なんなの?なんなの??

右も左も、同じ顔じゃない!!

さっき会えた優しい彼は、どっちなの?


Sweet Sweet Sweets



、こっちへいらっしゃいよ!」

ふくろうのを入れた鳥かごを抱えて、2年生に進級するアンジェの
姿を追いかける。
ちいさなころから一緒に遊んでいたアンジェ。
幼なじみの彼女からは、ホグワーツの生活を何度もせがんで教えてもらった。
憧れていた魔法学校。
私にも入学許可が届き、晴れてホグワーツ生・・・はぁ〜、信じられない!

先にコンパートメントを確保してくれたアンジェ。
荷物を乗せ終え身軽な彼女は、私の大きなトランクを運びつつ、車内のせまい
通路を器用にスイスイとすすんでいく。
こんなに生徒があふれているというのに、彼女の身のこなしはスゴイ!
でも通路の混みようは、仕方がない。
私のように車内を移動する生徒だけでなく、コンパートメントを決めた生徒が
ホームにたたずむご両親に、発車前まで別れを惜しんでいるのだから。

「うわぁ〜、とうとうホグワーツへ行けるのね!」

今日からはじまる、魔法学校での7年間。
とても楽しみという気持ちと、初めての寄宿舎生活にドキドキが止まらない。

組み分け帽子は、私をどの寮にしてくれるのかな?
屋敷しもべのスイーツは絶品って話しだし。
なにより、どんなお友達が待っているのかな・・・。

学校生活に想いを馳せて、上の空になりながら歩く私は、あっという間に
アンジェの姿を見失っていた。

「あ、あれ? アンジェ?」

先ほどまでのドキドキとは違う、変なドキドキが止まらない。
を抱える手も、なんだかじっとりとする。

「ど、どうしよう・・・。」

いくら背伸びしても、振り返っても、アンジェが見当たらない。
窓から身を乗り出して手を振る生徒をよけながら、一生懸命前進しようとする
けれど、上手くすすめない。

「アンジェ、アンジェ、どこぉ〜?」

恥ずかしくて自慢の大きな声もでない。
なのに心細さは胸いっぱいに広がる。
出発までにはまだ時間があるとはいえ、もたもたしていたら、このままだと
パパにもママにも、お別れの挨拶をしないままになってしまう。
泣きたくないのに、涙が勝手にこみあげてきた。

「どうしたんだい? お嬢ちゃん。」

すぐそばのコンパートメントから、燃えるような赤毛の男の子が顔をだした。
それはあまりに突然で、瞳に貯まっていた涙がひっこんでしまったほど。

「あの・・・え、その・・・」

泣きそうになったなごりから、私は鼻声だった。
その状況から赤毛の男の子は何かを察したようで。
彼はタータンチェックシャツの胸ポケットをゴソゴソと探し、何かをみつけて
ニッコリと微笑んだ。

「お口をあけてごらん?」

あまりに優しい声と言葉に、私は素直に口をあけてしまった。

コロン!

乾いた音をたて、男の子の髪の毛とおなじくらい真っ赤なキャンディーが
ほうりこまれた。

口いっぱいに広がる甘さ。
鼻から抜けるのは、ストロベリーとラズベリーの二重奏。

「あまーーーい♪」

先ほどまでの寂しさは、どこにいってしまったのだろう。
私は、一瞬にして幸せな気分に包まれていた。

「さ、アンジェのところへお行き。隣の車両の二つ目だよ。」
「ありがとう!」

赤毛の男の子にお礼をいうと、意気揚々と隣の車両を目指した。

なぜ彼が、私がアンジェを探していることを知っているのか?
なぜ彼が、アンジェのいるコンパートメントを知っているのか?
そんなことなんて、まったく気にもしなかった。
とにかくウキウキして、楽しくて。
この喜びをアンジェに教えたくて仕方がなかった。

赤毛の男の子の言うとおり、車両を移動すると、コンパートメントの前で
仁王立ちしているアンジェがいた。

「アンジェ、さっき素敵な魔法使いさんに会ったのよ!」

私は思わず彼女に駆け寄った。

、あなたも今日から魔法使いでしょ?それに・・・!?」
「ん?どうしたの?」

ちょっと怒っていたアンジェだけれど、私のある一箇所を凝視したまま、
固まった。
いや、怒り心頭といったところだろうか。

、鳥かごをコンパートメントに置いて!」
「う、うん。」
「あなた、ここに来るまでに、だれかに会った?」
「そうなの、素敵な魔法使いさんがね・・・」
「悪戯好きな、の間違いよ。いらっしゃい!!」

アンジェは私の右手をしっかり握ると、ズンズン隣の車両へと歩みを進めた。
そして中ほどのコンパートメントの前で止まり、ガラっと勢いよく扉を開け、

「フレッド! ジョージ! に何をしたの!!!」

車内中に響くかと思うくらい、それはそれは大きな声で怒鳴った。
そばにいた私の耳が、キーーーンとなるほどに。

コンパートメントの中には、耳をふさいだままの赤毛の男の子が2人、
右と左、同じように座席に転がり、アンジェの声に、おののいていた。

「え?2人??」

私は思わずつぶやいた。
甘いキャンディーをくれた、赤毛の優しい男の子。
右と、左。
同じ顔の、同じタータンチェックシャツを着た、赤毛の男の子がもうひとり。

ふたりは私のある一箇所をみると、顔を見合わせ、同じようにニヤッと笑った。

「し、シンメトリー・・・双子なの?」

ビックリしている私をよそに、彼らは一生懸命、笑いをこらえているようだ。

「そうだよ、ちゃん。僕らは双子さ。」
「かわいいな〜、まだまだヒヨコちゃんなんだね!」

なんのことを言っているのか、私にはまったくわからない。

「フレッド、あなたでしょ?に試作品を食べさせたのは!」

アンジェは左側のイスに座る彼を、ビシッと指差す。

「まてまてアンジェ、誤解だよ。それに僕はジョージだし。
 ついさっきまでリーを探して、このコンパートメントを離れていたよ。
 リーは今トイレだけれどね。」
「あらごめんなさい、ジョージ。で、誰の仕業?」

