君を一人にして、ゴメン。
寂しい思いをさせて、ゴメン。
まだ、間に合うかな?
You Are My Only Persistence
客足が少ないのは、降りしきる雨のせいなのか。
店のドアをあけ、外の様子をみやる。
もう夏だというに、すっかり冷え切った空気。
に、さよならを告げたあの夜の空気と、似ている。
「今日は早終いにするか、ジョージ。」
振り返るとカウンターにたたずむフレッドが、その日の売り上げ集計を
既に始めていて。
「そうだな。こんな大雨じゃ、客もこないよな。」
僕はドアノブのプレートを裏返し、店先に飾った看板を片付け、
杖を一振りして、ショーウィンドウのカーテンを閉めた。
夢だった、悪戯専門店。
ダイアゴン横丁で店をはじめて、やっと3ヶ月。
学校からの通信販売も順調。
店舗での売り上げも少しづつ上昇。
ただただ、がむしゃらに仕事をこなす毎日。
開発するのは、楽しいし。
お客相手も、キライじゃない。
でも、がいない。
心にできた、この空虚感。
仕事では埋められなかった。
夢を選んだ僕は、の手を、放した。
今になって、僕の中でがどれほど占めていたのか
ようやく、わかったけれど。
もう、遅いのかな?
* * *
「ジョージ、どうしても?」
「ああ、ゴメン。」
搾り出すような、の声に、僕はいっそう切なくなる。
ハリーのために、陽動作戦を決めた夜。
僕は同じ寮のを呼び出した。
中庭を見渡せる夜の廊下は、人通りが少ない。
止まない雨のせいなのか、あたりの空気は冷たく、湿っている。
それは、僕らが一緒に過ごしてきた、春のような日々とは異なる風景。
同学年のと付き合い始めて2年。
数ヶ月前までは、二人で過ごす毎日が、永遠に続くと信じていたけれど。
「僕らの夢だったんだ、悪戯専門店が。」
「知ってる。」
「それに、彼(ハリー)のためでもあるし」
「・・・うん。」
の肩が、小さく震え始めた。
肩にかかるの艶やかな髪へ、思わず手を伸ばしそうになる。
の瞳に涙が溢れはじめているけれど、僕は気づかないフリをした。
「どうせやるなら派手になるし、とはもう・・・」
「でも、夕方でしょ?」
「いや、朝から忙しくなる。」
「・・・」
「それに、にまでとばっちりを受けて欲しくない。」
「ジョージ。」
「、愛してるよ。」
のその瞳から、こぼれ落ちた涙が頬をつたう。
を・・・抱きしめたかった。
抱きしめて、その瞳に浮かぶ涙を、キスですくってあげたかった。
でも、それをしたら、の手を離せなくなる。
を、つれて行きたくなる。
沸き起こる全ての衝動を押えるために、僕は拳を強く握り締めた。
「・・・だから、さよなら。」
* * *
「なに、ぼんやりしてるんだよ」
目の前のフレッドは、すでに食事を平らげていて。
僕もあわててすっかり冷め切ったスープを口に運ぶ。
「きになるのか?」
「え?」
「のことだよ」
口に放り込んだバケットが、一瞬にして口内の水分を吸収した。
思わずむせそうになる。
紅茶を流し込み、嚥下し辛かったバケットをようやく飲み込んだ。
「さすが兄弟、お見通しなんだな。」
息を落ち着かせつつ、フレッドに視線を移せば、案の定というか。
余裕の笑みで僕をみていた。
「ジョージ、顔に書いてある。」
「そうかもな・・・。夢を、見るんだ。」
「夢?」
「ああ、の夢。教室の窓辺にたたずむの瞳が寂しそうで」
「おまえら・・・別れたのか?」
言葉に詰まる。
さよならの挨拶は、した。
待っていてほしいとはいえなかった。
だから・・・別れた、のかもしれない。
「さよならは、言った」
「ジョージ・・・相変わらずだな、その辺の不器用さ。」
「不器用って、言うな。」
「は、なんて?」
「・・・ずっと、好きって。。。」
「だろうな。」
フレッドは、おもむろに封筒を取り出し、なんの変哲もないそれを、
僕の目の前でひらひらとさせた。
「おまえの、お姫様からの、手紙。」
「?!」
「まぁ、俺宛の手紙に同封されていたというか」
「がフレッドに?」
「まさか!」
差出人は、就職が決まり、先日ホグワーツから戻った
アンジェリーナで。
僕はホッと胸をなでおろす。
便箋を開けば、かわいらしい、の文字。
『ジョージへ
お元気ですか?
覚えているかな、将来の夢を話したこと。
つきあいはじめて、すぐの頃
私は、聖マンゴの癒者になります。
といってもまだ見習いからですが。
やっと、すべての支度が整いました。
ジョージとの思い出が詰まったホグワーツとも、
今週でお別れです。
ジョージがジョージの夢をかなえたように。
私も、私の夢をかなえます。
お互い、頑張ろうね!
・
追伸
あの夜の、ジョージの気持ち。
私は、ちゃんと理解しているから。
ジョージ、大好き。 』
思わず、この手紙をしたためるを想像してしまう。
きっと涙をこぼしたのだろう。
便箋のすみに、その痕がある。
僕はを傷つけた。
それなのに、はきちんと僕のことをわかっていた。
「目の前のことしか、見えてなかったんだな、僕は。」
「しかたないだろ」
「のこと、わかっていたつもりだったんだ。でも」
「でも?」
「のほうが数倍、僕のことをわかってたんだ・・・」
「まぁ、に限らず、女のほうが大人だってことさ」
俺も人のこと言えないから、そうフレッドはつぶやいた。
* * *
翌日。
フレッドに店番を押し付けて、キングズ・クロス駅へ足を運ぶ僕がいた。
今週、ホグワーツ特急が到着する日は、今日しかない。
に、逢える。
9と3/4番線ホームには、真っ赤な機関車が到着したばかりで。
僕は人ごみをかきわけ、を探す。
ちょうど7両目のコンパートメント脇を通り過ぎたとき、
8両目のドアから降りてきたを、見つけた。
トランクを抱えたは、少し髪が伸びていて。
「!」
「ジョー・・・ッ」
たった3ヶ月なのに、とても長いあいだ、を抱きしめて
いなかったような気がして。
確かめるように、両手でしっかりと、僕はを包み込んだ。
「1人ぽっちで、過ごさせてごめんよ」
「うん」
「寂しい思いをさせて、ゴメン」
「ううん」
「もう、離れない。」
「ジョージ・・・」
「これからは、が夢をかなえるまで、待つよ」
離さない。
いままでも、そしてこれからも。
僕が心とらわれるのは、、君だけだよ。
「、愛してる。」
END