うまれてきて、よかった。
Happy Birthday to me
当然とも言うべきか、その日の店は、大繁盛だった。
10日前から行っていた『エイプリルセール』の最終日は4月1日。
ラインナップはいつもとかわりないけれど、価格が全て1シックル。
年に何度か訪れる書き入れ時のひとつ、『エイプリルフール』に
あわせた大盤振る舞い。
普通に商売したら赤字間違いなし。
そんな馬鹿なことを僕らがするとでも?
店の名前は知れ渡っても、商品のよさを理解してもらうのが一苦労。
今回のセールはそこが狙い。
もちろん、若干内容量を減らしているとはいえ、ちゃんと利益が出る。
「いつもと同じ商品が」
「なんと嬉しい1シックル!」
「中身が軽いのはご愛嬌。」
「これを機会にお試しあれ!」
「さあさぁ、今日が最終日だよ!」
さすがに10日間連続、声も枯れかけてきた。
目をキラキラと輝かせ、商品を見入る少年。
楽しそうに語り合いながら、悪戯クッズを手に取る恋人たち。
我がウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店は人で溢れ、
僕もフレッドも目の回るような忙しさに、頭のなかは仕事の
ことだけだった。
たとえこの日が、僕たちの誕生日だったとしても・・・。
「「ありがとうございました!」」
最後の客人を見送り、フレッドが店の外へ行く。
看板を「Closed」に裏返し、店の周囲を掃除して戻ってくる。
僕は今日の売り上げを確認する。
いつもと同じ、閉店作業にはいる・・・はずだった。
「おい、ジョージ。ヤバイぞ!」
ふくろうを小脇に抱えたフレッドが、息を切らせて店内に戻ってきた。
そのふくろうはどうも見覚えのあるふくろうで・・・
「こ、コイツは?」
「そうなんだ、のふくろう! しかも誰かに悪戯されて」
の足は細い何かでつながれていたのか、その部分からは
血が滲み、痛々しい傷口が顔をのぞかせている。
「看板にワイヤーが絡まっていたんだ。見上げたら軒先に・・・」
「はやく傷の手当てを、それににも知らせないとっ!」
「くわえて問題はコレだよ、ジョージ。」
フレッドから手渡されたのは、が届けようとした手紙。
悪戯相手に開封されることを免れたとはいえ、からの手紙は
かなり傷んでいた。
『お誕生日おめでとう!*月1***でお祝いしたくて、
漏**で、この****いています。
今日はお店****よね。もちろん、わかっているけれど。
19時****待っています。 ・』
がきつくかみ締めたために、マグル製のかわいい花柄の
封筒は破れ、書かれた文字はにじみ、かなり解読不能の状態。
だけど僕らの愛する、からの手紙。
の手当てをしながら、少しづつ、フレッドと一緒に読み解く。
「とりあえず、が漏れ鍋にいるらしい。」
「お祝い、してもらえるのは、僕らふたりだよな?」
「19時まで?それとも19時から?」
「それよりも」
「なによりも」
「「今日って、僕らの誕生日だったんだよな・・・。」」
顔を見合わせ、時計を見上げた。
すでに19時半をすぎている。
エプロンをカウンターに放り投げ、店の鍵をかける。
フレッドがを抱えて走りだす。
漏れ鍋へとつづく長い小道がもどかしい。
まだがいますように。
どうか、待っていてくれますように。
* * *
「「!」」
『ハッピーバースデー! フレッド!ジョージ!』
店に駆け込むと、見慣れた顔がそこかしこに。
フレッドはその手から思わずを手放した。
ふわりと飛び立ったは、ホールの一番太い梁にその身を落ち着かせた。
見渡せば、リーにアンジェリーナもいる。
懐かしい、元グリフィンドールの同級生。
その中心に、がいた。
「忙しかったのに、急にゴメンね!」
駆け寄ってきたは、とても申し訳なさそうにつぶやく。
口の前で手を合わせた、アジアらしい謝りかた。
おまけに上目遣いでそんな表情をされたら・・・
「「、ありがとう!」」
さすが相棒、同じタイミングでを抱きしめていた。
温かくて、やわらかい。
久しぶりのの感触。
「もう、ふたりとも苦しいって!」
はぐいっと体を押しのけ、僕らをテーブルのほうへと追い立てた。
もっとを堪能したいのに・・・。
ふと横をみれば、フレッドも名残惜しそうに口を尖らせていた。
「Happy Birthday to you 〜 Happy Birthday 〜...」
ホールにバースデーソングが響き渡る。
漏れ鍋で、しかも旧友に囲まれてバースデーパーティーとは。
くすぐったい気もしたけれど、7年間同じ寮で過ごしてきた懐かしい面々と
に囲まれて、僕らは19回目の誕生日を迎えた。
「イースター休暇に入ってすぐだよ、から連絡があって」
「2人の誕生日をロンドンで祝いたいとさ」
「仕事も間もなく2年目でしょ? だいぶ落ち着いたしね。」
「この時期なら、お祝いできるもの!」
の発案だと、皆が教えてくれた。
卒業までいなかった僕ら。
ホグワーツを退学してから、同級生とはまともに会っていなかった。
卒業の時期をすぎて、店へ顔をだしてくれた奴らもいたけれど。
それでも全員とは挨拶できないまま。
がむしゃらに働き始めて2年。
嬉しいときも、悲しいときも、楽しいときも、辛いときも。
同じ教室で、同じ寮で、一緒に年を重ねていった皆に、会えた。
そう、がいてくれたから。
「に出会えて、よかったよな。」
「ああ、本当によかった。」
「それ以上に」
「「生まれてきて、よかったな。」」
テーブルの向こう側で、楽しそうに会話をするをみながら、
僕らは、この世に生を受けたことに感謝した。
Happy Birthday to me.
END