その先には、光があるから。
フレッドに、きっとあえるから。
Waiting in the Dark
新月の夜、私は湖を目指す。
まるで厚めのブランケットをかぶせたような闇があたりに広がる。
深夜の散歩、れっきとした校則違反だけれど。
「会いたくないなら、いいよ?」
試しているような、でも少し突き放した言い方。
今夜1時。
湖のほとりで。
それが彼との約束。
* * *
ことの始まりは、些細なこと。
放課後の、ひとけの少ない談話室。
そこにいるのは、悪戯の作戦会議をくりひろげる3人だけ。
スネイプに散々嫌味を言われ、談話室へと戻った私に、
嬉々としてフレッドが声をかける。
「やぁ。週明け早々、フィルチの部屋のすこ〜し先に、
新開発の、効果バツグンな、いいワナを仕掛けようかとおもってね。」
「あらそう。」
不機嫌な私は、そっけない返事しかできない。
たとえ相手が、大好きなフレッドでも。
「だけど材料がちょいと足りない。」
「だから?」
「だから、って。、つれないなぁ。今から一緒にゾンコへ行かないかい?」
「今から? またそうやって校則をやぶるの?」
「・・・くだらない」
「はぁ?」
オットマンにその長い足を放り投げ、口を尖らせたフレッドは、明らかに不機嫌な表情。
「校則はやぶるためにあるんだよ、ミス・。」
「そうそう、それが僕らのスクールライフ!」
「行ってこいよ、2人で。」
「ついでにデートでも。」
ソファーに寝転んだジョージとリーが援護射撃するけれど。
今回はさすがに的外れ。
イライラ最高潮の私は、口火を切ったように不満をぶちまけた。
「どうして私が残されていたか、あなたたち、わかる?
こんな時間まで、スネイプにねちねちと嫌味を言われて。
その原因、もちろんわかっているわよね?」
「は監督生でもないだろ?」
「スネイプの嫌味なんて、聞き流せばいいじゃないか。」
なぁ?あたりまえの対応だ、とでもいいたげに、リーがジョージをふりかえる。
ジョージは大きくうなずいているけれど。
フレッドは相変わらず仏頂面で。
「気がついたら5年生の寮のまとめ役みたいになっていて、
なにかといえば、呼びつけられるこっちの身にもなってよ!」
「おいおい、。それはがしっかりしているからだし。」
「まぁ、ここは、落ち着いてココアでも飲まないか?」
「校則を破って“いいこと”なんて、ないじゃない!」
その場を納めようとする二人の制止を無視して言い切った。
呆然とするジョージとリー。
ちょっとすっきりして、くるりと彼らにきびすを返し、
女子寮へと戻ろうとした、その時。
行く手をさえぎる一本の腕。
フレッドだった。
「、校則を破って“いいこと”ないって、本当にそう思う?」
「フレッド・・・」
「2人で抜け出していったホグズミードも、楽しくなかった?」
「そんなこと、、、」
「月を見ようって、夜中に箒で出かけたのも、いやいや?」
「そ、それは、、、」
私が困っているのをしっかりわかっているのに。
フレッドはそれを承知の上。
「デートしよ? 今夜1時、湖のほとりで。」
耳元にささやかれる甘い言葉。
フレッドの吐息が、耳にかかる。
「会いたくないなら、いいよ?」
試しているような、でも少し突き放したような言い方。
私は黙って首をふり、待ってるよというフレッドの言葉に
ただうなずいて、階段を駆け上がった。
* * *
フィルチの巡回をくぐりぬけ、フレッドから教えてもらった
秘密の通路を使い、私は寮をこっそりと抜け出した。
星明りでうっすらと見えるシルエットは、ハグリットの小屋。
既に休んでいるのか、カーテンの隙間から一筋だけ薄明かりが漏れている。
音を立てないよう気をつけて、その脇を通り過ぎた。
昼間なら目の前に湖が広がる小道に出て、ようやく息をつく。
ここまでくれば大丈夫。
「ルーモス!」
小声で唱え、杖の先に明りを燈した。
すると、湖畔にあるライムの大木あたりで小さな光がゆれた。
フレッドがいる。
私はその方向に歩みを進めた。
すこしづつ、その光へと近づく。
「。校則、破ったけれどいいのかい?」
その声も、ライムの幹にもたれかかるのも、間違いなくフレッド。
意地悪なその言い方も、キライじゃない。
「フレッド、その」
言葉半ばで、彼の鍛えられた筋肉質な胸板に、私の頬があたった。
フレッドの香りと温もりが、私を包む。
「。」
「あのときは、ちょっとイライラしていて。ゴメンね。」
「校則、破るのは?」
「その、フレッドといっしょなら・・・」
「一緒なら?」
「悪くない、かな?」
フレッドの、唇がふんわりと重なる。
スッと離れて、再び重なったとき、2本の杖の先に燈っていた明りが、
ひとつになった。
「ご褒美、だよ?」
ささやくフレッドの声に、思わず期待してしまう。
柔らかな舌と舌が絡み合い、ほぐれては、ゆっくりとお互いの口内を
むさぼりあう。
暗闇の先で待っていたのは、とろけるような甘いキス。
キスだけなのに、私をこんなに気持ちよくさせる。
「、“イイこと”、あるだろ?」
「フレッドのエッチ。。。」
「がそうさせているだけ、だよ。」
彼は私の手首を左手で掴むと、ライムの大木にその身を押し付けた。
唇を離れた舌先は、私の首筋をなぞり、鎖骨をくすぐる。
私は、もう、なすがまま。
「さて、もっと“イイこと”しようか?」
「ちょ、っとフレ・・っあぁん!」
期待通りというべきか。
フレッドの愛撫は、私の敏感なところを的確に捉えはじめた。
杖の明りはとうに消え。
星明りのなか、ふたりの吐息とささやきだけが響きわたる。
校則を破るのも、暗闇も、怖くない。
フレッド、あなたが一緒なら。
END