さよなら。

好きだった人。

さよなら。

大好きだった場所。

さよなら、さよなら。



On the day of the departure.





荷物は全て、トランクにつめこんだ。

 「ミス・。したくはできましたか?」

少し咳払いをしながら、マクゴナガル先生がドアの向こうから
声をかけてきた。

ドアノブに手をかけたけれど、また振り返り、部屋を見渡す。

山の向こうから昇り始めた初夏の日差しが、ゆっくりと部屋を明るくし、
すこし開けた窓にかかるカーテンは、さわさわと揺らめいている。

7年間。
長いようで短かかったけれど、ここは間違いなく私の家だった場所。

主を失ったベッドの両脇には、ルームメイトのベッドが変わりなくあって。
そこには、安らかな寝息を立てる彼女たちがいる。

日本でいうところの「卒業式」というものがないイギリス。
それはここ、ホグワーツも同じで。
寮の表彰式と卒業生舞踏会が終わると、1人、また1人と学校を去っていく。

黙っていくのは、アンフェアだと思うけれど。
涙をみせたくなくて、私はこの方法を選んだ。


カチャリ


このドアをあけるのも、これが最後。

さよなら、さよなら。


部屋を出ると、マクゴナガル先生が静かにたたずんでいた。

 「ミス・。あなたの希望とはいえ、こんな早朝に旅立つなんて・・・」
 「先生、私はこれでいいんです。」
 「そうですか。。。ではコチラにいらっしゃい。」

何度も駆け上がった階段。
一段一段、踏みしめて、降りる。

温かな空気が広がる談話室。
この薪の香りも、今日が最後。

 「ウィーズリー、こんな朝早くからどうしたんです!?」

声を荒げたマクゴナガル先生の視線の先には・・・見慣れた赤毛の彼。
制服に身を包んだジョージがいた。

 「マクゴナガル先生、少々お時間をいただきたいのですが。」

聴き慣れたジョージのテナーボイス。
耳に心地よいその声で、胸の奥が、キュンとする。
目を見開いたマクゴナガル先生は、私に目配せをしてその身を引いた。

 「よろしい、ですがあまり時間はありませんよ?」

私はトランクをその場に置き、一歩、また一歩と、ジョージに近づく。

会いたくなかった。
会ったら決心が揺らぐから。

 「。今日、行くんだね?」

肩に手をそっと置きながら、ジョージが低くつぶやいた。
私はただただ、うなずくことしかできない。

 「手紙書くよ。またデートしよ?そうそう、マグルの公園もいいし。」

そっと私の顔を覗き込みながら、勤めて明るく振舞うジョージ。

彼の笑顔がまぶしくて。

彼の声が、心に響いて。

こらえていた涙が、とうとう溢れた。

ぽたり、ぽたりと、深紅のカーペットに涙のシミができる。
泣きたくなかった。
涙を見せたくなかった。

でも、だめだった。

 「なんで、私。年上なの?」
 「
 「ホグワーツを、離れたくないのに。」
 「
 「ジョージのそばに、い・・たっい、のに。」

涙があふれて、言葉にならない。

たった1年なのに、越えられない壁のように感じる。

 「おなじ、が、学年だったら・・よかった、のに。」
 「

刹那、私の体はあたたかなジョージに包まこまれた。

大好きな、ジョージの温もり。

大好きな、ジョージの香り。

ずっとこのまま。このままでいたい・・・。



 「コホンっ!!」

マクゴナガル先生の咳払いに、思わず身を引いた。

視線の交わったジョージと、つい微笑みあってしまう。

 「、卒業おめでとう」

そういって、ジョージがポケットから差し出したのは、小さな鍵。

 「これは?」
 「僕たちが来年、住む場所の鍵。」
 「僕たち?」
 「そう、僕と、。」

一瞬わからなかった、その意味が。

 「あ、フレッドもいるかもしれないけどね。」
 「じゃぁ・・・」
 「ダイアゴン横丁に店を出すんだ。2階が住居。で、鍵はコレ。」

旅立ちの日に、彼から贈られたのは、彼の夢だった場所の鍵。
シャランと音を立てて、私の右手におさまった。

 「一緒に暮らそう、。」
 「ジョー・・・ジ」
 「がよければ、の話だけど。」

そういって、軽くウィンクをしながら、ニヤリと微笑むジョージ。
あまりにもいつもの彼らしくて。
思わず笑ってしまう。

 「の、笑った顔が好きだよ」
 「・・・ジョージ、ありがとう。」
 「さ、馬車の時間だろ?」
 「うん。。。」

腰をかがめていた彼の唇に、私は唇を押し当てた。

ホグワーツ魔法学校の生徒として、グリフィンドールの先輩として、

最後の、最後のキス。

 「ジョージ、大好き。」
 「わかってる。」

最後に、ギュッと抱きしめてくれた、ジョージの温もり。
今までみたいに、簡単に会えなくなるけれど、きっと忘れない。




馬車の窓から、遠くかすんでいくホグワーツを、私はその目に焼き付けた。

さよなら。

大好きだった場所。

さよなら、さよなら。



END

あとがき

出発の日、まんまです。設定はジョージが6年生。
イギリスの卒業式がないという話からつくりましたが・・・微妙。
naoも明日、出発の日です。キティージェットでまた台湾。
いつかイギリスにもいってみたいなぁ・・・。 夢是美的管理人nao