうに暮れてしまっていて。
泥だらけで疲れきった体を引きずりながら、私は寮へと戻った。
ちょうど夕食時なのか、談話室はもぬけの殻で。
だけど、私は部屋に戻る気力も、大広間へ行く体力も、すでに残っていなかった。
「ちょっと、ちょっとだけ・・・」
そういいながら、暖炉の前のソファーに、その身を横たえた。
* * *
ふわりと、誰かに抱きおこされた気がした。
それは・・・優しく微笑むフレッドで。
でも、夢なのか現実なのか、私にはわからなかった。
「なんか、ホンモノみたい・・・」
そうつぶやいた私に、フレッドはキスをしながら言った。
「、ごめん。素直に謝れなくて、ゴメン。」
「いいよ。フレッド・・・大好き。」
フレッドに包まれて、私は安心して、瞳をとじた。
END