やっぱり男の子
悪戯は仕方がない・・・の???
Boys will be boys.
「いいですか? ウィーズリーズ!」
甲高いマクゴナガル先生の声が廊下にまで響きわたる。
まもなく昼食だからか、廊下を通る生徒は既に私だけ。
憤慨している先生の声が気になり、扉が開け放たれた教室を覗けば、
ひょろりとした同じ背格好の、同じ髪の色をした男の子がふたり。
コチラに背を向けて立っていた。
「悪戯が好きなのは結構。ですが授業はきちんとお聞きなさい!」
「「は〜い」」
そういいながら、後ろでに組まれた彼らの手には、なにやら握られていて。
顔を見合わせた彼らの横顔は、間違えなく何かを企む笑みをたたえていて。
右側の男の子がウィンクしたとたん、彼らは“何か”を放り投げた。
ボッフン!
少しこもったような爆発音とともに、周囲が黄色い煙となんともいえない
異様な匂いに包まれる。
鼻が曲がるなんてもんじゃない! 最悪!!
時を同じくして、私に体当たりしてきた人影が、ふたつ。
「っ痛て!! こんなところにいるなよ!」
「ちょっと、そっちこそぶつかってきて・・・」
「おい、ずらかるぞフレッド」
不意に二の腕をつかまれ、廊下を疾走させられる。
え?
なんで??
「ちょっ、ゲホ! ちょっとなんで〜〜〜!?」
「おいジョージ、そいつはオレじゃないって!!」
煙でむせながら叫ぶ私に、追いつく影が一つ。
「とりあえず、逃げるが先!」
「だな!!」
私の言葉は無視されて、同じ顔をしたふたりに両脇を抱えられ
廊下をただひたすら走らされる。
遠くでマクゴナガル先生の金切り声が聞こえたような気がした。
長い廊下を駆け抜け、2つめの角を曲がる。
持久力には自信があるけれど、この距離は、ちょっとキビシい。
「ねぇちょっと・・・」
「おい、このあたりか?」
何の変哲もない壁に手をあて、あたりを伺い、ひとりがそこへと
飛び込む。すると壁はくるりと回転した。
何事もなかったかのように、そこには、ただ、壁がある。
「俺達もいくぞ!」
「え?」
聞き返す時間ももらえないまま、私も“壁の向こう側”へ吸い込まれた。
「「ようこそ監督生、・様!」」
放り出されたその場所は、見たことのない空き教室。
あるのは小さなテーブルと、それを囲む4つのイスだけ。
すこし埃っぽいけれど、日の光が入って、明るい。
その明るさに負けず劣らず、陽気な彼らの声。
同じ顔をして、同じポーズで、同じ言葉を喋って・・・。
そのシンメトリーな彼らを、私は見かけることはあれど、
ここまで接近遭遇するチャンスがなかった。
(正確にはパーシーの妨害かも?)
それだけに、ちょっと新鮮な気分。
「あなた達、たしか・・・フレッドとジョージ?」
「おお!さすがは。僕らのことをご存知で。」
「パーフェクトパーシーの相棒だけあるな、うん。」
彼らは2つ年下のグリフィンドール生で、悪戯好きな双子の問題児。
そして、5年の監督生であるパーシー・ウィーズリーの弟たち。
私とともに監督生をするパーシーからは、それこそ毎日のように
双子による悪戯の話を聞かされてきた。
まぁ、半分は私自信、彼らに興味あったと言ってもいいけれど。
「ねぇ、さっきの“あれ”は、なに?」
「ああ。あれかい? あれは“糞爆弾・改”さ!」
「ゾンコの店のをレベルアップ!臭いもホンモノみたいだろ?」
「自分達で改造したの? 臭いはほとんど本物よ! すごいわ!!」
思わず興奮してしまう。
彼らはまだ3年生だというのに、そこまで研究熱心だったなんて。
「すごいかな〜。初めてだよ、そんなふうに言われるの。」
「ほんと、うれしいな。ちょっと自信もっちゃうよ?」
顔を赤らめ、少し照れるフレッドとジョージが、微笑ましい。
でもね、それは私の素直な気持ちだから。
たとえ模範生たる監督生らしからぬ言動だとしても。
2年前、ホグズミード行きが許されたとき、真っ先に足を運んだのが
ゾンコの悪戯専門店。その怪しい雰囲気とオモシロそうな商品の数々。
ほんの少し、勇気がなくて買えなかったあの頃。
監督生になってからは、足さえも運ぶことがなくなった。
だから、パーシーからことあるごとに、ふたりの悪戯成果を聞いては、
どれだけ爽快な気分になったか。
「私、実はあなた達の悪戯が好きなのよね〜。」
「「ええっ?!」」
「どんなことをしてきたのか、少し教えて欲しいな?」
「いいともさ! な、ジョージ。」
「あぁ、フレッド。のご所望であれば!」
いっそう顔を赤くする彼らの反応は、やっぱり可愛い。
机を囲むように、イスに腰掛けると、さっそく“悪戯仕掛け人”らしい
彼らの話が始まった。
パーシーから聞いたこともある、家での悪戯の成果。
ロンを、パーシーを、ママをどれだけ困らせたか。
そしてそのときの家族の反応。
やっぱりロンは泣いてしまっているのね。
スネイプ先生の部屋の入り口に花火を仕掛けたこと。
うまく逃げたつもりが、ネチネチと罰掃除をさせられたこと。
今もフィルチをどれだけからかっているか。
マクゴナガル先生は怒りはするものの、まだやさしいとか。
身振り手振りを交え、一生懸命教えてくれるフレッドとジョージ。
私は机に頬づえをつきながら、ふたりの話を聞く。
うれしい。
フレッドから、ジョージから、悪戯話をいっぱい聞きたい。
そんな私の小さな願いごと。
それが、叶った。
温かい陽光の差込む殺風景なこの部屋が、まるで談話室のように
居心地よくなる。
くぅ〜〜〜〜。
素敵な時間を邪魔するかのように、なんとも情けない音が響く。
気がつけば昼休みも残りわずか。
「ごめんなさい。私、お腹が空いて・・・」
「「いや、僕らも腹ペコさ!」」
「そういえば」
「ああ!」
何かを思い出したのか、右側に座るジョージが、ローブのポケットから
クッキーの入った包みを取り出した。
青にピンクに黄色。色とりどりのクリームが挟まれた、それはそれは、
おいしそうなクッキーサンド。
「はい、どうぞ!」
ニッコリと微笑むジョージから渡された、黄色いクリームの挟まれた
クッキーサンド。
「ありがとう! 美味しそうね。 では、いただきます♪」
なんの疑いもなく、私は口へと運ぶ。
サクサクっとしたクッキーに、濃厚なレモン風味のバタークリーム。
「、その・・・どう?」
「うん、おいしいわ!」
目の前に座るフレッドも、ジョージも、なにやら目を爛々と輝かせている。
それは“何か”を待ちわびる子供のようで。
私は、彼らが“悪戯仕掛け人”であることを、この時ようやく思い出した。
「え、、えっ! もしかして!?」
すると、見る間に服の上から黄色い羽毛が生えはじめた。
それも猛烈な勢いで。
全身を覆う黄色い羽。
フレッドはお腹を抱えて笑い出し、ジョージは、ニヤリと笑みを浮かべる。
私は気がつけば、大きなカナリアになっていた。
「いやーーーー!!!」
「「悪戯完了!」」
監督生の受難は、始まったばかり・・・。
END