アイツのところには。
、この意味がわかるかい?
Never let you go
「嗚呼!もう・・・イヤ!」
寒々しい地下牢へと続く廊下に、羊皮紙の束が散乱する。
魔法薬の授業のレポートを回収するという、それはそれは
名誉(?)な、お役目。
30人分の羊皮紙2巻きを、私、1人で回収させるなんて。
「まったく、スネイプ先生ったら・・・」
ちらばった羊皮紙を片手に、不満が口をついて出てしまう。
魔法薬学。
私の成績は、良くも悪くもないし。
かといって、授業態度が悪いとは思えない。
それなのに・・・
「ミス・。」
授業が終わると、あの低い声は、なぜか私の名を呼ぶ。
スネイプ先生は、なにかと用事を頼む。
それも当番など関係なく。
「はぁーーー、レポートなんて、授業の始まる前に回収
すればいいものを、授業のない日を指定するなんて!」
そうつぶやきながら、グリフィンドールとスリザリンのレポートを、
各寮ごとに分けつつ集めていると、指先にあったはずの羊皮紙が、
ふわりと宙に浮いた。
「まったくだよ、スネイプの奴。なに考えているんだか。」
羊皮紙の行き先をたどり、視線を上げれば。
ひょろっとしたその体をかがめた、同じ寮の双子の片割れ。
間違いなく、彼はフレッド。
私が今、好きな、ヒト。
とはいえまったくの片思いで。
このキモチは、彼には悟られたくなくて。
他の生徒と同じく、私は見分けられないフリをする。
「ええっと、フレッド?」
「やぁ、・。いつもいつも、災難だね。」
「ほんとよ、スネイプ先生のお手伝いなんて、最悪!」
私の言い方が面白いのか、フレッドはククッと声を抑えて笑った。
こんなやりとりでも、話せるのがうれしかったりするわけで。
おなじ寮の赤毛の双子。
フレッドとジョージは、魔法薬学の授業に一応参加しているけれど。
「そういえば、フレッド、レポート提出していないわよね?」
「ああ、ジョージもね。」
「このままだと、『グリフィンドール、10点減点!』ってなっちゃう。」
「・・・、それ、似てない。」
一応、スネイプ先生の声色を真似してみたのに。
あっさりと否定されて、しかもフレッドは笑い転げている。
「ちょっと、笑いすぎじゃない?」
「そ、そんなことないって。・・・面白すぎ!」
お腹を抱えつつ、ゆっくりと立ち上がったフレッドの手には羊皮紙の束。
見渡せば、散らばっていたはずのレポートはなくなっていた。
「では姫君、このフレッドめの護衛で、地下牢へと向かいましょう。」
右手を大きく振りかぶり、うやうやしくも華麗な、フレッドの挨拶。
私よりも多めに羊皮紙の束を抱えた騎士が、ちょっとだけ頼もしく感じる。
「そうね、では参りましょう。」
しずしずと、貴婦人のごとく歩みを進めたつもりが・・・
グラッ
ほんの少しの段差につまずいて、バランスを崩してしまった。
転ぶ!
そう思ったのに・・・ガッシリとした右腕に、その身は囚われた。
「、君って本当にあぶなっかしいね・・・大丈夫?」
力強い、男の人の腕。
フレッドの腕に、私は支えられていて。
引き寄せられた私の体は、すっぽりとフレッドに包まれた。
「あ、ありがとう。」
お礼を口にするも、なんだかぶっきらぼうになってしまう。
意識せずにはいられない。
フレッドの、体温を感じて。
フレッドの、ムスクの香りに包まれて。
なにより早まった鼓動が、耳にまで届いてしまって。
「」
私を包むその腕は、緩むことがなく。
耳元に、フレッドの声が響いた。
ドクン
心臓が飛び跳ねる。
どうしよう、どうしよう。
「、ひとりでスネイプの所にいくなよ」
「・・でも。」
「行くときは、僕を呼んで。」
耳元に届くフレッドの声は、とても真面目で。
ぎゅっと、私を包むフレッドの腕に、力が入るのがわかった。
「どうして?」
「どうしてって・・・この状況でわかって欲しいんだけど。」
フレッドは腕をゆるめ、一歩下がり、私に向き合った。
その瞳は、いつものおふざけのフレッドとは違って。
凛とした、真剣なまなざし。
「僕は、のことが好きで。」
「え・・・」
「スネイプのところへ、行かせたくないってこと。わかった?」
「は、・・・はい。」
頭が真っ白って、このことを言うのね。
ずっと気になっていたフレッドからの、突然の告白。
それが、とても嬉しくて。
フレッドと一緒に、羊皮紙を抱え、廊下を並んで歩く。
幸せすぎて、なんだか雲の上を歩いているような感覚。
あんなに長い道のりと思っていたのに。
気がつけば、地下牢の前に到着してしまった。
「ところで。僕と付き合ってくれるんだよね?」
ドアノブに手をかけたフレッドが、不意に振り返った。
強引なフレッド、だけど彼らしくて。
「私は、フレッドが好きだから・・・その、よろしくおねがいします」
「それでは遠慮なく。」
ニヤリと笑みを浮かべつつ、フレッドはひょいと腰をかがめた。
瞬間、
目の前が真っ赤になって、唇に温かな感触が伝わる。
フレッドの唇が、私の唇に触れた。
「は、僕の。 誰にも、渡さないよ。」
END