あなたが、私を笑顔にしてくれる。
いつだって、どこだって。
なにより私らしさを、思い出させてくれた。
ありがとう・・・フレッド。
Be yourself is all that you can do.
-03-
いつもと同じように、お店を開いて、いつもと同じように仕事を終えると、
あの頃と変わらないタイミングで、ジョージが店に現れた。
「フレ・・・ジョージ、いらっしゃい!」
つい間違えそうになる私を、ジョージは責めることなく微笑んでくれる。
簡単な料理をふたりで用意して、ふたりでテーブルを囲む。
おだやかで、平和な食卓。
どこに住むのか、お店はどうするのか、そして出産は・・・。
プロポーズされたあの日から、少しづつ、少しづつ、ふたりで語り合う未来。
「僕らと生まれてくる赤ちゃんの将来も大切だけれど、
まずは、、君の体が一番大事だからね。」
夕食を囲みながら、体に負担をかけないようにと気にかけてくれるジョージ。
その優しさが、暖かくて・・・嬉しい。
その日が、フレッドが天に召されて丁度半年だと気づいたのは、
食後の紅茶を出すと、早々に帰宅したジョージを、見送ってから。
寝室にもどり、懐かしいアルバムの、ページを開く。
そこには、笑いあうフレッドと、私。
「ねぇ、フレッド。あなた、パパになるのよ?」
頬からつたい落ちた涙の粒を、写真の中のフレッドが、邪魔そうに
押しのけようと腕を動かしている。
『ごめん、』
うそ・・・。
心臓が、ギュっと締め付けられる。
聞きたかった声。
大好きなテナーボース。
ふりかえると、そこにいたのは
半透明な浮遊物・・・フレッドだった。
足がなくて、透けてしまっているけれど、紛れもなく彼。
「・・・っ、どうして!?」
言葉よりも先に、涙があふれる。
『神様が、少しだけ時間をくれたんだ。』
「ゴーストに、なれたの?」
『いや。ずっとのそばにいたいけれど、それは無理らしい。』
すこし困ったような顔をして、頭をかきながらフレッドは答える。
スっと私のそばに近づくけれど、彼の香りも、温もりも、ない。
『俺の、子供かぁ・・・。』
そっと私のお腹を、フレッドがさする。
けれど、フレッドの手のひらの感触が、ない。
切なさが、じわりじわりとこみ上げる。
彼はもう、この世にはいないという事実を、知らしめているようで。
「ジョージが、一緒に育てようって・・・」
『・・・知ってる。さっき、あいつにも会ってきた。』
「!?」
生きているときと同じように、フレッドは私を包んでくれた。
何も感じないけれど、その優しさに、胸が締め付けられる。
『僕はもう、にできることは、なにひとつない。』
「そんなこと・・」
『ジョージは、と、僕の子供を、守ってくれるよ。』
「フレッド」
『だから、は・・・らしく、いつも笑顔でいて欲しい。
もちろんジョージにも、を泣かせるなって釘を刺したしね!』
見上げると、あの頃と同じように、左目でウィンクするフレッドがいる。
アイツになら、まかせても大丈夫だからね・・・そういって、おでこに
キスをしてくれた。
「『あっ・・・』」
フレッドの半透明な体が、金色の光に包まれはじめた。
『もう、さよならだね。』
「フレッド・・・イヤよ、行かないで・・・。」
こぼれ落ちる涙を、フレッドはぬぐおうとしてくれるけれど、それはできなくて。
ふっと、寂しげな笑顔をしたフレッドの顔が、脳裏に焼きつく。
『素敵なママになっておくれよ、。』
「フレッド。。。」
『幸せに・・・。』
最後のキスの後、瞼をひらくと。
そこにはもう、彼の姿は、なかった・・・。
* * *
んぎゃぁ! ふんぎゃあ!!
部屋中に、元気な産声が響く。
「おめでとう、。頑張ったわね! 元気な男の子よ!」
モリーが嬉しそうに、私の手を握っている。
「モリーは、こんなに大変なことを7回も体験したのね・・・。」
力なく、でも本音がすっと口からついて出てしまう。
「そうね、振り返ればそうでもないけれど。7回経験しているのよね。
私も頑張ったものだわ! とくにフレッドとジョージの時が一番大変で・・・。」
そういいながら、産湯と処置をすませた赤ちゃんを、助産婦からモリーはうけとり、
大事そうに私の枕元へ、そっと寝かせた。
「、気分を悪くしたらごめんなさいね。このこ、フレッドによく似ているわ。」
彼に似ているかなんて、私には、よくわからないけれど。
おくるみにつつまれた赤ちゃんは、可愛いレッドヘアー。
「あなたの名前、もう決まっているのよ?」
「!!」
そのとき、部屋の扉が盛大に開き、息を切らせたジョージが入ってきた。
いてもたってもいられなかったのか、お店から駆けつけたらしい。
「頑張ったね、。」
「ジョージ、そんなに慌てなくても・・・」
「早く会いたかったんだ・・・その、子供に。フレッドに。」
ジョージはやっと私の枕元に座り、そっと子供の顔を覗き込む。
おちついたのか、すやすやと眠るあなたは、あの人と同じ名前なのよ?
そう、私たちにとって、かけがえのない、彼と同じ名前。
「フフッ、パパが言っちゃったわね。あなたの名前は、フレッドよ。」
「ようこそ、フレッド。ぼくたちのところへ。」
自然と、笑顔になる。
ああ・・・。
あなたは、いつだって私を笑顔にさせてくれるのね。
ありがとう・・・フレッド。
END