「、君が消えてしまいそうだから」
ねぇ、ジョージ
私は消えたりしないから・・・だから
Touch me softly
「!」
中庭に面した廊下から、ローブをひるがえしたジョージが
息を切らせて駆け寄ってくる。
その赤毛は、キラキラと太陽の日差しを受けて輝いていて。
その笑顔は、ひだまりのようにやわらかで。
そのすべてが、私の胸をキュンとしめつける。
「ジョージ、これから練習?」
放課後の中庭、噴水のそばにあるお気に入りのベンチで、
私は読んでいた本を、パタンととじながらたずねるけれど。
きっと、顔が赤くなってる。
ふと廊下に視線を流せば、ジョージと一緒にいたはずのフレッドも、
リーも、またかといった表情で、肩をすくめて寮へと向かう。
「あぁ、あいつらは大丈夫。今日は練習ナシ!」
「え、どうして?」
「オリバーがスリザリンの奴らと珍しくトラブってね。
急遽中止さ。って・・・、うれしくないのかい?」
「そんな! あの。うれしいような、寂しいような・・・。」
戸惑う私の表情に、彼は口をへの字にして目を大きく見開く。
「寂しいの?」
「その・・・クィディッチをするジョージも、、、」
瞬間、ギュっと、ジョージが私を抱きしめる。
答えをきかないままに、強く、キツく。
ヒュ〜〜〜♪
きゃぁーーーー!!
周辺にいた生徒が、はやし立てる声が耳に入るけれど。
ジョージはお構いなし。
私はすっぽりジョージに包まれていて、目に映るのは彼の紺色のベスト。
「ジョージ、苦し・・・キツいよぉ。」
やっとのことで声が出せたとき、ようやくジョージに解放された。
申し訳なさそうに、シュンとした彼は、すこし幼く見える。
「ゴメン、。」
「もう、骨が折れちゃうかとおもった!」
そこまでキツくないだろ? なんて、笑いあうけれど。
彼の笑顔ほど、やさしく抱きしめてくれることはなくて。
その強い抱擁は、私がそこにいることを確かめるようで。
そしてなによりジョージの存在を、私の体に刻み付けるようで。
付き合いはじめて3カ月。
友達だった頃とは違う、私だけが知っているジョージが、少しづつ増える。
夕食の時間まで、グラムロックをききながら談話室でたわいもないおしゃべり。
同じソファーに腰掛けて、よりそって。
手を合わせて、指をからめて。
ジョージの体温をカンジながら過ごすひととき。
「今夜、ちょっと散歩しないかい?」
「散歩?」
「・様。月が真上に昇るころ、あなた様をお迎えに上がります。」
騎士のようにちょっと気取ったジョージ。
でも男子寮に私たち女生徒は入れるけれど、その逆はできないはずで。
どうやって? たずねる私に、ニヤリと笑って誤魔化す彼。
胸がトクンと、高鳴る。
いつもと同じように、同室の友人と一緒に夕食&バスタイム。
大広間でも、談話室でも。
みかけるジョージはいつもとかわらず悪戯仲間と一緒。
あいかわらず、目があえばウィンクをしてくれる。
「夜の散歩、楽しみにしておくれよ!」
そういっているような、彼の視線。
ほんの少し、何かを期待しつつも部屋へと戻った。
パジャマに着替えることなく、私服のままベッドに転がる。
本をパラパラめくるけれど、字を追っているようで、上の空。
時折、みんなの寝息におもわず私も眠りの国へと誘われかける。
コンコン!
と、すぐそばの大窓から、音がした。
顔を上げれば、箒に乗ったジョージがおいでおいでと手招きする。
それは白馬の王子ならぬ、箒に乗った王子様?
ガチャリと鉄の鍵をあけ、窓を外へと押しやる。
その隙間は、人ひとりやっと通れる幅で。
「姫君、お迎えに上がりました。」
うやうやしく挨拶をするジョージに思わず笑ってしまったけれど。
どうにか大窓の隙間を抜けて、ジョージの胸の中へ。
「それじゃ、ちょっと行くよ?」
彼の体温を背中に感じながら、彼の吐息を耳元で聞きながら。
ジョージと私が乗る箒は、禁じられた森の方へと進む。
「ちょっと待って、ジョージ! 禁じられた森は・・・危険よ?」
私の声が耳にとどいたのか、ジョージはくくっとノドの奥で笑うと
そのスピードをいっそう速める。
「僕を、信じて。」
つぶやくジョージの声が、耳に届いたような気がした。
風が止み、地に足が着く。
そこは、森の真ん中に、ぽっかりとあいた空間。
見上げる星空は円形に切り取られ、月の光が頭上からふりそそぐ。
鼻をくすぐる、甘い、あまい、南国のような香り。
広場の中央にある切り株の上には、不自然に鉢植えがおかれていて。
その白い花の蕾は、まさに開かんとしていた。
「月下美人、だよ。、知ってる?」
「聞いたことはあるけれど。。。」
「温室じゃぁ台無しだからね、この時期ならココでも大丈夫だし。」
「月下美人って、確か数時間しか咲かない花よね?」
「そう、今夜限りなんだ。」
どうやらジョージがココに運んだ犯人らしい。
彼の思惑通りなのか。
月の光をあびて、その花はより一層大きく可憐に開き始めた。
徐々に、その香りは濃厚さを増す。
3つある蕾は、ほぼ同時に開花した。
「・・・キレイ」
青白い光をうけた月下美人の花びら。
一枚一枚が、ぼんやりと輝いているようで。
華やかな姿と香りであたりを包み込み、私たちを魅了する。
そっと花弁に触ろうとした私を、ジョージが不意に引き寄せ抱きしめる。
いつもと同じように、強く、つよく。
それは私の存在を確かめるかのように。
「ジョージ。私、ドコにもいかないよ? 消えたりしないよ?」
「・・・」
「だからジョージ。もうすこし、やさしく。ね?」
Yesのかわりに、やさしいキスを。
Yesのかわりに、ふんわり包み込むような抱擁を。
「Touch me softly...」
END