顔を真っ赤にして、僕らから必死に逃げて。
一緒に笑って、楽しかったあの頃。
、君のいない左隣が寂しさを募らせるよ。
Where are you Now?
大広間に現れたが、よたよたとテーブルの上に着地する。
その口には、4日前に咥えさせた手紙がそのままで。
同じように確認したジョージの瞳にも、落胆の色が影を落とす。
「ダメだったみたいだな、これで5回目だ。」
「もうあの家に、はいないかもしれない。」
ロンドン近郊の小さな街に、は住んでいたはずで。
賢いが手紙を持ち帰る理由は、そこに彼女がいないことを
意味していることぐらい、僕にだってわかる。
「フレッド、ジョージ。私のかわりにをお願いね!」
から譲りうけたは、我が家のエロールと変わらないお年寄り。
それでもふくろう便の不配達が、の老体が原因とは思えない。
今までだって、2週間に1度の定期便として、への手紙を届けてくれた。
「おつかれさま、。さ、お食べ。」
は、ジョージがとりだしたふくろうフードをゆっくりとついばむ。
ご老体は満足したのか、ホーと一鳴きし、ふくろう小屋へと戻っていった。
僕はといえば、その様子をぼんやりと眺めていたけれど。
手にした手紙が、切なくて。
胸が、苦しくて。
「先、もどるよ。」
ジョージはリーと大広間に残ったけれど、僕は届かなかった手紙を握り締め、
寮へと足を向けた。
たった4年間だけど、同じ寮に、同じ教室に、はいた。
僕の左隣は、の指定席だった。
こうやって廊下を歩いていれば、
「フレッド!ジョージ!」
名前を呼びながら駆け寄ってきて、その腕を僕に絡ませたのに。
いくら廊下を歩いても、、君の声は聞こえない。
「フォルチュナ・マジョール」
「あら、いつもの元気はどうしたの?」
一言多い太ったレディを気にも留めず、寮への道をすすむ。
人気のない談話室は、暖炉にくべられた薪の小さな炎が微かにゆらめいている。
その空気が、すこしだけひんやりと感じる。
ふと、暖炉脇にある深紅のソファーが目に止まる。
右隅の、あのソファーで悪戯会議をしていれば、
そっと僕の左隣に腰掛けて、興味津々に僕らの話を聞いていたね。
「フレッド、今度はなにをするの?」
「よくぞ聞いてくれた。フィルチの部屋の前に、この・・・」
小声で答えれば、聞こえないのか寄り添ってきて。
、君の香りを、体温を感じるたびに、僕は幸せをかみしめていたんだよ。
ソファーにその身を沈め、僕は瞳を閉じた。
入学当初から、あたたかな雰囲気の君が、気になってしかたなかった。
顔はとびっきり美人というわけではないし、身長も高いほうじゃない。
スタイルだって・・・まぁ、発展途上というべきだったし。
なのにどうしても、名前で呼んで欲しくて。
僕らの見分けがつかなくて、困惑する。
悪戯をすれば、逃げ惑う君が可愛くて。
が僕らを見分けてくれたときの嬉しさは、今でも覚えている。
「!」
「なぁに?フレッド。」
君を呼べば、にっこり笑って振り返る。
そのの笑顔が大好きだった。
君と一緒に、そばにいられれば、それだけで幸せだったのに。
夏の終わり。
漏れ鍋に到着した僕らは、マグルの『地下鉄』に乗り込んで、
の住む街へと向かった。
ジョージと一緒に息を弾ませ、呼び鈴を鳴らす。
エジプト土産を渡したくて。
驚く君を見たくて。
すこしでも早く、に会いたくて。
「ごめんね。私、5年目のホグワーツへは行けないの。」
君から告げられた、突然の別れ。
秋の訪れが、まさかとの別れになるなんて。
「いつでも会えるんだろ?」
「・・・たぶん」
「ここに、いるんだよね?」
「・・・たぶん」
なんとも歯切れの悪い答えばかりだったけれど、僕らは前向きに
考えるようにした。
「私のふくろう、引き取ってくれる?」
「もちのロン、まかせろよ!」
「ありがとう。」
「に頼んで、手紙をたくさん送るよ!」
「ほどほどに、ね。」
「「だから、元気でいろよ!」」
「うん。ふたりとも、元気でね。」
鳥かごを抱え込み、に手を振る。
「フレッド、ジョージ。私のかわりにをお願いね!」
も僕らに手を振り返す。
バス通りを目指しながらも、なんどもなんども、振り返って、
に手を振った。
事情を知ったパパもママも、何も言わなかった。
「大切にしてあげなさい」
ただやさしく、そう声をかけられただけだった。
ご両親の意向で、はホグワーツを去った。
5年目のホグワーツ。
僕らは相変わらず悪戯三昧。
のいない、心の隙間を埋めるかのように。
悪戯の成果は手紙に託し、に頼んでへ届けてもらった。
『フィルチに捕まって、ムチで叩かれていない?
でも楽しそうな風景が目に浮かぶわ!
フレッドもジョージも、本当に悪戯が好きなのね。
悪戯道具のレベルもかなりあがってきたし。
お店の開店が今から楽しみだな! ・』
あたりさわりのない手紙。
今思えば、からの近況はどこにもなかった。
それでもいつのまにか、からの返事が、僕らの元気の源になっていて。
僕らが手紙を出せば、翌週にはから返事が届く。
ハロウィンには、から手作りのパンプキンパイも届いた。
『はじめてだから、美味しくないかもしれないけれど。
でも、カナリアクリームとかは入っていないからね!
心して味わうように。 ・』
このままずっと、続くと思っていたのに。
『フレッド、元気でね。ジョージ、元気でね。
私のこと、忘れないでね。 ・』
短い手紙を最後に、からの返事が届かなくなった。
それどころか、僕らの手紙さえ、届かなくなった。
瞳を開くと、クリスマスツリーが寂しげに点滅している。
クリスマスまで、あと2週間。
のいない、クリスマス。
、君は今、どこにいるんだい?
END