その光につつまれたくて。
私は寮を抜け出して、真夜中の散歩にでかけた。
Moon Night
窓越しにみた月は、あんなに温かそうに見えたのに。
「うーーー、寒いっ!!」
頬に当たる風はピリピリと、想像以上に冷たくて、一瞬後悔したけれど、
頭上の月は、まんまる。
どこも欠けていない満月で、それでいてキレイな黄色。
少しでも近づきたくて、徐々に高度を上げる。
「ここでいいかな・・・」
箒を水平に保ち、一息つく。
結構な高さまで来ているようで、ローブを着て凌げる寒さの限界のような
カンジがする。
ホグワーツの光は、遥か足元に。
大きな月は、手が届きそうで。
今日みたいな、眠れない夜。
なにも考えずに、ただぼんやりと月を眺めるのも・・・悪くない。
体を包む月の光は、あたたかいはずもないのに、なぜか満たされた気分になる。
「やぁ、。いい月夜だね!」
「・・・!?」
聞き覚えのある声に振り返ると、箒にまたがった赤毛のクラスメート。
彼はフレッド。
月の光に照らされて、その赤毛はまるでブロンドのように見える。
「フレッド、いつの間に?」
驚きが隠せない。
そう、誰にも見つからないように、こっそり抜け出したはずだったから。
よりにもよって、フレッドだなんて。
「いつの間にっていうか、きっと同じタイミングだったのさ。
気がついたら併走していたんだし。それに、僕だって散歩ぐらいするよ?」
そういって絶妙なバランスで、箒の柄に寝転がるフレッド。
クィディッチの選手の彼にしてみれば、どうってことないしぐさだろうけれど。
「お、お願い! この場所でその体制になるのは、やめて〜!」
「おいおい、なんでだい?」
「だって・・・見ているだけで、こ、コッチが怖いもの!」
高いところは嫌いじゃないけれど、今にも下界に落ちそうなクラスメートを
安穏として見れるほどの根性を、私はあいにく持ち合わせていない。
「あの〜、。僕はこれでも・・・」
「ビーターだって言うんでしょ?」
「クィディッチ嫌いなも、僕のポジションは知っているわけだ。」
「うぅ・・・」
何もいえなくなる。
私のクィディッチ嫌いはグリフィンドール寮生ならば周知の事実。
とくに運動が苦手なわけでもなくて。
ただ、高速で移動しつつ不安定な姿勢で競技を行うという、あの無謀な行為を
直視できない弱虫なだけ。
「フレッド、なぜ散歩にきたの?」
無理やり話題をかえるべく、ふと思いついた質問をフレッドにぶつけた。
「月がきれいでさ。この光に包まれたいなって思ったんだ。」
「え?」
ドキリと私の心臓が高鳴る。
同じような衝動にかられて、この寒空の下、月に向かって箒にまたがっていたなんて。
しかも、あのフレッドと。
「僕にだって眠れない夜ぐらいあるよ。」
私の無反応さに、なんとなく察したフレッドが、少し拗ねたようにつぶやいた。
「ねぇ、僕も質問をしてもいい?」
「ええ、いいわよ?」
「なぜ散歩にきたの?」
答えに躊躇してしまう。
あなたと同じとは言えだせなくて。
なんだか笑われそうなきがして。
「まぁ、月光浴ってところかな?」
「へぇ〜、そうなんだ。僕はてっきり・・・」
「てっきり?」
途中で言葉を濁したフレッドが、スイっと私の近くまで箒を寄せた。
「僕と同じ、月に魅了されているのかと思ったのに」
まるで心の中を見透かされたようで。
フレッドの言葉ひとつで、私の心は急上昇と急降下を繰り返す。
「なら分かってくれると思ったのに・・・寂しいな〜」
すこし残念そうに、そういい残し、フレッドはホグワーツの光に溶けていった。
次の満月の晩、もしもあなたにあえたなら。
今度は素直な気持ちを、あなたに伝えたい。
「私もあなたと同じよ、フレッド」
END