甘い

あまい

アイスクリーム。

その口どけに、甘えたい。



Ice cream





時計は夜の7時をさしているけれど、空はまだ明るい。

この国に来て4回目の夏。

緯度の関係だとわかっているけれど、なんだかうれしい。

公園にもまだ人が沢山いて。

短い夏を楽しんでいるみたい。


 「、海へ行こうよ!」


噴水に足をつけていたフレッドが、いきなりそう言い出した。

私は思わず手にしていたアイスティーを落としそうになる。


 「い、今からじゃないよね。あしたよね?」

 「がOKなら、今日でも明日でも!」


うれしそうに微笑むフレッドは、パシャンと両足で水を蹴った。

しぶきがキラキラと太陽に乱反射して、はじける。

もしかしたら、最初からそのつもりで・・・?

夏休みに入って一週間と立たないうちに、手元に届いたふくろう便。


 『に会いたいな、遊びに行くよ!』


返事を送るまでもなく、彼はフラットのベルを鳴らした。



* * *



ヴィクトリア駅は、ロンドンでも一番にぎやかな駅。

歩いて10分程度の場所にあるフラットは、隣に大家さんの営むB&Bがあって。

従姉妹とシェアをしているけれど、彼女は私が到着すると


 「ゴメンね、ちょっと行ってくる!」


そう言って鍵を私に預け、彼氏とのバカンスへと旅立ってしまった。

便利なうえに人通りも多いけれど、寂しくないといったら、嘘になる。


それに。。。帰りたいけれど、私の家はもうない。

両親には・・・それぞれ新しい家庭があるから。

だから、フレッドのふくろう便は、とてもうれしかった。


 「おはよう! 、今日もかわいいね。」


扉をあけたとき。

ニッコリと微笑むフレッドに思わず抱きついてしまったのは、

寂しかったから、かもしれない。



* * *



 「エロールもご老体だよなぁ〜」


噴水広場からフラットへと戻る道。

濡れた髪を早く乾かしたいのか、頭をガシガシかくフレッドと、並んで歩く。


 「どうして? きちんと手紙を届けてくれたわよ?」

 「でも僕とほぼ同着だっただろ?」

 「まぁ、そうだけど。」

 「なにかいい方法、ないかなぁ〜。」


そういいながら、目の前のメールボックスをポンっとたたく。

夕暮れの小道。
 
いつもと変わらない風景なのに。

フレッドがいるだけで、満ち足りた気分になれる。


* * *


スーパーで少しの買い物をし、フラットに帰宅したのは夜9時。

リビングでくだらないお笑い番組を一緒に見て、

ポップコーンをこぼすくらい笑いあった。

そして、日付の変わる前におやすみのキス。

互いの頬に、軽く触れる程度の、軽いキス。

寮でもしていた、いつもの挨拶。


 「それじゃ、おやすみ。また明日!」


ゲストルームの扉が閉まる。

さっきまで一緒にいたのに。

もうフレッド、あなたの声が聞きたい。

扉を開けて、あなたに会いたくなる。


トクン


心臓がこたえる。



私、フレッドが、やっぱり・・・好き。



* * *



ビーチマットとタオル。

簡単な荷物をまとめて駅に向かう。

ホグワーツ特急とはまた違う、近代的な車両。

南下する列車にゆられ、ロンドンの南、ブライトンへ。


はじめてきた、イギリスの海。

目の前に広がるビーチ。

そして・・・遊園地?


 「どうする? 泳ぐ? 遊ぶ?」

 「もちろん・・・」

 「「遊ぶ!」」


ふたりの声が重なって、思わずプっと吹き出す。

こんな小さなことだけど、うれしくて。

フレッドと手をつないで、桟橋の先へとかけ出した。


ブライトン・ピア。

桟橋にある、ちいさな遊園地とゲームセンター。

ちょっとした絶叫マシーンや、なんだか懐かしい乗り物に、

ふたりでギュっとなって乗る。


 「、今のサイコー! 面白いよ、もう一回乗ろう!」

 「フレッド・・・ちょ、ちょっと休憩。」


ビーターで活躍している彼らしく、上下運動の激しいこのマグル製の乗り物も

まったくもってへっちゃら。

私はといえば、さすがに連続で乗るのは厳しくて。

ベンチに腰かけ、息を整える。


 「はい、。 アイスクリームだよ!」


フレッドの元気な声が、私の耳に届くのと同時に、

視界をピンク色のストロベリーアイスクリームが占領して。

ひんやり、冷たい感触が鼻先についた。


 「ちょっ、もう、フレッド〜!」

 「ゴメンゴメン、。」


フレッドの小さな悪戯に、怒って顔をあげれば、

彼はぺろりと私の鼻先を舐め、ニヤリと笑みを浮かべる。


 「はい、これでOK!」


落ち着きかけた動悸が、激しくなる。

やだ。

ドキドキが・・・すごい。


 「、大丈夫?」


心配して私を覗き込むフレッドの瞳に、思わず見入ってしまいそうで。

あわてて、目を伏せた。


フレッドの声に、そのしぐさに、私の心臓は限界で。


 「、いったいどうしたさ。」


なんといって答えていいのか、頭の中が混乱する。

好きだから。

フレッドが、好きだから・・・。


 「そ、そんなに見ないで」


小さくそうつぶやくのが精一杯で。


 「見ないでって言われても、の顔が見たい。」

 「ふ、フレッド・・」


フレッドの左手は私の肩を掴んでいて、

その右手にはストロベリーアイスクリーム。


 「あっ・・・と」


溶けはじめたそれを、フレッドが器用に舐めとる。


 「一緒に食べよう、。」


言うが早いか、フレッドの唇が、私に重なる。


甘い


甘いキス。


とろけるような舌触り。


 「・・・好きだよ。」

 「私・・・フレッドが、好き。」

 「・・・知ってる。」


艶やかなフレッドの瞳に、吸い込まれる。

口の中に広がる、ストロベリーフレーバー。

クリームと一緒に、とけたくなる。

気がつけば、夢中になって味わっていた。



* * *



カタタン、カタン、カタタン、カタン

一定間隔で伝わる、列車からの振動。



スースーと、規則正しい寝息と、

右半身に感じる、フレッドの体温。



これからは友達じゃなくて、恋人として。

この安らぎを、これからも・・・。



END


あとがき



友達以上恋人未満からの脱却をはかるべくフレッドが計画した
夏休みのある日のできごと。でした♪
夢是美的管理人nao