ごめんね。

いっぱい傷つけて。

ごめんね。

素直になれなくて。


I'm not in Love




 「ねぇ、。ちょっと見せてもらえるかい?」

唯一得意な天文学の授業が終わり談話室へと戻ると、待ってましたとばかりに
双子の片割れが羊皮紙の束をヒョイと取上げた。

 「ジョージ、ちょっと返してよ。返してってば。」
 「お、やっぱり見やすいな、はまとめるのが上手!」

背の高いジョージが、その腕を高く上げ、ばさばさと羊皮紙を見ている。

ずるい。

そこは、背の低い私が手の届かない領域。

 「あとで返すから、ちょっと借りていくよ!」
 「あとって、あの、困るんだけど・・・。」
 「あとで、ね?」

軽く右目をウィンクさせて、ジョージは男子寮の入り口で待っているフレッドの元へと
駆けていった。

 「またなの? まったく、ジョージときたら・・・」
 「、羊皮紙をローブに隠しなさいってアレほどいったのに」

振り返れば、アンジェリーナとアリシアが呆れ顔で立っていて。
私はいつものように、溜息をひとつ、ついた。
 
 「とりあえず、返してくれるから。」 
 「でも毎回じゃない!」
 「復習できないっていったの、よ?」

そう、たしかにそういった。
とはいえ実際は、きっちり復習はできている。
ただ、困ることは別にあった。


* * *


時計の針が1時をすぎる頃、私は談話室へ続く階段を下りる。
パジャマのままではなく、私服に着替えて。
暖炉の前には、いつもと同じように、赤毛の先客がいて。

 「やぁ、。来てくれてうれしいよ。」
 「こんばんは、ジョージ。」
 「ホットチョコ、飲む?」
 「うん。」

天文学がある水曜の深夜、ジョージと過ごすのが日課になっていた。
といっても1時間程度。
レポートを写すジョージの質問に答えて、少し雑談するだけ。

ただ、翌日の魔法史の時間がとっても眠くなる。
私の「困る」理由はソレだった。

ジョージの会話は面白いし、なにげに紳士。
ホグワーツの中では結構人気があるし、私自身、彼の悪戯好きなところさえ
なければ、憧れていたと思う。
事実、彼と過ごす1時間はキライではなかったから。

 「のレポート、本当にわかりやすいよ。」
 「お褒めいただきありがとう。で、写し終ったの?」
 「一応。でもこの座標変換がイマイチなんだ。」

カフェテーブルをはさみ、ジョージの向い側に座った。
羊皮紙に目を向けるジョージは、まつげが長くて。
額にかかる赤毛も、さらさらとしてキレイで。
思わず見入ってしまいそうになるのを振り払い、私も羊皮紙に目を移す。

 「あ、ちょっと惜しい!」
 「そうかい?」
 「時角を忘れているだけよ。変換式を思い出してみて? でね・・・」

ジョージは私が説明するのを、ニコニコと嬉しそうに耳を傾ける。
彼は、本当は成績優秀なのじゃないかと思う。
もちろん、頭の回転がよくなければ悪戯もできないだろうし。
本気を出せば、監督生にもなれそうなのに。

 「おお、なるほど! わかったよ、。ありがとう!」
 「これで来週のテストは問題ないでしょ?」
 「まぁね。にはそろそろお礼をしないとな・・・」
 「お礼?」
 「そう! 今度のホグズミード行き、一緒にどう? バタービールでも。」

ホグワーツでの生活が5年目に突入して、すでに4ヶ月目。
水曜の深夜をジョージと過ごすのも、4ヶ月目。
彼なりに気を使ってくれているのが、ちょっと嬉しかった。

 「ジョージ、私は気持ちだけで十分よ?」
 「そんな。、つれないことを言わないでおくれよ。」
 「私はジョージが天文学を好きになってくれれば、それで十分!」
 「・・・」
 「もう2時ね。おやすみなさい、ジョージ。」
 「・・・おやすみ」

ちょっと元気のないジョージが気になったけれど、私は自分の羊皮紙の束を
抱えて、談話室を後にした。


* * *


暖かな午後の日差しが差し込む教室での魔法史は、眠気との戦いで。
惜しくも敗れた私は、クラスメートよりも少し遅れて教室を出た。
いつものように、太ったレディーの前に立ち、寮へ戻りかけたその時、

 「あの、ききたいことがあるんですけど。」

振り向くと、ブルー&グレーのタイ。
ブロンドにライトブルーの瞳がきれいなレイブンクローの女子生徒。
周囲には誰もいなかったけれど、思わずあたりを見回してしまった。

 「ええっと、私でいいの?」
 「5年生のさんですよね? 突然でスミマセンが・・・」
 「?」
 「ジョージのこと、好きなんですか?」

顔を真っ赤にした彼女は、私から見ても可愛かった。
って、ちょっとまって。
 
 「私が誰を好きなのかって・・・へ?」
 「あの・・・私、ジョージが好きなんです。」
 「は?」
 「・・・さん、ジョージのそばから離れてください!」

目の前が真っ暗?

