「ねえ。」
聞こえているよ。
「ねえ、ねえってば!」
わかっている、でも今は答えない。
君が僕の名前を呼ぶまでは。
Please call my name
「ロン!あなたのお兄さんたち、返事をしてくれないの!!」
悲痛な顔をして、我が弟ロニィー坊やに泣きつく。
アジアの日本から来たは、真っ黒の髪に、真っ黒な瞳。
温かみのある陶器のような肌。
薄紅色のぷっくりした唇。
二つ年下のカワイイ1年生。
窓の外をちらつく雪は、しんしんとその寒さを伝えるというのに、
寮生の集う談話室は春のように暖かく、お気に入りのソファーに座ったも、
ついさっきまではハニーポップコーンを口いっぱいに頬張って、満面の笑み。
それはそれは、至福の時といった顔をしていたはずだった。
なのに、いまや泣き出しそうなその表情。
「よう、相棒。ねえっ!て呼ばれて答えるかい?」
「まったくだよ相棒。答えるはずがないじゃないか。」
「僕らにゃ」
「きちんと」
「名前が」
「あるのに」
「「言ってごらんよ、僕はだれ?」」
悔しそうな表情を一瞬した後、はひときわ大きな声で叫んだ。
「だって、だってわからないんだもの。あなたたち、似すぎだわ!」
「似すぎだとさ。」
「そりゃ結構。」
「「僕らは双子だものね!」」
はフンっとおおきな鼻息を一つして、クルリと僕らに背をむけた。
ああ、だいぶ怒っているな。
そんな君の表情も、いとおしく思えてしまう僕は・・・病気かな?
「ふたりともイイ性格してるよ、まったく。僕ら1年なんだし、もう少し優しく」
「ロン!そんなこと言ったらまた・・・っあぁ。」
チョコレートでをなぐさめるハリーの隣で、ここぞとばかり文句を言う我が弟へ
すこしばかりのお礼をし、その泣き顔を拝んでから談話室を後にした。
***
似すぎ、か。
双子だからそれは仕方がないことだよ。
入学当初、は僕ら2人をまとめて
「ウィーズリーくん!」
と呼んで来た。
まったく、困ったものだよ。
ホグワーツでその名を呼べば、僕らだけでなく、ロンにパーシーまでもが振り返る。
いくら何でもそりゃサミシイ。双子とはいえ、それぞれ名前があるというのに。
ヒドい話さ。
「僕がフレッド」
「僕がジョージ」
「「・。君は、おぼえられないのかい?」」
からかい半分、でも実は本気で、なんども言ってみた。
おぼえてほしいから、「僕」を。
僕らは意識的に見分けられないようにしてきた。
そう、ママだって間違えるほどに。
でも、今は。
には見分けて欲しい。
呼んで欲しい、僕の名前を。
「おぼえなくちゃ、だめ?」
「「だーーーめ、おぼえてよ」」
「み、見分けられない。難しいよ!」
ぷくぅーっと頬を膨らます。
そんな顔も、やっぱりかわいい。
廊下で教室で寮で。
会うたびに、ジョージと一緒にをからかう。
は僕らの新しいオモチャ。
いつもの悪戯とはまた違う、ワクワクした高揚感。
「「やあ、。さて問題!」」
「僕は誰?」
毎度のこととはいえ、ちょっと困惑気味の。
「ええっと。。。ジョージ??」
「「ブブーー!!はずれ。」」
「僕はフレッド!」
「「おしおきだーーー!」」
待ってましたといわんばかりに、に悪戯を仕掛ける。
といっても、かわいいものさ。
ちょっと気をそらした隙に、スカートをめくってみたりとか。
追いかけて追いかけて、そのかわいい口に百味ビーンズの臓物味をご馳走して
あげたりね。(たまにはチョコレート味もあげたけど)
だって、糞爆弾やベロベロ飴じゃ、さすがにかわいそうだろ?
「いやーーーー!!!」
かわいい叫び声を上げつつも、広い廊下を真っ赤な顔で逃げる 。
そんなが、かわいくて。
いとおしくて。
真っ白な雪原まで、を追いかけたくなってしまうよ。
、君には名前でよんでほしい。
僕は僕。
アイツはアイツ。
わかって欲しいよ、君だけには。
***
ぽかぽかと、暖かな日差しがふりそそぐ2月の昼下がり。
ジョージとリーがフィルチを巻いている最中、僕は廊下を歩くを見つけた。
「ねぇ、。僕はだれ? 名前を言ってみて?」
ススっとの目の前に立って、不意に声をかけてみた。
、君には僕らを見分ける術を教えたくなる。
君には間違えて欲しくないから。
僕の名前を呼んで欲しいから。
「うーーーん・・・あ、、、フレッド!」
「え?!」
胸が高鳴るってこういうことなのか?
ドキドキが、耳のそばまで響く。
「何で、わかった?」
口から飛び出そうな勢いの心臓を押えながら、たまらず尋ねた。
「フレッドの声、すこしだけダミ声だから!」
変声期を迎えた僕は、確かにジョージよりも若干。。。って
あれ?
なぜだろう、あまりうれしくない。
「じゃあ、ジョージも声変わりしたら?」
僕はあえて、意地悪な質問をにした。
「大丈夫、きっとわかるから」
自信たっぷりに言い切るに、僕は動揺した。
いつの間に?
は僕らを見分ける術を、いつ知った?
何もいえないまま、廊下に立ち尽くす僕に、は笑いながら言う。
「2人とも、似ているようで似ていないところがあったよ!」
「見分け、ついた?」
「うん、もう間違えないよ。フレッド!!」
そういって向けられたの笑顔は、冬の陽だまりのように暖かで。
僕をノックアウトするには十分で。
見分けて欲しかったのも、名前を呼んで欲しかったのも、
を好きになったからであって。
「、君にはかなわないよ。」
つぶやく僕に君は答える。
「これで悪戯されずにすむかな?」
ああ、君は偉大だよ。
きっと僕らの母親よりもね。
気づいてしまったこの思いを、いつ君に伝えようか。
悪戯のかわりに、抱えきれない愛をに・・・。
END