なぁ、相棒。

いつだって、僕らは傍らにいたよな。

それこそママの腹の中から。

でも。

おまえはもう、いない。




Time goes on






 「フレッド、やめなさい!」


が、庭でフレッドを叱りつけている。

どうやら洗濯物に何かをしてしまったようだ。

シーツを抱えたが、不機嫌な顔をして家に戻ってきた。


 「ジョージ。私、ちょっと叱りすぎたかも。」

 「そんなことはないよ、僕がキチンとフォローするし」

 「モリーもいつも、こんなカンジだったのかしら。」

 「ああ。“僕ら”のママは、の一番の理解者だよ、きっと。」


口にして、気づく。

も、それに気づいて嘆くことは、少なくなったけれど。

相棒がいた頃の癖は、5年経った今でも、治らない。


 「じゃぁ、息子とじっくり話してくるよ。」


おねがいね、とつぶやくに手をふって、僕は杖をとりだす。

庭先へ姿現しをすると、樫の木の下で、こちらに背を向け、

座り込む子供がいる。

フレッド・ウィーズリー、相棒と同じ名前。

やんちゃ盛りの4歳児。

彼は、と僕の、大切な息子だ。


 「さてと。今日は、いったいなにを試したんだい?」

 「パパ、これ・・・」


手にしていたのは、小さく細長い“コヨリ”。

懐かしい、懐かしい“コヨリ”。


 「花火かい?」

 「うん、そう。くるくるって飛んで、ぴゅーで、パーーンって!」

 「ぴゅーって鳴って、パーンって?」

 「あおいキラキラと、あかいキラキラが、ふわふわって!」


ちいさな手をいっぱいにうごかし、その様子を伝えようとする。

ウィーズリー家独特の赤毛に、と同じパッチリとした二重。

瞳の色は、“僕ら”と同じミルクチョコレート色。

幼い頃の“僕ら”の面影が、フレッドに重なる。


 「すごいなぁ〜。フレッドはママに花火を見せたかったんだな?」

 「うん。でも・・・」

 「でも?」

 「ゾウさんが、モヤモヤってなって。」


ゾウさん・・・フレッドのベッドに敷くシーツのことだ。

ポイントで付けられているかわいいゾウのアップリケ。

モリーママが、生まれてきたフレッドのために作ってくれた。

リビングにあるロッキングチェアーに座り、傍らのサイドテーブルに

置いてある、おどけた相棒の写真を、時折見つめながら、一針一針。


 「いつもの魔法でちょちょいとやらないの?」

 「こういうものは、大切につくるんです!」


老眼鏡をクイっとあげて、僕をにらみつけた。

ママはあれから、一気に老け込んでしまったけれど、兄貴達の結婚を、

僕の結婚を、そして孫の誕生を喜んでくれた。

誕生日が近づくと、孫のためにとシーツを送ってくれたのだけれど。

ゾウさんは昨晩、フレッドの放水活動で洗濯を余儀なくされていた。


 「それは、ママもおこっちゃうね。」

 「うん。プンプンだった。」

 「そのまえに、ママは何か言っていなかったかい?」

 「えっとね、パパと、ママと、いっしょに見ようねって。」

 「でも、フレッドはそれをきかなかったんだね。」

 「うん。だから、ボクがわるい。」


こんなに小さくても、幼くても、ちゃんとわかっている。

ママの怒った顔よりも。

ママの泣いている顔よりも。

ママの笑顔が一番だってことを。


 「じゃぁ、ママのところへ行くかい?」

 「うん、ちゃんとごめんなさい、する!」


家に向かって駆け出す息子を見送り、樫の木を仰ぎ見る。

ふたりで店を開いて、忙しかったあの頃。

たまの休日は、3人そろってこの木の下でピクニックをした。


けんかをして店を飛び出したがいたのも、

酔っ払ったフレッドが寝ていたのも、

3人で愛を誓い合ったのも、

この樫の木の下。

僕らの思い出の詰まった、樫の木。


ここに家を建てようと言い出したのは、だった。

異論など、唱えるわけがない。

僕と、フレッドと、

3人の思い出が詰まった、この場所を、僕も大切にしたかったから。


 「なぁ、相棒。この“コヨリ”、懐かしくないか?」


アイツに、話しかけるようにつぶやく。


 『おお! これはこれは、何年前の代物だ?』


フレッドがいたら、そう答えるだろう。


 「アンブリッジ糞婆に食らわせた、最初の一発だ。」

 『懐かしいな、あの頃が。』

 「ああ・・・懐かしい、な。。。」


樫の木に、僕の声は吸い込まれる。

望んだ答えをつぶやく声は、どんなに願っても返ってこない。


時が経てば、亡くしたものへの気持ちが薄れると、人は言うけれど。

あいにく僕には、それが当てはまらないようで。

無理に忘れようとは思わない。

癒そうとも、悲しみを乗越えようとも思わない。

できないことは、とっくにわかっているから。


消えてしまった、僕の分身。

いつも傍らにいたフレッドは、もう1人の僕。


 「フレッド、おまえに会いたいよ・・・」






END

あとがき


ふとしたときに、故人を偲ぶことがあると思います。
そんなジョージの、ある日のできごとでした。

夢是美的管理人nao