真っ白?

思考停止。

 「ちょ、ちょっと。あの。意味がわからなくて。」
 「ジョージが好きじゃないなら、離れてほしいんです!」
 「離れるも何も、私、そんな」
 「離れてください!」

そう言い放って、彼女は階段を駆け下りていった。

 「ちょっとした修羅場のようね」

呆然とする私に、太ったレディーがつぶやく。
見上げれば、ちょうどジョージが上階から降りてきたところで。
真っ赤な夕日の差し込む大回廊で、目が合ったジョージの頬が、その髪と同じくらい
赤く染まっているのに、私は気づかないでいた。

 「ジョージ、丁度よかったわ。」

階段を駆け上がり、ジョージの元へと近づいた。

 「レイブンクローの生徒が、あなたに想いを打ち明けたいみたいなの。」
 「・・・そう」
 「私はクラスメートなだけなのに、彼女ってば、勘違いしているみたいで。」
 「・・・」
 「ジョージ、どうしたの?」

いつもなら明るい笑顔で受け答えしてくれていたジョージなのに。
合言葉だけつぶやいて、彼は寮へと戻ってしまった。

 「へんなの・・・ジョージったら。」



その日を境に、私はジョージと会話する機会がぐんと減った。

授業中の彼はといえば、相変わらず寝ているかフレッドやリーと密談しているけれど、
天文学の後にレポートを盗られることは、なくなった。

ジョージと過ごしていた水曜の深夜に談話室を訪れても、そこにはパチパチと
ただ薪がはぜる音だけが響いていて、人影はなかった。

ジョージから話しかけることもなければ、私から挨拶以外で話しかけることもなくなった。

月曜日。
廊下で見かけたジョージは、あのレイブンクローの女子生徒と楽しそうに話していて。

その光景をみて、なぜか胸の奥が、ずしっと重くなった。
まるで鉛でも飲み込んだかのようで、気分までも重い。
まもなくクリスマスだというのに。

私はこの気持ちに耐えきれなくなって、アリシアに相談した。

ジョージにレポートを盗られるのがイヤではなかったと。
深夜に会っていたこと。
その時間がキライじゃなかったと。
なのに今、彼と話せなくて辛い自分がいることを。

 「。自分の胸に手をあててもう一度、考えてみて?」
 「うん」
 「どうして毎週水曜に談話室へ?」 
 「レポートを返してもらうため」
 「だったら盗られないようにすればいいでしょ?」
 「でも、ジョージは天文学に興味をもってくれていたから・・」
 「そうじゃなくて。。。今の状況が辛いんでしょ?」
 「そうなの、胸が苦しくて。ジョージと話せないのが辛いの」

アリシアは、一呼吸おいて、ゆっくりと私に語りかけた。

 「、それはあなたがジョージを好きだからよ」
 「あの、でも、彼は私のタイプじゃないし」
 「そんなの、関係ないの! それ以前に、はジョージを傷つけているわ。」
 「えっ・・・?」
 「もうすこし、素直になるべきだったのかもね」


* * *


私は、ジョージの気持ちに気づかなかった。
彼は遠まわしだったけれど、なんども気持ちを伝えてくれていたのに。

 「ジョージ、天文学に興味を示してくれるのは嬉しいの。でも・・・」
 「でも?」
 「これからは、真面目に授業を受けて欲しいんだけど。」
 「それは困る」
 「へ?」
 「真面目に授業を受けたら、のレポートを借りる意味がなくなる」

私が行くとは返事をしていなかったのに、水曜日の深夜には、必ず談話室にいて。

私の好きなホットチョコを入れてくれて。

彼の微笑み。

彼の優しいまなざし。

その全てを、私は独り占めにしていたのに。

私はその彼の気持ちを、踏みにじってしまった。

あの頃に戻れたら、どんなにいいだろう。



ただのクラスメートだなんて、そんなの嘘。

本当は、あなたに夢中だった。

私は、あなたを愛していた。

ごめんね、ジョージ。



END

あとがき

ちょっと切ない夢になりました。
鈍感すぎると、色々と損をしてしまいます。
知らないうちに、人を傷つけてしまったり。
後悔しても仕方ないんですけどね・・・。 夢是美的管理人nao