鼻息荒く、アンジェは右側の彼をにらみつける。

「はいはい、降参! わたくしです。このフレッドめが寂しそうなお嬢ちゃんに、
 元気の出るキャンディーをひとつ、進呈いたしました。」

うやうやしく挨拶するフレッドは、反省の色などない様子で。

のおでこにヒヨコマークが浮かび上がっているけれど??」
「え??おでこ?」

私がワタワタとおでこを触りはじめると、笑いを堪えつつジョージが
手鏡を差し出した。
たしかに・・・うっすらピンク色のヒヨコのイラストが、おでこにあった。

「かわいいね、コレ! 占いキャンディーなの?」

ジョージに鏡を返しつつ、私はついつい尋ねてしまった。
一瞬の間をおいて、ステレオ音声の爆笑がコンパートメントを包み込む。
アンジェは、口をあんぐりあけたまま、何も言えないでいる。

ちゃん。君、サイコーだよ!!」
「相棒、おまえの人を見る目はスゴイ、イイ子で試したな!」

お腹を抱えて笑う彼らは、とても楽しそうで。
見ている私までワクワクしてしまった。

「何言っているのよ、ジョージ! を実験台にしたの!?」

正気に戻ったアンジェが質問しはじめた。

「まさか! 試作品の実験台なんて、まずはロニィ坊やに決まっているだろう?」
「そうそう。もちろん僕もジョージも試しているけどね。」
「でも、試したって・・・」

アンジェはジョージの言葉を聞き逃しはしなかった。

「そうだね、女の子では、がはじめてかもね。」

真っ赤な顔をしてジョージを怒鳴り始めるアンジェをよそに、
フレッドが私を呼び寄せた。

ちゃん、気分は悪くないかい?」
「全然、それどころか楽しくてしかたがないの! 素敵なキャンディーをありがとう。
 ねぇ、これはどんなキャンディーなの?」

興味津々の私に、2人はここぞと解説し始めた。

「フレッドの開発した試作の成功品なんだよ。」
「そう、恋の媚薬になりうるキャンディー開発途中の副産物。」
「「元気になれるキャンディーさ!」」
「おまけに恋人の数まで教えてくれる、なぁフレッド!」
「おでこに大好きな人の数が浮かび上がるってわけ!」
「元気のない、好きなあの子におひとつ。」
「喧嘩ばかりの彼氏におひとつ。」
「コレを使えば、告白前に色々確認できるだろ?」
「コレを使えば、二股三股もバッチリわかる!」
「「恋愛必須アイテムになる日も近いと思わない!?」」

双子ならでは、その息の合った掛け合いに、さすがのアンジェも閉口してしまった。
私といえば、2人のテンションに、ついついつられてしまう。

「すごい、すごいね!美味しくて面白いキャンディーなんだね!」
「「だろ〜?」」
「じゃぁ、私のおでこのヒヨコの意味は?」

ワクワクしている私をよそに、ちらりと目で合図を送るふたり。
ジョージにウィンクしたフレッドが、私の耳にそっと答えを告げる。

「ヒヨコちゃんは、男性経験ゼロってことさ。」

「え・・・。」

私は慌てて前髪をかき集め、おでこを隠しはじめた。
火が出るんじゃないかってくらい、顔が熱い。

「大丈夫、僕がおしえてあげるから。」

フレッドの大きな右手が、私の前髪をかきあげる。
生暖かくて、やわらかな感触が、おでこに当たる。
え?キスしたの?

「すこしづつ、大人になろうね、ちゃん!」

目の前には、ニッコリ笑うフレッド。

「チュっ」

今度はフレッドの顔が近づいて、音を立て、離れていった。
唇に、触れるか触れないか。
されたのは、ほんとに軽い、フレンチキッス。

「「あぁー!!」」

アンジェとジョージが、同じタイミングで声を上げた。
フレッドは私のおでこをみて、ニヤリと笑う。

ちゃん、ヒヨコが消えて数字の1になったんだけれど・・・」

さっきからドキドキはずっとおさまらないし、顔が熱いのも収まらない。
これって、これって・・・

「私、フレッドが好きになっちゃった!」

甘いキャンディーの甘い罠。

私はしっかり、その罠に、はまってしまった。



END

あとがき

アメリカ英語だとCandy、イギリス英語だとSweets。
元気の出るキャンディーは、10円飴みたいに、大きくてゴロンとした
苺味の飴玉をイメージしました。
このお話のなかでは、ビー玉サイズのカワイイキャンディー。
ずる休みスナックや血みどろヌガーといった、各種スイーツの開発途中に、
こんなキャンディーができてもいいかなって。

一目ぼれ?な、お話です。 夢是美的管理人nao