ゆっくりと流れる午後のひととき
あなたといっしょに過ごせたら
Afternoon Tea Time with You.
週末の昼下がり。
誰も知らないはずのこの部屋で、私は紅茶を飲む。
大きな窓から見える湖は、水面がキラキラと乱反射している。
「もうすぐ3年生かぁ・・・」
ショートブレッドをひとかじり。
口いっぱいに広がるバターの香りを、甘めのミルクティーで流す。
入学してすぐ、風で飛ばされた羽ペンを追いかけ、この部屋を見つけた。
あれから2年目になる。
ホグワーツには、隠し部屋がいたるところにあるとは聞いていたけれど、
まさかその一つを私が見つけるなんて・・・。
「あのふたりが知ったら、さぞ喜ぶだろうなぁ」
悪戯好きな赤毛の双子、フレッドとジョージ。
組み分け帽子は私を彼らと同じグリフィンドール寮にした。
この2年間、私たちは同じ教室で一緒に授業を受けてきた。
とはいえ、会話という会話を実は一度もしたことがない。
にぎやかな彼らは、休み時間ともなれば悪戯を楽しみ、寮に戻れば
仲間と固まってなにやら話し込むのが日課だった。
それでも、彼らが何を好きで、どの授業で寝ているか。
観察しすぎて、ふたりの趣味趣向をすっかり覚えてしまった私がいる。
ちなみに今の彼らのお気に入りは、学校探検。
週末のこの時間、きっと彼らはホグワーツを探検しているだろう。
いつか、この部屋をみつけてくれたら・・・。
その時は、一緒にアフタヌーンティーを楽しみたい。
できることなら、ミルクティーの好きなジョージと一緒に。
空席のままの椅子の前には、いつでも彼に振舞えるよう、
空のティーカップを一組用意してきた。
ぼんやりと妄想にふける、いつもと変わらぬ時間になる、ハズだった。
「おや、先客かぁ。」
突然、入り口に人影が現れた。
しかも赤毛。。。見覚えのある顔つき。
「じょ、ジョージ!?」
「・、ティータイム中にお邪魔するよ」
「しかし、いい場所を見つけたなぁ。関心関心!」
バタバタと赤毛のふたりが部屋に入ってきた。
ジョージのその手には、古びた羊皮紙らしきものが握られていたけれど、
私が目に留めたのを感じとると、ササっとローブに閉まった。
「、君の寮はグリフィンドールだよね?」
「え、ええ。そうだけど・・・」
ジョージはゆっくり私に近づいて、目の前の椅子に座った。
「僕らと同じ学年だよね?」
「そうよ、もうすぐ3年生になるわね。」
「どうして僕が、ジョージだと?」
「なぜ? ジョージはジョージでしょ?」
一瞬、ジョージは変な顔をした。
なにか変なこと、言ったのかな?
気にはなったけれど、私はジョージの前に伏せていたティーカップをかえし、
屋敷しもべに煎れてもらったポットから、ミルクティーをたっぷりと注いだ。
「こんなに素敵な場所、どうして教えてくれなかったんだい!?」
少し離れたところで、きょろきょろと物色していたフレッドが、振り向きざまに
質問を投げかけてきた。
「それは・・・」
「それは?」
ありがとう、と言うとジョージはミルクティーを口に運んでくれた。
「あ・・・夢が、叶った。」
「「えっ!?」」
思わず口からついて出てしまった。
フレッドもジョージも、私の言葉に驚いているようで。
「少女趣味とか、馬鹿にしない?」
「「しないしない!」」
「あのね、実は、、、」
私が心に描いていたことを、ふたりに説明してみた。
妄想といってしまえばそれまでの、小さな小さな、私の夢。
「なんだ。そうゆいうことだったんだ。」
「ビックリしたよ、僕らはまた・・・その、なぁ。」
フレッドは、鼻の頭をかきながら言葉を詰まらせる。
ジョージはすっかり飲み干したカップを、ソーサーに戻した。
「、このブレンドは君が?」
「煎れてくれたのは屋敷しもべだけれど、茶葉とミルクは私が選んだの。」
「へぇー。」
ジョージはカップに視線をむけたまま、ちょっと考え込んでいる様子。
フレッドが何度かジョージの肩を叩くと、彼はやっと我にかえった。
「、来週もまた、来てもいいかな?」
「そうだな、ココは専用のティールームだしなって、えぇ!?」
驚くフレッドをよそに、ジョージは真剣なまなざしで、私を見つめる。
その瞳に、私の心はギュッとしめつけられた。
あぁ。。。やっぱり私はジョージが好きなんだ。
「ジョージさえよければ、どうぞ!」
確信した恋心を抑えつつ、私は笑顔で答えた。
夏休みを前にして叶った、ジョージと過ごす、午後のひととき。
あなたと向き合って、アフタヌーンティーを楽しめるなんて。
それだけでも、私は嬉しい。
この時間が、いつまでも続きますように・・・。
END